Golden Drop~Barter.21~

志賀雅基

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第39話

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 二人が喚いているうちに開いた穴から閂が外され、大扉が外に向かって開かれた。
 御用口も開けられ、味方の死体を跨ぎ越して男たちがなだれ込む。

 途端に正面大階段から銃弾が降ってきた。扉の内と外から味方が応戦、敵も含めた喚き声と広い玄関ホールに反響する撃発音で耳がおかしくなりそうだ。

 大扉の陰は男たちで満員御礼、霧島と京哉の隠れる隙間は既にない。仕方ないので石の床に転がる死体と仲良く低い姿勢を取った。
 その傍で赤いバンダナの男がサブマシンガンを乱射する。エジェクションポートが吐く真鍮のエンプティケースが霧島の頭上から降り注いできた。装薬が燃焼したばかりの空薬莢は当然ながら高温である。もう目茶苦茶だ。

「熱っ、あちち……くそう、ちょっとは考えろ!」

 怒りに任せて霧島は階段上から狙ってきたショットガン男を撃ち倒す。

 一瞬の静けさと共に硝煙漂う玄関ホールに転がってきたのは手榴弾、殺傷範囲は十五メートルもあるが、半径三メートルほど離れ、伏せてさえいれば殆ど被害は受けない。冷静に距離を見極めた京哉が霧島の頭を押さえつける。爆音が轟いたが二人に被害なし。

 味方の損害を確認する間もなく二人は撃つ。とはいえレアード側なら味方という感覚など端から二人は持ち合わせていない。
 それでも今は積極的に『味方のふり』をしている方が賢明で、おまけにマフィアファミリーの片側だけでも潰せるなら僥倖だ。

 けれどここを突破されれば二階への侵入を許してしまう敵も決死の攻防だった。しかし数がものをいい、レアード側が屋敷内へと侵攻し始める。

 撃ちながら這い進んだ霧島と京哉は右側の廊下に出て周囲を見回し、射線上に敵がいないのを確認して立ち上がった。廊下の先にも階段があった筈だ。だが背後から撃たれたくはない。各部屋を荒っぽくルームクリアリング、内部点検し安全確認しながら階段を目指した。

 五枚目の扉から出ると前方からも銃弾が飛来し始める。扉の内側から顔と手だけを出して二人は応射、三人の呻き声で銃撃は止んだ。階段まで走る。
 駆け上って踊り場手前で息を整えると霧島のスリーカウントで飛び出した。敵は五人、二人は速射で弾を叩き込む。オールヘッドショット。階段の残り半分を一気に上った。

 二階の廊下でも既に銃撃戦は佳境に入ったらしかった。

 階段の最上部でマガジンチェンジしながら加熱したシグに二人は顔をしかめる。ただ、シグ・ザウエルP226は頑丈なので助かっていた。京哉は霧島を見上げる。

「どうします、出ますか?」
「私たちだけで出ることもあるまい。だが休ませては貰えんようだぞ」

 階下から複数の気配が上ってきていた。見るとオットー=ベインも混じっている。

「ご苦労だったな、いい腕だ」
「状況は?」
「三階も押さえた。ライナス=ブレガーはヘリでも逃げられない」
「ブレガーファミリーも終わりか」
「そういうことだ。お前らも来い」
「仰せのままに」

 まだ散発的に銃声が響く中、オットーは手下たちを従えてためらいなく絨毯敷きの廊下を歩き出した。その先には味方のチンピラたちが黒山の人だかりを作っていて、オットーの姿を認めると道を開ける。オットーは大きな観音扉から足を踏み入れた。

 そこはドン・ライナス=ブレガーの執務室のようだった。執務机に応接セット、暖炉にサイドボード、天井にはシャンデリア、毛足の長い絨毯には何人もの死体……。

 銃を幾重にも突きつけられたドン・ライナス=ブレガーは、応接セットの三人掛けソファに座らされていた。フィオナと同じ黒髪をオールバックにしている。
 普段はそれなりの紳士に見えるだろう容貌だったが、今は顔色を蒼白にして唇をわななかせていた。

 オットーが銃を突きつけている男の一人に訊いた。

「吐いたか?」
「いえ、知らねぇの一点張りでして」
「きっ、貴様らこそフィオナを何処にやった!」

 叫んだライナスを気の短いチンピラの一人が銃で殴りつける。

「ふむ。本当に知らないらしいな」

 呟くなりオットーは懐から銃を抜き撃った。狙いたがわずライナスの額に穴を穿った四十五ACP弾は後頭部に爆発的に抜ける。大柄なライナスがソファから半ばずり落ちた。
 脳幹をぶち抜かれ即死である。

「全ての部屋を見回れ。キーファの痕跡があれば報告しろ」

 命令で手下たちが散ってゆく。片や霧島と京哉はあまりにあっさりとした殺りように呆れていた。てっきりドン・ハイラム=レアードの前に引っ立てると思っていたのだ。
 何十年続いたのかは知らないが、戦争にピリオドを打つ瞬間としては外連味がなさすぎた。

「困ったことになったようだが、どうだ?」

 きついバニラの香りの煙草を咥えたオットーが二人に訊く。

「監督責任の話なら既に終えた筈だ」
「この世界では落とし前というものを重要視する」
「だから契約金は返すと言っている。いい加減に戦争ごっこも沢山だからな」

「ガキのクラブ活動じゃないんだ、勝手に抜けられるとでも思っているのか? 落とし前をつけてから出て行くんだな。来い、レアードに戻るぞ」

 科白の割に腹を立てた風でもなく、オットーは淡々と煙草を半分ほど吸ってから応接セットの灰皿に投げ捨てた。
 しかし三度目を言わせる代わりに弾丸を食らうのも得策ではないので、仕方なく京哉と霧島もあとに続く。心得たように手下らがオットーと続く二人とを取り囲んだ。

 予想通りの展開ではあったが非常に拙い状況だった。

 御一行様で大階段を降り、玄関ホールに転がる幾多の死体を避けて出ると、車寄せには葬儀屋のベルジュラックが立っていた。二人の姿を見ると優雅に一礼する。

 何となく恨めしい気分で視線を巡らせた霧島は、当然予測し得る事実だったのに、それまで欠片も考え及ばなかった光景に出くわした。
 下卑た嗤いを洩らすレアードのチンピラに急かされてトラックに乗せられる女たちだった。引っ立てられ啜り泣く女たちは戦利品とでもいったところか。
 霧島は苦い思いで胸が悪くなる。
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