Golden Drop~Barter.21~

志賀雅基

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第35話

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 再び発車させて街に入った。なるべく人目につかぬよう大通りを避けて入り組んだ路地を選び走らせる。不案内ながらも小さな街だ。幸い方向感覚も悪くない。

 暫く走らせ保安官事務所の裏を通ると、二百メートルほど先のレアードの事務所の手前で車を乗り捨てた。徒歩でこっそり戻った方が目立たないだろうと相談した結果である。

 街から戻った風に見えないよう芥子畑の中を歩き、大きく茶畑を迂回して工場のある側から屋敷の敷地に戻るという工作もした。だが屋敷の周囲は今夜の襲撃準備に追われる男たちが忙しそうにうろついて二人に目を留める者はいなかった。

 部屋に戻るなり二人の携帯にメールが入る。内容は今夜の襲撃の予定表だった。

「十八時半には夕食、十九時十五分出発ですか。ふうん」
「いやに時間設定が細かいな」
「そうですね。ブレガーも茶葉はともかく阿片取引の時間は極秘の筈でしょうし」

「スパイでも飼っているのか、それとも――」
「取引相手から洩れたかでしょうね」
「取引相手は首都ラヴンの業者だろうな、軍空港経由で。……そういうことか」

「何か分かったんですか?」
「別に気付けば大したことではない、当然の帰結というヤツだ。幾らデカい島とはいえ住人も職業も限られているのだから、関係しているとすれば役割も自ずと決まる」
「何です、それ。教えてくれるんですよね?」

 短く話して頷き合った二人は早めに食堂で夕食を摂り、部屋に戻って京哉が何本か煙草を吸うと、もう出発の時刻になる。
 昼間はいい季候だが夜は少々冷え込むのは分かっていたが、しかし銃撃戦をしに行くのにコートは邪魔なので羽織らず外に出た。

 屋敷周辺を照らし出すライトの中、アパート前に貨物トラックが二台並んでいた。襲撃要員が屋敷とアパートから続々と吐き出されては荷台に乗り込んでいる。
 当然ながら皆が銃で武装していたが格好は様々で、ジーンズにTシャツという軽装の若者から、自腹で誂えたのか本格的な戦闘服を着込んだ者もいた。

 却って珍しいスーツ姿の霧島と京哉も先達に従って荷台のステップを登る。

「一台につき十五人ずつでも、たったの三十人。その程度で『死にものぐるい』に対する大規模作戦な訳ないですよね。きっと忍さんの予想は当たりですよ」

「当たりなら仕事が楽になるだけだが、それよりこちらの味方の顔、覚えてるか?」
「そんなヒマなんてありませんでしたよ。食堂で見た人がいるかも、くらいです」

 そこで付き合いの悪さのツケを解消するグッズの赤いバンダナが全員に渡された。

「原始的なIFFだな。夜目でも判別できればいいが」

 IFFとは敵味方識別装置のことである。戦場などではフレンドリースクォークという電波信号を発して味方にそれと知らせ、フレンドリーファイアなる同士討ちを防ぐのだ。
 愚痴りながらも霧島はそれを額に巻き、京哉の二の腕に縛ってやる。

「山の向こうまで四時間は掛かるか」
「このトラックなら多少は短縮するかも知れませんよ」

 それでも自分たち戦闘要員は荷物扱いで、乗り心地は非常に宜しくなかった。街を出て森に入るなり悪路で荷台はゴトゴトとローリングし始める。
 ボーッとしていると頭のネジが緩んできそうな振動に霧島は閉口したが、ヒマ潰しになりそうなものは何もない。

 荷台にも屋根があり小さな蛍光灯が点いてはいるが、むさ苦しい男どもの顔を眺めるのも因縁をつけられそうで嫌だ。結局二人はトラックが停止するまで、荷台の地べたで賭けカードをしている男たちの声を聞きながら、浅い居眠りで過ごした。

 何度目かに二人が目を覚ますと、ふいにローリングが止まる。

「んー、腰が痛いよー」
「私も躰がバキバキだ」

 首を回しながら降りてみれば、そこは二人が軍のヘリから降ろされた広場だった。人員の全てを下ろすと、ライトを消した二台の貨物トラックは集落の方へと消えていった。道いっぱいのトラックは隠しておかなければブレガー側にバレてしまう。

「アンブッシュ、待ち伏せみたいですね」
「ジャングルとまではいかないが、森林で夜間戦闘とは面倒だな」

 本気で面倒臭そうな顔をして星空を仰ぐ霧島に、京哉はすまして言った。

「誰を撃とうが、僕さえ撃たなきゃいいですよ」
「そういうことは内密にしておけ。それより、おい、あれを見ろ。ビンゴだ」

 言われて京哉も頭上を注視する。星空の中を赤と緑の光が見えた。降下してくる。

「航法灯……大型の軍用ヘリCH47、チヌークですね」

 みるみるうちに光は近づき、ダウンウォッシュと呼ばれる強風が吹き荒れると同時に見えなくなった。広場にランディングしたのだ。エンジンとタンデムローターの音は途切れなく鼓膜を揺さぶっている。そんな中で森を黒く切り取った機体から兵士たちが次々と降りてきた。
 その数、およそ三十名。一個小隊といったところだろう。

 アンブッシュに特化した彼らは戦闘服の腰に水筒を下げている他は武器のみだ。小銃と呼ばれるアサルトライフルやサブマシンガンを手にし、幾人かはサスペンダーに手榴弾を引っ掛け、またグレネードランチャーを携えていた。

 弛んでいても整列した様子は立派な兵士である。チンピラのカチコミを軍は戦闘にレヴェルアップする。
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