Golden Drop~Barter.21~

志賀雅基

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第36話

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「驚いたか?」

 振り向くとオットー=ベインが薄く笑って立っている。

「取引相手の代わりに俺たちだけでなく正規軍の一個小隊が待っているって寸法だ」
「ナフル第一基地司令の『地元への役務の提供』は、このことだったんだな」

「あの口の軽い軍の幹部は『役務の提供』ときたか。全く、大した軍隊だよ。ときにブレガーにも雇われて敵にもなるが、カネさえ払えば靴でも舐めるだろうな。こっち側の広場は全面的に軍に任せて、俺たちは向こうの集落側で待ち伏せる。取引時刻は零時の予定だ」

 言い置いてオットーは小隊の指揮官らしき者の方へと歩いていった。

「何に驚いたってあんただ、ペイン・レス=オットー」
「ですよね……」

 見事に気配が消されていたのだ。あのまま首をバッサリやられても気が付かなかったかも知れず、二人は知らず身をこわばらせていた。ぱさりと霧島は頭を振る。

「面倒だが当たってしまった以上は、ここの軍のやり方も報告せねばならんな」
「勿論ですよ。ことが終わったら本部長を通して日本政府からキシラン政府、牽いてはキシラン軍を監督してる米軍上層部にも通報してやるんだから!」

 息巻く京哉と共に霧島は小径を横切って、オットーに指示された通りに集落側へと移動した。冗談抜きで味方に背中を撃たれたくないので、なるべく後方に陣取る。

「十五分前か、そろそろだな」

 全員が気配を殺して待ち受ける中、ブレガーの貨物トラックが四台連なりやってきた。取引相手とのサインでもあろうか先頭のトラックがパッシングをする。前照灯を点けたままでブレガーの貨物トラックは停止し、ドライバーと助手が車から降りた。

 その二人の頭部に向けて小銃が発射されたのが戦闘開始の合図だった。

 先頭と最後尾の貨物トラックの荷台から男たちが銃を乱射しながら降りてくる。兵士が放ったグレネード弾が男たちの足元で爆発した。周囲が一瞬、明るくなる。

「ハエ叩きのハエだな、これは」
「でもすんごい数ですよ、何人乗ってたんでしょうね」

 そうやって暢気に観戦していられたのは最初だけだった。数分もしないうちにブレガーファミリーの手下たちは応戦し始め、数に任せて幾人かが森の中へと逃れる。
 暗い森に紛れられると判別は困難で、自然と撃たれてから撃ち返す形となった。霧島と京哉は背中合わせで息を殺し、神経を尖らせて周囲の気配を探った。

 二発が霧島の傍の大木に着弾、反射的に九ミリパラを放つ。マズルフラッシュ目がけて撃った二発は命中、男が呻いて斃れた。その間に京哉側に赤いバンダナのない男が現れ、こちらは撃たせる前に撃った。容赦のないヘッドショットで男は頽れる。

 気付くとトラックの向こうが明るい。火を焚いたらしくかなり視界が良くなった。と、思った瞬間、反射的に長身を沈ませた霧島の頭上を一連射が通り過ぎた。
 発射速度の速いサブマシンガンだ。撃つなり樹の陰に隠れた男に速射で対抗する。樹の幹ごと削り取るように二発、湿った音がしてサブマシンガンは沈黙した。

 小径の方では貨物トラックを挟んで攻防が行われているらしい。派手にマズルフラッシュが閃き爆音がしている。だが積極参加する気のない二人は殆ど動かなかった。

 殺気に対し霧島は発砲。三発は綺麗にダブルタップとヘッドショットを決める。

 場違いなくらい軽快な音はまたもサブマシンガン、京哉が素早く身を沈ませて膝撃ちで応射。霧島も振り向き左腕で顔を庇いつつ京哉の頭越しに撃った。
 三人の敵に向かって遠慮なくぶちかます。トリガに掛かった指ごと銃を弾き飛ばされ、胸を撃ち抜かれた二人が吹っ飛んで大木に背を叩きつけた。一人は京哉が斃している。

 やがて銃声が遠いものだけとなり、二人は静かに周囲の様子を窺った。

「そろそろ終わりじゃないのか」
「この辺はもう気配もないですね」

 遠く響く散発的な撃発音を耳にしながらゆっくりと集落のふちまで後退する。二人してしゃがんだ。京哉は煙草を咥えて火を点けると火口を片手で覆い隠す。

「四十人くらい、いたか?」
「この前の二十一人と合わせて、かなりの痛手なんじゃないですかね、ブレガーは」
「百人飼っていても半分以上だからな」

「飼っていたのは百五十七人、事務所で二十二人と工場襲撃の二十一人、今日の四十二人も全員ご遺体となれば、残りは七十二人ですね~。フヒヒヒ」
「うわっ、ベルジュラック! 葬儀屋が何故ここにいる!」

 これも背後に立っていた。それもしゃがんだ二人を頭上から覗き込んでいたのに全く気配がしなかった驚きで二人は仰け反る。キッチリ黒服を着込んだ男は恬然と胸を張った。

「ご遺体ある所に葬儀屋あり。いわば職場に出勤してきただけです。それにわたしは牧師の資格も持っていましてね、葬儀に関わる全てを安心サポート致しますよ~。フヒヒヒ」
「答えになっていないんだがな」

「それにその詳細情報はいったい何処から得てるんですか?」
「何度も葬儀を任されておりますうちに、参列している生者の顔も皆、覚えてしまうんですよ。この方がご遺体になったら死に化粧はブルー系にしようとか思ったりしてですね」

 やっぱり気味が悪かった。だが葬儀屋は不気味なモノを見る目など意に介さない。

「本当にそろそろ終わり、わたしの出番のようですね。さあて、早速ご遺体の回収に参らねば。またお目に掛かりましょう。ああ、忙しい忙しい~。フヒヒヒ」

 踊る足取りの黒服が夜闇に融けるまで目で追い、京哉は煙草を消して吸い殻パックに入れポケットに仕舞った。二人して腰を上げる。サボって目立つのも拙い。

 そこら中にあるご遺体を避けながら小径まで出て行ってみると、当たり前だが圧倒的な火力を前にブレガーの手勢は全滅したらしく、既にブレガー側の貨物トラックから積み荷の茶葉や阿片の箱が、軍用大型ヘリに運び込まれている最中だった。

 レアードのものとして取引されるのであろう荷物運びを二人も適当に手伝う。それこそ阿片には火でもつけてやりたい想いを抱いていた霧島だったが、ここでそれは自殺行為である。尤も紅茶も阿片も箱は同じで中身の違いも分からなかった。

 作業が終わってやってきたレアード側の貨物トラックに乗り込んだのは十二人だった。減った三人は軍用ヘリで取引か、鹵獲したブレガーの貨物トラックか、はたまた葬儀屋に安心サポートされているのかは分からない。

 出発するなり霧島は京哉と肩を預け合って眠る体勢だ。だが荷台は銃撃戦で興奮した男らが自慢話に花を咲かせていて五月蠅く、容易に眠らせては貰えなかった。
 それでも目を瞑り視覚という莫大な情報量をシャットアウトするだけでも脳の疲れはある程度癒える。明け方、屋敷に着く頃には却って霧島はすっきりしていた。

 何はともあれ部屋に戻って銃を分解清掃すると、また屋敷内の武器庫から九ミリパラを調達した。そうして何気なく食堂に向かうと夜食か朝食か分からないシチューが振る舞われていた。食してまた部屋に戻ると交代でシャワーを浴びて硝煙を落とす。

 霧島は二人分の衣服を丸ごと洗濯乾燥機に放り込んだ。もう国外での特別任務時には防シワ加工・ウォッシャブルのスーツを着てくることに決めている。
 回しながら狭いシャワーブースから出ると、京哉は下着にドレスシャツ一枚という姿で携帯を操作していた。
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