37 / 62
第37話
しおりを挟む
「ナフル第一基地の行状報告か?」
「そうです。アスカリド大佐には、今度は本当に中央の査察にビビッて貰いますよ」
「相手がカタギではないとはいえ、民間人殺しだからな」
「二大ファミリーの戦争も傭兵紛いの軍の加担さえなかったらここまで酷くなかったかも知れないし、RPGだの銃器類だのは軍から流れた可能性もありますしね」
「そもそも空港が軍持ちだ。武器弾薬の密輸に関わっていない筈はないだろう」
「謎だった武器の供給元も割れましたね。首都ラヴンの国際空港を経由しない他国からの密輸便もあるのかも。ヘロインの生成も他国でやってるのかも知れないですし」
同じくドレスシャツと下着姿の霧島は椅子に前後逆に腰掛けて京哉を見上げる。
「連綿と引き継がれてきた因習にはアスカリド大佐自身も関知しない、あの軍レストランの給仕役の先任曹長しか知らんようなシステムがあるのかも知れんな」
「喩え先任曹長から事実の半分も教えられていなくても、知らないじゃあ通りませんよ。責任者は責任を取る日のために祭り上げられてるんですから」
「当然だ。長の椅子は座るものではない、背負うものだからな」
「貴方の持論というか、基幹を成す考え方ですよね、これは」
「ああ。だが釣り好きの大佐も良くてトバされ、悪くてクビということか」
「まさか一緒にご飯食べたら情が移りました?」
「いや、全然」
「何気に酷薄な人ですよね、忍さんって」
「マル被にいちいち情を移すようでは身が持たん。世の中、断罪される善人も、のさばる悪人も掃いて捨てるほどいるのだからな。それでも護るべきは護らねばならん」
振動の止まった洗濯乾燥機から一抱えの衣服を京哉は出してきて丁寧に畳むとショルダーバッグに詰め込んだ。二人分のスーツはハンガーにかけて風通しする。
作業が終わると霧島の前に立ち、愛しげに前髪を指先で嬲った。
「そうやって不公平を超越したみたいに言って、普段から迷うことを知らない人だけど、内心はその善人と悪人の間で揺れてる貴方が好きですよ。機捜隊長としても特別任務でも、まるで平気な涼しい顔をして、じつは全身全霊で戦っている貴方もね」
「お前の目に私はそんな風に映っているのか?」
「普段は分かりづらいですし自覚も薄そうですけどね。そろそろ寝ませんか?」
「そうだな。眠いかも知れん。ふあーあ」
互いに腕枕と抱き枕になって毛布を被ると、三分後には二人とも眠りに落ちていた。
◇◇◇◇
昼前になってメールが入り、その携帯の振動で起こされた。とうに予測していた二人は素早く着替えながら「きた」と思っていた。そしてそれは的中する。
出て行くと探すまでもなくオットー=ベインがアパートの陰で立ったまま煙草を吸って待ち構えていた。二人を温度のない目で見つめ感情のこもらない口調で言った。
「昨日はご苦労だった」
「いえ、仕事ですから」
無表情で京哉が片言英語を繰り出す。京哉と霧島をオットーは交互に見据えた。
「ところで昨日、キーファと街に降りただろう?」
京哉にも理解できるようゆっくり発音された英語に応える前に霧島は京哉から煙草を一本貰って咥え、オイルライターで火を点けられて深々と吸い込むと紫煙を吐く。
「それがどうかしたのか?」
「まずは質問に答えろ。そのときキーファは一緒にここに戻ったか?」
「当然だろう、それが仰せつかった私たちの仕事だからな」
「戻ったのは何時頃だ?」
「さあ、夕方前なのは確かだが。で、何がどうしたのか教えて貰いたいんだがな」
面白くもなさそうな顔でオットーは口にした。
「キーファは昨日から行方不明だ。お前さんたちの言う通りなら、一度帰って独りで抜け出したか連れ出されたかしたらしい。車は事務所の近くで見つかった」
「ふん。女の所にでもしけ込んでいるんじゃないのか?」
「心当たりは当たったがノーヒットだ」
「では、もしかしてブレガーか?」
「その線でドン・ハイラム=レアードは激昂していて手が付けられない」
「中間管理職もご苦労だな」
オットーは剣呑なものを含んだ目で霧島を舐めるように見上げた。
「他人事じゃないのが分からないのか?」
霧島は涼しいポーカーフェイスで諸手を挙げてみせる。
「大の大人の監督不行届を問われてもどうしようもないな。大体、出掛ける時にメールがきて送り迎えと間はガード。四六時中見張っていろとは誰も言わなかったぞ。私たちの部屋はこちらのアパートだ、屋敷の坊ちゃんの隣ではない」
チェーンスモークしつつオットーは首を振った。
「それでもお前さんたちの仕事に手落ちがあったと取られても仕方ない。車の発見時刻から、日のあるうちにキーファがここを出た可能性が高いからな」
「昼間だったからボディガードをサボったことになり、もし夜中だったら我々は無罪放免だったのか? あんたはそういう単純な話をしに来た訳じゃないのだろう?」
「分かっているようだな。俺はもっと単純な話をしている」
「なるほど。既に私たち二人の有罪は決定済み、吊し上げを待つのみということか。冗談じゃない、鬱陶しい事になるなら契約金は返す。私たちは出て行く」
「そうはいかない。ドン・ハイラムはお怒りだ。今すぐにでも手勢を全員ブレガーに送り込もうって勢いだ。現にその方向で話がまとまりつつある」
「って、一斉攻勢するんですか?」
片言英語というより殆ど単語の羅列で訊いた京哉に殺し屋は頷く。
「そうです。アスカリド大佐には、今度は本当に中央の査察にビビッて貰いますよ」
「相手がカタギではないとはいえ、民間人殺しだからな」
「二大ファミリーの戦争も傭兵紛いの軍の加担さえなかったらここまで酷くなかったかも知れないし、RPGだの銃器類だのは軍から流れた可能性もありますしね」
「そもそも空港が軍持ちだ。武器弾薬の密輸に関わっていない筈はないだろう」
「謎だった武器の供給元も割れましたね。首都ラヴンの国際空港を経由しない他国からの密輸便もあるのかも。ヘロインの生成も他国でやってるのかも知れないですし」
同じくドレスシャツと下着姿の霧島は椅子に前後逆に腰掛けて京哉を見上げる。
「連綿と引き継がれてきた因習にはアスカリド大佐自身も関知しない、あの軍レストランの給仕役の先任曹長しか知らんようなシステムがあるのかも知れんな」
「喩え先任曹長から事実の半分も教えられていなくても、知らないじゃあ通りませんよ。責任者は責任を取る日のために祭り上げられてるんですから」
「当然だ。長の椅子は座るものではない、背負うものだからな」
「貴方の持論というか、基幹を成す考え方ですよね、これは」
「ああ。だが釣り好きの大佐も良くてトバされ、悪くてクビということか」
「まさか一緒にご飯食べたら情が移りました?」
「いや、全然」
「何気に酷薄な人ですよね、忍さんって」
「マル被にいちいち情を移すようでは身が持たん。世の中、断罪される善人も、のさばる悪人も掃いて捨てるほどいるのだからな。それでも護るべきは護らねばならん」
振動の止まった洗濯乾燥機から一抱えの衣服を京哉は出してきて丁寧に畳むとショルダーバッグに詰め込んだ。二人分のスーツはハンガーにかけて風通しする。
作業が終わると霧島の前に立ち、愛しげに前髪を指先で嬲った。
「そうやって不公平を超越したみたいに言って、普段から迷うことを知らない人だけど、内心はその善人と悪人の間で揺れてる貴方が好きですよ。機捜隊長としても特別任務でも、まるで平気な涼しい顔をして、じつは全身全霊で戦っている貴方もね」
「お前の目に私はそんな風に映っているのか?」
「普段は分かりづらいですし自覚も薄そうですけどね。そろそろ寝ませんか?」
「そうだな。眠いかも知れん。ふあーあ」
互いに腕枕と抱き枕になって毛布を被ると、三分後には二人とも眠りに落ちていた。
◇◇◇◇
昼前になってメールが入り、その携帯の振動で起こされた。とうに予測していた二人は素早く着替えながら「きた」と思っていた。そしてそれは的中する。
出て行くと探すまでもなくオットー=ベインがアパートの陰で立ったまま煙草を吸って待ち構えていた。二人を温度のない目で見つめ感情のこもらない口調で言った。
「昨日はご苦労だった」
「いえ、仕事ですから」
無表情で京哉が片言英語を繰り出す。京哉と霧島をオットーは交互に見据えた。
「ところで昨日、キーファと街に降りただろう?」
京哉にも理解できるようゆっくり発音された英語に応える前に霧島は京哉から煙草を一本貰って咥え、オイルライターで火を点けられて深々と吸い込むと紫煙を吐く。
「それがどうかしたのか?」
「まずは質問に答えろ。そのときキーファは一緒にここに戻ったか?」
「当然だろう、それが仰せつかった私たちの仕事だからな」
「戻ったのは何時頃だ?」
「さあ、夕方前なのは確かだが。で、何がどうしたのか教えて貰いたいんだがな」
面白くもなさそうな顔でオットーは口にした。
「キーファは昨日から行方不明だ。お前さんたちの言う通りなら、一度帰って独りで抜け出したか連れ出されたかしたらしい。車は事務所の近くで見つかった」
「ふん。女の所にでもしけ込んでいるんじゃないのか?」
「心当たりは当たったがノーヒットだ」
「では、もしかしてブレガーか?」
「その線でドン・ハイラム=レアードは激昂していて手が付けられない」
「中間管理職もご苦労だな」
オットーは剣呑なものを含んだ目で霧島を舐めるように見上げた。
「他人事じゃないのが分からないのか?」
霧島は涼しいポーカーフェイスで諸手を挙げてみせる。
「大の大人の監督不行届を問われてもどうしようもないな。大体、出掛ける時にメールがきて送り迎えと間はガード。四六時中見張っていろとは誰も言わなかったぞ。私たちの部屋はこちらのアパートだ、屋敷の坊ちゃんの隣ではない」
チェーンスモークしつつオットーは首を振った。
「それでもお前さんたちの仕事に手落ちがあったと取られても仕方ない。車の発見時刻から、日のあるうちにキーファがここを出た可能性が高いからな」
「昼間だったからボディガードをサボったことになり、もし夜中だったら我々は無罪放免だったのか? あんたはそういう単純な話をしに来た訳じゃないのだろう?」
「分かっているようだな。俺はもっと単純な話をしている」
「なるほど。既に私たち二人の有罪は決定済み、吊し上げを待つのみということか。冗談じゃない、鬱陶しい事になるなら契約金は返す。私たちは出て行く」
「そうはいかない。ドン・ハイラムはお怒りだ。今すぐにでも手勢を全員ブレガーに送り込もうって勢いだ。現にその方向で話がまとまりつつある」
「って、一斉攻勢するんですか?」
片言英語というより殆ど単語の羅列で訊いた京哉に殺し屋は頷く。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる