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第46話
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足取りも覚束ない霧島をつれ、酔いで左右すら覚束ない老シェリフに事態を呑み込ませるのは難儀した。京哉はシェリフの体内のアルコールを薄めるべく、グラスに何度も水を注いでは飲ませながら、粘り強く話を繰り返して理解に漕ぎ着けた。
水を牛飲したシェリフは奥のひとつきりの留置場を開け、毛布を敷いてくれた。
「そうじゃったか、キーファ=レアードとフィアナ=ブレガーはお前さんらが逃がしたのか。若さとは羨ましいものじゃの。それで、何か要るものはあるかの?」
「酷い怪我をしてて、薬を……救急箱があればお願いします」
「ちょっと待っとれ。古いものだが、全く使っておらんでの」
十分ほども待たされて、ようやく老シェリフは戻ってくる。
バスタオル二枚と一緒に手渡された箱を開けてみると、薬品類が開封されていない状態で入っていた。どれも使用期限切ればかりだがこの際贅沢は言っていられない。
濡れそぼった霧島の黒髪をバスタオルで優しく拭った。丁寧に雫を拭き取るとチェスターコートからジャケットにドレスシャツまで脱がせて治療に取りかかる。
顔の切り傷と手の火傷に消毒薬をかけ、乾くのを待ってから片言英語でシェリフに訊いて教えられた傷薬を塗った。
顔を含めた上半身の打撲痕にはスプレータイプの消炎剤を吹きつける。だが消炎剤を満たしたバスタブに放り込んだ方が早いくらい、見事に全身アザだらけだった。本人は何も言わなかったが胸の辺りが特に酷い。
骨折しているかどうかは京哉には分からなかった。京哉は自分が霧島に溺愛されているのを知っているが、だからといって霧島は京哉に対しアバラが数本折れたと報告してくれるような親切心を発揮しない。
お蔭で折れた骨が肺に刺さった挙げ句、衆人環視で大量吐血したり、霧島自身が自分の血で溺れ死にそうになったりでビビらされてきた。
ただ、そういった過去を経験しているので、最低限の物資で可能な限りの治療を施そうとする度胸だけは京哉にも備わっていた。
余程の見た目でなければ、血だの傷だのが怖くて触れないなどということはない。
けれど色々と見てきて慣れている分、開放した傷は少なくても今の霧島の状態がかなり悪いことも予想がついた。全身打撲で重傷、いや、意識すら手放したらしい現在に至っては重体と云えるのかも知れない。
つらつらと考えつつ思い切って全てを脱がせ、まんべんなく消炎スプレーをかけると一番酷い胸には湿布を貼る。単純に腫れとそうでない箇所があるように見えるが、腫れていない凹んだ箇所はやはり折れている気がした。
もしも正常な位置からずれていたら、まともにくっつくものもくっつかない。病院で整復術を受けるべきである。
だが医者にも診せられない以上、肺に刺さったりしないよう安静にさせておくしかないだろう。体力と回復力も規格外な男である。今はそれに期待するしかない。
可能な限りの手当てをし終えるとショルダーバッグから乾いた衣服を出して着替えさせた。やはり状態は相当悪いようで、霧島はずっと意識を失ったまま灰色の目を京哉に見せてくれなかった。
ここにきて泣きたいくらい京哉は淋しく心細さを感じていたが、霧島にしてみたら全身が痛むであろう今は意識がない方がマシかも知れないと思う。
壁際に寝台があるにはあったが、安静にさせておかなければならない霧島を京哉が独りで静かに移動させるのは不可能だ。
本当に酔いが醒めたのか怪しいシェリフに協力を願うのもためらわれて、仕方なく運ぶのは諦め、コンクリートブロックの床に毛布を二枚重ねて敷き、その上に寝かせたままにした。寝台も硬そうな板で似たようなものである。
そこまですると京哉も髪を拭いて着替え、二人分の服を寝台に広げて干した。
もうやることもなくなって肝心の霧島の様子を看る。傍から見たら意外と落ち着いているように思える京哉だったが、抱えた胸中は心配などという単語で表せるようなものではなかった。
灰色の目をちゃんと見せてくれたのはいつだっただろう、そんなことまで考えてしまうほど心には恐怖が嵐となって吹き荒れていた。
本当は確認するのも怖い霧島の顔を覗き込むと蒼白になっていて、慌てて頬に手を当てる。するとあれだけ雨に打たれて冷え切っていた躰が、今度は燃えるように熱くなっていた。
とんでもない高熱を発していながら血の気が引いたような顔色。毛布で包んだ身体は小刻みに震えている。寒気がするなら更に熱は上がるだろう。
発熱は骨折か全身打撲のショックか。突然、何も分からなくなって呆然とする。
呆然としたまま普段の生活の如く、同じ毛布に潜り込むと京哉は霧島を抱き締めた。
水を牛飲したシェリフは奥のひとつきりの留置場を開け、毛布を敷いてくれた。
「そうじゃったか、キーファ=レアードとフィアナ=ブレガーはお前さんらが逃がしたのか。若さとは羨ましいものじゃの。それで、何か要るものはあるかの?」
「酷い怪我をしてて、薬を……救急箱があればお願いします」
「ちょっと待っとれ。古いものだが、全く使っておらんでの」
十分ほども待たされて、ようやく老シェリフは戻ってくる。
バスタオル二枚と一緒に手渡された箱を開けてみると、薬品類が開封されていない状態で入っていた。どれも使用期限切ればかりだがこの際贅沢は言っていられない。
濡れそぼった霧島の黒髪をバスタオルで優しく拭った。丁寧に雫を拭き取るとチェスターコートからジャケットにドレスシャツまで脱がせて治療に取りかかる。
顔の切り傷と手の火傷に消毒薬をかけ、乾くのを待ってから片言英語でシェリフに訊いて教えられた傷薬を塗った。
顔を含めた上半身の打撲痕にはスプレータイプの消炎剤を吹きつける。だが消炎剤を満たしたバスタブに放り込んだ方が早いくらい、見事に全身アザだらけだった。本人は何も言わなかったが胸の辺りが特に酷い。
骨折しているかどうかは京哉には分からなかった。京哉は自分が霧島に溺愛されているのを知っているが、だからといって霧島は京哉に対しアバラが数本折れたと報告してくれるような親切心を発揮しない。
お蔭で折れた骨が肺に刺さった挙げ句、衆人環視で大量吐血したり、霧島自身が自分の血で溺れ死にそうになったりでビビらされてきた。
ただ、そういった過去を経験しているので、最低限の物資で可能な限りの治療を施そうとする度胸だけは京哉にも備わっていた。
余程の見た目でなければ、血だの傷だのが怖くて触れないなどということはない。
けれど色々と見てきて慣れている分、開放した傷は少なくても今の霧島の状態がかなり悪いことも予想がついた。全身打撲で重傷、いや、意識すら手放したらしい現在に至っては重体と云えるのかも知れない。
つらつらと考えつつ思い切って全てを脱がせ、まんべんなく消炎スプレーをかけると一番酷い胸には湿布を貼る。単純に腫れとそうでない箇所があるように見えるが、腫れていない凹んだ箇所はやはり折れている気がした。
もしも正常な位置からずれていたら、まともにくっつくものもくっつかない。病院で整復術を受けるべきである。
だが医者にも診せられない以上、肺に刺さったりしないよう安静にさせておくしかないだろう。体力と回復力も規格外な男である。今はそれに期待するしかない。
可能な限りの手当てをし終えるとショルダーバッグから乾いた衣服を出して着替えさせた。やはり状態は相当悪いようで、霧島はずっと意識を失ったまま灰色の目を京哉に見せてくれなかった。
ここにきて泣きたいくらい京哉は淋しく心細さを感じていたが、霧島にしてみたら全身が痛むであろう今は意識がない方がマシかも知れないと思う。
壁際に寝台があるにはあったが、安静にさせておかなければならない霧島を京哉が独りで静かに移動させるのは不可能だ。
本当に酔いが醒めたのか怪しいシェリフに協力を願うのもためらわれて、仕方なく運ぶのは諦め、コンクリートブロックの床に毛布を二枚重ねて敷き、その上に寝かせたままにした。寝台も硬そうな板で似たようなものである。
そこまですると京哉も髪を拭いて着替え、二人分の服を寝台に広げて干した。
もうやることもなくなって肝心の霧島の様子を看る。傍から見たら意外と落ち着いているように思える京哉だったが、抱えた胸中は心配などという単語で表せるようなものではなかった。
灰色の目をちゃんと見せてくれたのはいつだっただろう、そんなことまで考えてしまうほど心には恐怖が嵐となって吹き荒れていた。
本当は確認するのも怖い霧島の顔を覗き込むと蒼白になっていて、慌てて頬に手を当てる。するとあれだけ雨に打たれて冷え切っていた躰が、今度は燃えるように熱くなっていた。
とんでもない高熱を発していながら血の気が引いたような顔色。毛布で包んだ身体は小刻みに震えている。寒気がするなら更に熱は上がるだろう。
発熱は骨折か全身打撲のショックか。突然、何も分からなくなって呆然とする。
呆然としたまま普段の生活の如く、同じ毛布に潜り込むと京哉は霧島を抱き締めた。
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