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第31話
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ベンチに腰掛けた霧島はまたも僅かに顔を歪めた。麻酔で唇の左側の感覚があまりないので、まともに煙草を吸っている気がしないのだ。うっかりすると落としそうである。
「チッ、このあと飯だというのに」
「痛むより暫くは麻酔、効いてた方がいいですよ。痕が残らなきゃいいけど」
「お前がそんな顔をすることはあるまい」
「貴方は『県警本部版・抱かれたい男ランキング』トップなんです。なのに自覚が薄いから、その綺麗な顔を綺麗なままで保つことが、妻たる僕に課せられた使命なんですよ」
「何なんだ、それは。男の顔などどうでもいいだろう」
「良くありません! これだからやっぱり僕が使命を全うしなきゃ」
「勝手に言っていろ。だが男の顔を問題にするならば、お前の方が余程綺麗だぞ?」
そこにオットー=ベインが二人を見つけてやってきた。
「十一人斬りと名誉の負傷、ご苦労だった」
平坦な口調はとても労っているように聞こえなかったが取り敢えず二人は頷く。相変わらずマフィア臭丸出しの仕立屋泣かせなスーツを眺めながら京哉が訊いた。
「他に負傷者はいなかったんですか?」
「怪我人はいない。二人死んだだけだ」
それ以上は互いに喋らず、オットーはきついバニラの香りの煙草を一本吸って屋敷に入って行った。先に煙草を消した京哉は霧島を促す。
「十二時四十分。食べられそうなら、そろそろご飯に行きませんか」
一番フェンスに近いアパート一階に入ってみると、中は言われた通りの食堂になっていた。トレイを持って並ぶとカウンターの内側の厨房からプレート類が差し出される仕組みだ。テーブルは六つ、それぞれにスツールが六つずつ作り付けられている。
客は五分の入りで屋敷内は勿論ここ以外にも食堂はあるのだろう。街なかの事務所に出ている者もいる筈で、合宿している兵隊が何人いるのか想像もつかない。
横並びで二人は食事を始めた。普段と変わらぬ表情ながら霧島はやや食べづらそうにフォークを口に運んでいる。そしてふと京哉の隣に座った人物を二人は見上げた。
「また会ったな」
薄い色の金髪に薄い茶色の瞳、キーファ=レアードだった。遠慮なく霧島が訊く。
「何でご子息様がこんな所で飯を食うんだ?」
「あんたたちが雇われたと聞いて探していた」
「私たちに何の用がある?」
腰掛けたキーファは何の気負いもなく皆と同じものを食べ始めた。
「よそ者のあんたたちに頼みがある。俺のボディガードに就いて貰いたい」
「何なんだ、それは。クライアントはあんたではなく、あんたの親父だ。直属上司はオットー=ベイン。私たちが勝手に頷く訳にいかないのは分かっているだろう?」
口に入れたパンを飲み込んでキーファは言った。
「親父に訊いたらオットーに訊けと言われた。オットーにはさっき了解を得た」
雇われ兵隊二人の人事などあっさりしたものなのだろう。無論口先だけのチンピラをお坊ちゃまのガードにつける訳にもいくまいが腕が立つのは既に証明済みである。
「ふ……ん。断る理由もすべもないな」
「有難い。これでぞろぞろ連れ歩かずに済む」
「『よそ者』ご指定とは何か意味があるのか?」
「それについてはあとだ」
三人は共に昼食をもそもそと終わらせた。食器を返して食堂を出ると二人はキーファと携帯のメアドを交換する。キーファは屋敷内へと消え二人は一旦部屋に戻った。
弾薬の補充をしていると一ノ瀬本部長から返事のメールが京哉に入る。
「どれ、【現在情報収集及び協議中にて、現状維持し待機せよ】か」
「まあ、妥当なとこですよね」
「待機中でも残弾がやたらと減っていくのはどうしてだろうな?」
「それにキーファも何か用ありげでしたよね?」
二人は頭を振り、銃とスペアマガジンにそれぞれ九ミリパラをフルロードした。
「チッ、このあと飯だというのに」
「痛むより暫くは麻酔、効いてた方がいいですよ。痕が残らなきゃいいけど」
「お前がそんな顔をすることはあるまい」
「貴方は『県警本部版・抱かれたい男ランキング』トップなんです。なのに自覚が薄いから、その綺麗な顔を綺麗なままで保つことが、妻たる僕に課せられた使命なんですよ」
「何なんだ、それは。男の顔などどうでもいいだろう」
「良くありません! これだからやっぱり僕が使命を全うしなきゃ」
「勝手に言っていろ。だが男の顔を問題にするならば、お前の方が余程綺麗だぞ?」
そこにオットー=ベインが二人を見つけてやってきた。
「十一人斬りと名誉の負傷、ご苦労だった」
平坦な口調はとても労っているように聞こえなかったが取り敢えず二人は頷く。相変わらずマフィア臭丸出しの仕立屋泣かせなスーツを眺めながら京哉が訊いた。
「他に負傷者はいなかったんですか?」
「怪我人はいない。二人死んだだけだ」
それ以上は互いに喋らず、オットーはきついバニラの香りの煙草を一本吸って屋敷に入って行った。先に煙草を消した京哉は霧島を促す。
「十二時四十分。食べられそうなら、そろそろご飯に行きませんか」
一番フェンスに近いアパート一階に入ってみると、中は言われた通りの食堂になっていた。トレイを持って並ぶとカウンターの内側の厨房からプレート類が差し出される仕組みだ。テーブルは六つ、それぞれにスツールが六つずつ作り付けられている。
客は五分の入りで屋敷内は勿論ここ以外にも食堂はあるのだろう。街なかの事務所に出ている者もいる筈で、合宿している兵隊が何人いるのか想像もつかない。
横並びで二人は食事を始めた。普段と変わらぬ表情ながら霧島はやや食べづらそうにフォークを口に運んでいる。そしてふと京哉の隣に座った人物を二人は見上げた。
「また会ったな」
薄い色の金髪に薄い茶色の瞳、キーファ=レアードだった。遠慮なく霧島が訊く。
「何でご子息様がこんな所で飯を食うんだ?」
「あんたたちが雇われたと聞いて探していた」
「私たちに何の用がある?」
腰掛けたキーファは何の気負いもなく皆と同じものを食べ始めた。
「よそ者のあんたたちに頼みがある。俺のボディガードに就いて貰いたい」
「何なんだ、それは。クライアントはあんたではなく、あんたの親父だ。直属上司はオットー=ベイン。私たちが勝手に頷く訳にいかないのは分かっているだろう?」
口に入れたパンを飲み込んでキーファは言った。
「親父に訊いたらオットーに訊けと言われた。オットーにはさっき了解を得た」
雇われ兵隊二人の人事などあっさりしたものなのだろう。無論口先だけのチンピラをお坊ちゃまのガードにつける訳にもいくまいが腕が立つのは既に証明済みである。
「ふ……ん。断る理由もすべもないな」
「有難い。これでぞろぞろ連れ歩かずに済む」
「『よそ者』ご指定とは何か意味があるのか?」
「それについてはあとだ」
三人は共に昼食をもそもそと終わらせた。食器を返して食堂を出ると二人はキーファと携帯のメアドを交換する。キーファは屋敷内へと消え二人は一旦部屋に戻った。
弾薬の補充をしていると一ノ瀬本部長から返事のメールが京哉に入る。
「どれ、【現在情報収集及び協議中にて、現状維持し待機せよ】か」
「まあ、妥当なとこですよね」
「待機中でも残弾がやたらと減っていくのはどうしてだろうな?」
「それにキーファも何か用ありげでしたよね?」
二人は頭を振り、銃とスペアマガジンにそれぞれ九ミリパラをフルロードした。
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