Golden Drop~Barter.21~

志賀雅基

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第41話(注意・暴力描写を含む)

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 まるで温度のない目を前にして、霧島がさりげなく京哉を背後に庇う。

「で、私たちをどうするつもりだ?」
「キーファとフィオナ=ブレガーは何処だ?」
「さあな。今頃は国外じゃないのか?」

 背後でドアが閉まる。室内でこれだけの人間がいるのに京哉は余計寒くなった。

「俺が二度訊かないのは、その目で見ただろう」

 オットーは表情ひとつ変えず吸っていた煙草の火を霧島の左手の甲に押しつける。

「忍さんっ!」

 小さく叫んだ京哉は左頬を殴られ、床に吹っ飛んだのを男たちに受け止められた。サツカンでありながら武道の苦手な京哉は、元々喧嘩などといった腕力での交渉事とは縁が薄い。
 お蔭で殴られ方も知らないために一撃をまともに食らってしまい、自分の歯で口内を派手に切った。口の中に溢れた血をどうしようかと京哉は悩む。

 一方の霧島は煙草を押しつけられてもオットーに負けずとも劣らないポーカーフェイスだった。そんな霧島の腹にオットーは膝蹴りを食らわせる。
 霧島はあらゆる武道に長けているが、反撃は得策でないと冷静に考えた上で、わざと浴びた蹴りだ。

 わざとなので身を折って見せたが、鍛えた腹筋に力を込めて出来る限りのガードはしている。更にオットーは霧島の黒髪を掴んで顔を上げさせ、容赦なく殴りつけた。
 霧島が場慣れしているのを見抜いたか、殆ど護りを固められない顔ばかり幾度も殴り、次の蹴りは胸に飛ばした。霧島はドアに背を叩きつけられる。

 さすがにオットーも荒事のプロ、場慣れした相手でも効く方法を心得ていた。

 駆け寄ろうとした京哉を再度男が殴った。一瞬だったが脳震盪を起こすほどの強さで頭が振られ上下感覚を失う。しゃがみ込んだところを男たちが引きずり起こした。
 ドレスシャツの胸元を掴んだ男を、霧島の鋭い声で放たれた英語が止める。

「よせ、そいつに、京哉に手を出すな。やるなら私をやれ!」

 そんな、と京哉は思ったが、眩暈と血を飲み込んだ気分の悪さとで声が出ない。

「その手を放せ!」
「命令できる立場だと思ってんのかよ?」

 チンピラの一人が味方の数をかさに着て嗤い、ドアを背にして退路のない霧島に蹴りを入れた。オットーの蹴りに比べれば甘く、普段の表情を崩さず呻きも洩らさずに耐える。

 だがチンピラであろうとこれだけの頭数で殴る蹴るを加えれば、幾ら霧島でも相手をするだけの体力など早々に尽きてしまう。そんなことは霧島自身、分かっていた。

 それでも勢い立ち上がる。京哉に手を出させないよう自分を攻撃のターゲットにさせるためだった。殊更派手に立ち回り、届く範囲のチンピラを片端から殴り蹴る。京哉に危害を加えられる恐怖から、ここにきて本気で反撃に出ていた。

 京哉の胸元を掴んでいた男には、長身に体重を載せたこぶしを上から叩き込んでいる。強烈な一発で男は吹っ飛び、床に頭をぶつけて昏倒した。
 しかし仲間を沈められたチンピラたちはいきりたち、一斉に二人にむしゃぶりついてくる。霧島は、自分はともかく京哉を掴み押さえ込んだ男らを見て頭に血が上った。こればかりは許せず京哉から男たちを引き剥がしにかかる。

 けれど自分もチンピラたち数人がかりで押さえ付けられている状態だ。手足を振り回しつつ低く通る声で大喝した。

「放せというのが聞こえないのか!」
「何だと、この野郎!」
「ふざけた口利きやがって、やっちまえ!」

 チンピラたちが一斉に突進してきてウェイト負けした霧島は敢え無く床に転がされた。複数から思い切り足蹴にされる。オットーにやられた胸を再び執拗に蹴られて、何度目かに二本ほどが同時に『いった』のを自覚した。肋骨が折れたのだ。

 このあと逃げることを考えれば、これ以上やられては拙い。動けなければ逃げられもしないのだ。そう思いつつ頭を踏みつけられながら血を吐き出す。
 そこでふと視線を上げると別のチンピラが京哉の胸元を掴んでいた。抵抗する力もない京哉を引きずり上げて霧島に見せつけつつ赤い唇から白い頬へと指を這わせる。

「そうだよな、こいつは傷モノにするより愉しませてくれそうだもんなあ」
「今日、つれてきた女たちより上物なんじゃねぇのか?」

 下卑た嗤いの合唱が湧いた。そうしてチンピラの一人が京哉のドレスシャツのボタンをゆっくりと外し出す。今はもう羽交い締めにされてしまい、京哉の力では幾ら身を捩ったところで逃れられない。ボタンを外し切るのを待てずに裾から差し入れられた手が素肌を這った。

 京哉は瞬時にタラそうか迷ったが、この状況では無理と判断せざるを得ない。

「やめろと、言っているだろうが!」

 自分の頭を踏んでいる足を掴んで男を引きずり倒し、霧島はその躰に縋るようにして立つ。既に怪我は肋骨だけでなく全身に酷い打撲を負っていた。
 だが目前で京哉を嬲られかけて霧島は躰の痛みなど忘れる。京哉の肌に触れている男に殴りかかった。当然ながらチンピラたちはまたも霧島を攻撃対象にする。

 それでも霧島は手当たり次第にこぶしを振るい脚を飛ばす。上段蹴りをまともに入れられ一人が倒れ、右ストレートを食らった一人が壁に頭をぶつけ動かなくなった。
 だがやはり多勢に無勢だった。残った男たちに殴られ、たちまちのしかかられて床に沈められる。あとはサンドバッグも同然で面白半分に蹴られるばかり、蹴った数を数える者がいた。
 
 どれだけ蹴ったら死ぬか賭けを始める者までいた。
 口汚い英語は殆ど聞き取れない京哉だったが、この様子を見せられてはチンピラたちがいったいどんな内容を話しているのか理解できる。霧島が殺される恐怖から京哉は貧血を起こしかけていた。床には幾重にも血飛沫が飛んでいるのだ。

 普段より更に顔色を白くした京哉は思わず傍の男の腕を掴み、逮捕術の要領で背に捻り上げる。苦手でもサツカンである以上、一通りのことは習っている上に一時期は霧島が自ら指導してくれたのだ。けれどすかさず他の男が細い腰を抱くようにして引き倒した。

 あっさり無力化されて悔しいと思う間もなく数人に押さえ付けられる。

 押さえ付けられたままチンピラの一人に馬乗りにされて、べっとり口づけられた。あらん限りの力で口を閉じていたが、舌は強引にこじ開けて侵入してくる。
 ここにきて京哉は口内を貪る舌の動きに応えてやった。勿論、気持ち悪くて堪らない。
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