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第45話
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「おや、こんな所にずぶ濡れで、お二方」
背後からの声に今度こそ心臓が躍り上がった。唾を飲み込んで京哉は振り返る。
「ベルジュラック! 貴方、何してるんですか?」
「勿論ご遺体の回収です。なかなかにこれが愉しい作業でしてね~。フヒヒヒ」
「一人?」
「誰にもこの愉しさを分かって頂けないもので」
「あのう、僕らがここに来たことは内緒にして貰えないでしょうか?」
「ほうほう。旦那様は大層なお怪我もされているようですね」
撥水加工でもしているのか黒服から雨粒を飛び散らせて葬儀屋は霧島を覗き込む。
「キーファ=レアードとフィオナ=ブレガーの次は貴方がたが逃亡者ですか」
「お願いです、もう三時過ぎてる。見逃して、車一台出させて下さい」
「構いませんよ、貴方がたはお客様を生む大事な金の鶏ですからね~。フヒヒヒ」
「有難う、恩に着ます」
「でも、そのなりで車を出しても、街に降りた途端に捕まりますよ? コケにされたレアードは貴方がたを血まなこで追うでしょうし」
ではどうすればいいのか。肩に凭れた霧島の躰は雨に打たれて冷えていく一方だ。
「ならばこのベルジュラックに任せてみませんでしょうか? まだまだお客様を生んでくれそうな貴方がたを、安全な方法で安全な場所までお送り致しましょう」
「本当に? お願いします。早く休ませて手当てもしないと。忍さん、運が味方しましたよ、良かったですね。地獄に仏ってこのこと……仏?」
何となく二人は顔を見合わせた。霧島は酷い有様だったが、それでも互いの思考が流れ込んでくる。『こんなホトケ様は嫌だなあ』『いや、この際、死神でもいい。神は神だぞ』と。付き合いも深くなるとテレパス並みの思考共有が可能になっている。
「では、こちらへどうぞ。ずずずいーっと」
案内されたのはブレガーの屋敷の車寄せだった。そこには中身がいるのかいないのか、棺桶が山と積まれていた。
京哉が見守っていると葬儀屋はピカピカに磨かれた黒塗りステーションワゴンの後部から思いがけない怪力で一度にふたつの棺桶を抱え下ろした。
代わりにフタがずれて中身が不在だと知れる棺桶をふたつ荷台に載せる。
そうして二人に芝居がかった礼をして見せた。
「さて、特等席のご用意ができましたよ~。フヒヒヒ」
「……」
半ば朦朧としている霧島はさておき、京哉は棺桶をまじまじと見つめた。
「ほら、どうぞ遠慮なさらず」
「僕ら、これに入るんですか?」
「未だかつて誰も起きてはこなかったところをみると、さぞかし寝心地が宜しいかと。ああ、すみません、二人用の棺桶は在庫がなくって、いっとき我慢して頂くしか……」
「そういうことが言いたいんじゃなくて……分かった、乗る。乗ります」
選択肢はない。葬儀屋と二人掛かりで霧島を棺桶に寝かせると、京哉は自分も隣の棺桶に横になった。ショルダーバッグと同居だが小柄なので寝られる。棺桶の中は緩衝剤とすべすべの布張りで、葬儀屋が言った通りに寝心地はそう悪くなかった。
「フタしても、息できるんですかね?」
「息を吹き返した時のことも考えて設計されてますから。閉めますよ~。フヒヒヒ」
フタがみしみし軋んだ。棺桶だかその中身だかが逃げ出さないようロープをかけているらしい。音が止むと、ものの一分ほどでステーションワゴンは動き出した。
棺桶の中でも分かる坂道の途中で一度、男の声がして車が止められた。思わず京哉は息まで押し殺した。が、すぐにまた動き出す。クリアしたようだ。
ゴトゴトと揺られること十五分くらいでステーションワゴンは停止した。ロープが外される音がし、京哉は自分で棺桶のフタをずらす。そっと目まで出して窺うと、そこは保安官事務所の脇の路地だった。外灯の狭間で目立たない。運転席から葬儀屋が声を発する。
「さて。あとはシェリフ・パイク=ノーマン氏に宿泊の直談判ですよ~。フヒヒヒ」
「……って?」
「この街で今、一番安全なのはここの留置場でしょう?」
背後からの声に今度こそ心臓が躍り上がった。唾を飲み込んで京哉は振り返る。
「ベルジュラック! 貴方、何してるんですか?」
「勿論ご遺体の回収です。なかなかにこれが愉しい作業でしてね~。フヒヒヒ」
「一人?」
「誰にもこの愉しさを分かって頂けないもので」
「あのう、僕らがここに来たことは内緒にして貰えないでしょうか?」
「ほうほう。旦那様は大層なお怪我もされているようですね」
撥水加工でもしているのか黒服から雨粒を飛び散らせて葬儀屋は霧島を覗き込む。
「キーファ=レアードとフィオナ=ブレガーの次は貴方がたが逃亡者ですか」
「お願いです、もう三時過ぎてる。見逃して、車一台出させて下さい」
「構いませんよ、貴方がたはお客様を生む大事な金の鶏ですからね~。フヒヒヒ」
「有難う、恩に着ます」
「でも、そのなりで車を出しても、街に降りた途端に捕まりますよ? コケにされたレアードは貴方がたを血まなこで追うでしょうし」
ではどうすればいいのか。肩に凭れた霧島の躰は雨に打たれて冷えていく一方だ。
「ならばこのベルジュラックに任せてみませんでしょうか? まだまだお客様を生んでくれそうな貴方がたを、安全な方法で安全な場所までお送り致しましょう」
「本当に? お願いします。早く休ませて手当てもしないと。忍さん、運が味方しましたよ、良かったですね。地獄に仏ってこのこと……仏?」
何となく二人は顔を見合わせた。霧島は酷い有様だったが、それでも互いの思考が流れ込んでくる。『こんなホトケ様は嫌だなあ』『いや、この際、死神でもいい。神は神だぞ』と。付き合いも深くなるとテレパス並みの思考共有が可能になっている。
「では、こちらへどうぞ。ずずずいーっと」
案内されたのはブレガーの屋敷の車寄せだった。そこには中身がいるのかいないのか、棺桶が山と積まれていた。
京哉が見守っていると葬儀屋はピカピカに磨かれた黒塗りステーションワゴンの後部から思いがけない怪力で一度にふたつの棺桶を抱え下ろした。
代わりにフタがずれて中身が不在だと知れる棺桶をふたつ荷台に載せる。
そうして二人に芝居がかった礼をして見せた。
「さて、特等席のご用意ができましたよ~。フヒヒヒ」
「……」
半ば朦朧としている霧島はさておき、京哉は棺桶をまじまじと見つめた。
「ほら、どうぞ遠慮なさらず」
「僕ら、これに入るんですか?」
「未だかつて誰も起きてはこなかったところをみると、さぞかし寝心地が宜しいかと。ああ、すみません、二人用の棺桶は在庫がなくって、いっとき我慢して頂くしか……」
「そういうことが言いたいんじゃなくて……分かった、乗る。乗ります」
選択肢はない。葬儀屋と二人掛かりで霧島を棺桶に寝かせると、京哉は自分も隣の棺桶に横になった。ショルダーバッグと同居だが小柄なので寝られる。棺桶の中は緩衝剤とすべすべの布張りで、葬儀屋が言った通りに寝心地はそう悪くなかった。
「フタしても、息できるんですかね?」
「息を吹き返した時のことも考えて設計されてますから。閉めますよ~。フヒヒヒ」
フタがみしみし軋んだ。棺桶だかその中身だかが逃げ出さないようロープをかけているらしい。音が止むと、ものの一分ほどでステーションワゴンは動き出した。
棺桶の中でも分かる坂道の途中で一度、男の声がして車が止められた。思わず京哉は息まで押し殺した。が、すぐにまた動き出す。クリアしたようだ。
ゴトゴトと揺られること十五分くらいでステーションワゴンは停止した。ロープが外される音がし、京哉は自分で棺桶のフタをずらす。そっと目まで出して窺うと、そこは保安官事務所の脇の路地だった。外灯の狭間で目立たない。運転席から葬儀屋が声を発する。
「さて。あとはシェリフ・パイク=ノーマン氏に宿泊の直談判ですよ~。フヒヒヒ」
「……って?」
「この街で今、一番安全なのはここの留置場でしょう?」
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