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第56話
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「さっさと次、行くぞ」
「あっ、待って下さい」
三人は大通りを堂々と歩いた。
霧島と京哉は事務所で鹵獲した四十五口径ACP弾使用のサブマシンガンもスリングで肩から提げている。フル装備となった三人を見て慌ててレアードの屋敷の方に走ってゆくチンピラもいたが、構いはしなかった。
二十分もすると分岐点の坂道に差し掛かる。真っ赤な芥子畑に囲まれた道を上り始めるとさすがに三人も緊張せざるを得ない。敵地の武器庫では飛び道具も大物を確認しているのだ。
グレネードランチャーやRPGならここはもう充分に射程内である。
「伏せて、RPG!」
独特の風切り音と共にロケット弾が飛来し、シェリフと二人は坂道から外れて芥子畑の中に身を投げ出した。京哉の上に霧島が覆い被さる。爆音がして硬い物が砕け、飛び散ってきたアスファルトの道に着弾したらしい。破片が霧島たちの背にごつごつと降り注ぐ。
「忍さん、背中の怪我は大丈夫ですか?」
「このくらいならどうということはない。心配するな。それより次弾くるぞ」
続いて降ってきたのはグレネード弾だった。RPGより威力は低いが、直線的ではなく仰角発射で弧を描いて飛んでくるため目視で着弾点を見極めるのは困難である。
しかし三人は恐怖感からパニックに陥ったりすることもなく、忍耐強く丈高い芥子畑の中に伏せていた。
狙いづらい上に畑の中で植物に遮られ、今回も飛散物による被害はない。
だがこのままいつまでも伏せているだけでは撃たれっ放しで時間の問題だ。ここは恐怖に耐えて僅かずつでも芥子の中を匍匐で進んで行くしかなかった。
「しかしこれではなかなか進まんな。辿り着くまでに日が暮れてしまうぞ」
「でも今のうちに大物は撃たせておいた方がいいですよ。シェリフ!」
「おう、大丈夫じゃ!」
威勢の良い声が爆音に負けじと返ってきた。砲弾やグレネード弾を五発、六発とやり過ごして三人は這い進む。さすがに擲弾が尽きたか、まもなくグレネードの砲撃が止んだ。三人はそろそろと身を起こす。
だが問題はこの先だ。敵は万全の態勢で待ち構えている筈である。いつ銃弾が降り注いでくるかと緊張しつつ芥子畑の中で身を屈めて走った。
「何人くらいでしょうかね?」
「百二十人として一人当たり四十だな」
「えっ、ノルマ制なんですか?」
「目安にはなるだろう?」
「自分の分が終わったら観戦決めこみそうな、貴方が怖い」
「骨は拾ってやる……うわっ、拙い、サブマシンガンだ!」
屋敷の窓という高みから四十五口径弾がバラ撒かれている。霧島は膝撃ちで応射した。シグの二射がヒット。遠く窓から人影がふたつ落下するのが見えた。
「これで私は残り三十八人だ」
「ノルマ制、本気なんだ……」
やがて丘の頂上に近づいて屋敷の敷地が見えてくる。フェンスの内側に鈴なりになっているチンピラたちもだ。銃弾が飛来しだす。姿勢を低くし三人は本格的に応射を始めた。
ここでもう鹵獲したサブマシンガンを使う。フルオートモードだが弾の温存、霧島は短く何度も薙いだ。京哉は片っ端から確実に撃ち斃す手だ。シェリフはベネリをポンプアクションにして散弾をぶちかましているが、もう少し近づかないと本来の威力を発揮できない。
そのシェリフが先行して距離を詰める。八発ロードしている散弾は鹿狩りなどのビッグゲームに使用するダブルオーバック、一発に約八ミリの鉄球が九個入っている。近づけば一個当たり三十八口径拳銃弾一発に相当するパワーがあった。
「シェリフ! 前に出すぎるな!」
追いついた二人はシェリフを援護射撃。フェンスのチンピラたちが次々に倒れてゆく。今はうず高く積み上がった仲間を掩蔽物にして、怖じ気づきながら撃ってくる者だけだ。
半ば隠れたそいつらを殺るにはやはり近づかねばならない。
三人は一気に敷地まで駆け上がった。必然的に芥子畑から出た三人の姿は丸見えとなる。生身を晒した状態で非常に危険ではあるが、敵の腰が引けた今がチャンスでもあった。
モノにも依るがハンドガンの有効射程は大体、五十メートルほどである。腕や条件さえ良ければ更に距離を伸ばせる場合もある。だが実際には余程のプロでなければそんな距離を当てることなどまず不可能だ。
怯えてトリガを引けば十メートルでも外すだろう。それを知っているからこそ三人は大胆に身を晒して敷地内に入る算段だ。
フェンスの外にある監視小屋は散弾とサブマシンガンの四十五口径弾で崩壊寸前だった。残敵掃討はシェリフと京哉に任せて木と青銅の扉のロックを霧島が撃ち壊す。
「どうせなら真っ向、正面からだな」
すがすがしく霧島が言って撃ち壊したロックは、雇われた際に通されたフェンスの御用口の方ではなく、幹部連中や幹部の乗った車が出入りする正規のデカい門扉の方だ。
撃ちながら三人は揃って扉を蹴り開け、とうとう屋敷敷地内への侵入を果たした。
だが緩んではいられない。今度は屋敷や五棟並んだアパートの窓、建物の陰から銃弾が降り注いでくる。再びサブマシンガンを拾った京哉が上方からの攻撃への対処を一旦引き受け、霧島とシェリフが建物の陰から撃ってくる者を狙い撃った。
「あっ、待って下さい」
三人は大通りを堂々と歩いた。
霧島と京哉は事務所で鹵獲した四十五口径ACP弾使用のサブマシンガンもスリングで肩から提げている。フル装備となった三人を見て慌ててレアードの屋敷の方に走ってゆくチンピラもいたが、構いはしなかった。
二十分もすると分岐点の坂道に差し掛かる。真っ赤な芥子畑に囲まれた道を上り始めるとさすがに三人も緊張せざるを得ない。敵地の武器庫では飛び道具も大物を確認しているのだ。
グレネードランチャーやRPGならここはもう充分に射程内である。
「伏せて、RPG!」
独特の風切り音と共にロケット弾が飛来し、シェリフと二人は坂道から外れて芥子畑の中に身を投げ出した。京哉の上に霧島が覆い被さる。爆音がして硬い物が砕け、飛び散ってきたアスファルトの道に着弾したらしい。破片が霧島たちの背にごつごつと降り注ぐ。
「忍さん、背中の怪我は大丈夫ですか?」
「このくらいならどうということはない。心配するな。それより次弾くるぞ」
続いて降ってきたのはグレネード弾だった。RPGより威力は低いが、直線的ではなく仰角発射で弧を描いて飛んでくるため目視で着弾点を見極めるのは困難である。
しかし三人は恐怖感からパニックに陥ったりすることもなく、忍耐強く丈高い芥子畑の中に伏せていた。
狙いづらい上に畑の中で植物に遮られ、今回も飛散物による被害はない。
だがこのままいつまでも伏せているだけでは撃たれっ放しで時間の問題だ。ここは恐怖に耐えて僅かずつでも芥子の中を匍匐で進んで行くしかなかった。
「しかしこれではなかなか進まんな。辿り着くまでに日が暮れてしまうぞ」
「でも今のうちに大物は撃たせておいた方がいいですよ。シェリフ!」
「おう、大丈夫じゃ!」
威勢の良い声が爆音に負けじと返ってきた。砲弾やグレネード弾を五発、六発とやり過ごして三人は這い進む。さすがに擲弾が尽きたか、まもなくグレネードの砲撃が止んだ。三人はそろそろと身を起こす。
だが問題はこの先だ。敵は万全の態勢で待ち構えている筈である。いつ銃弾が降り注いでくるかと緊張しつつ芥子畑の中で身を屈めて走った。
「何人くらいでしょうかね?」
「百二十人として一人当たり四十だな」
「えっ、ノルマ制なんですか?」
「目安にはなるだろう?」
「自分の分が終わったら観戦決めこみそうな、貴方が怖い」
「骨は拾ってやる……うわっ、拙い、サブマシンガンだ!」
屋敷の窓という高みから四十五口径弾がバラ撒かれている。霧島は膝撃ちで応射した。シグの二射がヒット。遠く窓から人影がふたつ落下するのが見えた。
「これで私は残り三十八人だ」
「ノルマ制、本気なんだ……」
やがて丘の頂上に近づいて屋敷の敷地が見えてくる。フェンスの内側に鈴なりになっているチンピラたちもだ。銃弾が飛来しだす。姿勢を低くし三人は本格的に応射を始めた。
ここでもう鹵獲したサブマシンガンを使う。フルオートモードだが弾の温存、霧島は短く何度も薙いだ。京哉は片っ端から確実に撃ち斃す手だ。シェリフはベネリをポンプアクションにして散弾をぶちかましているが、もう少し近づかないと本来の威力を発揮できない。
そのシェリフが先行して距離を詰める。八発ロードしている散弾は鹿狩りなどのビッグゲームに使用するダブルオーバック、一発に約八ミリの鉄球が九個入っている。近づけば一個当たり三十八口径拳銃弾一発に相当するパワーがあった。
「シェリフ! 前に出すぎるな!」
追いついた二人はシェリフを援護射撃。フェンスのチンピラたちが次々に倒れてゆく。今はうず高く積み上がった仲間を掩蔽物にして、怖じ気づきながら撃ってくる者だけだ。
半ば隠れたそいつらを殺るにはやはり近づかねばならない。
三人は一気に敷地まで駆け上がった。必然的に芥子畑から出た三人の姿は丸見えとなる。生身を晒した状態で非常に危険ではあるが、敵の腰が引けた今がチャンスでもあった。
モノにも依るがハンドガンの有効射程は大体、五十メートルほどである。腕や条件さえ良ければ更に距離を伸ばせる場合もある。だが実際には余程のプロでなければそんな距離を当てることなどまず不可能だ。
怯えてトリガを引けば十メートルでも外すだろう。それを知っているからこそ三人は大胆に身を晒して敷地内に入る算段だ。
フェンスの外にある監視小屋は散弾とサブマシンガンの四十五口径弾で崩壊寸前だった。残敵掃討はシェリフと京哉に任せて木と青銅の扉のロックを霧島が撃ち壊す。
「どうせなら真っ向、正面からだな」
すがすがしく霧島が言って撃ち壊したロックは、雇われた際に通されたフェンスの御用口の方ではなく、幹部連中や幹部の乗った車が出入りする正規のデカい門扉の方だ。
撃ちながら三人は揃って扉を蹴り開け、とうとう屋敷敷地内への侵入を果たした。
だが緩んではいられない。今度は屋敷や五棟並んだアパートの窓、建物の陰から銃弾が降り注いでくる。再びサブマシンガンを拾った京哉が上方からの攻撃への対処を一旦引き受け、霧島とシェリフが建物の陰から撃ってくる者を狙い撃った。
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