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第55話
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「何発だ?」
「二十九掛ける二、十五掛ける二、本体が十六で合計百四。あとポケットに四十」
「私も一緒で百四十四だ。どのくらいだ?」
「二百いたとして、ブレガー襲撃で三十は殺られたんじゃないですかね?」
「二百八十八発もあれば何とかいけそうだな」
「なるべくヘッドショット狙いで殺れば充分ですよ」
そう言って力強く笑んだ京哉の細い腰を抱き寄せ霧島は荒々しく口づける。歯列を割って入り込んできた霧島に京哉は好きなだけ舌を、唾液を与えた。
ふっと離れると改めてソフトキス、灰色の目が澄んだ黒い瞳を覗き込む。
「本当にいいんだな?」
「勿論ですよ。忍さんが行くなら僕も行きます」
「ならば出るぞ」
「はい」
部屋を出て階段を下り、バーに出て行くとマスターが驚いて二人を見た。
「お客さん、だめです、危ないですよ」
「俯いて歩かなければならない理由など、何処にもないからな」
「お世話になりました。でも荷物とコートだけ暫く置かせて下さい」
一旦カードでマスターに宿泊料を支払う。
そこで驚いたのはテーブル席でビールを飲んでいたマイルズとネッドも同様だ。幽霊でも見たように怯えた目をしている。
「あんたら、生きて……」
「あのときはチクって悪かった――」
二人の髪結いの亭主を一瞥して霧島は言った。
「もう何とも思っていないから安心しろ」
「で、あんたらはまさか……?」
「ああ、ちょっとレアードの屋敷まで行ってくる」
制止する声を背に二人はスイングドアを揺らして表に出た。右に進路を取る。
「わあ、早春のいい陽気ですね」
「そうだな、茶畑の緑が濃くて綺麗だな」
心配していた霧島の足取りもしっかりしていて、京哉は安堵し寄り添って歩いた。
ゆっくりと大通りを三十分も歩くと右側に保安官事務所が見えてくる。椅子に腰掛けて腕組みし外を睨みつけていた老シェリフは窓越しに二人に気付くと目を剥いた。
ひらひらと京哉が手を振って挨拶する。
「京哉、そろそろだぞ」
「分かっています」
ここから二百メートルも行けば最初の目的地レアードの事務所だ。何人いるかも分からず内部構造も不明。圧倒的に不利なのは承知していたが京哉は不思議なほど怖くはなかった。
これ以上なく信頼して背を預けられるバディに微笑んでみせる。
辿り着いたレアードの事務所では張り番をしていたチンピラが二人、霧島と京哉の顔を見て慌ててドアを開け、中に飛び込んだ。壁も薄い事務所内でガチャガチャと音がする。
「ここは何人くらいだろうな?」
「さあ。でもなるべくここで戦力を削いでおきたいですよね」
「確かにな。では、邪魔するぞ……っと」
ドアの上下の蝶番に霧島がシグで二射ずつぶち込む。外れかけた合板のドアを蹴り飛ばし、右肩をぶつけるように室内に躍り込んだ。
室内は真ん中にデスクの地平、奥に応接セット。左右に二階への湾曲した階段があり、二階の廊下がバルコニーのように一階の天井に張り出している。
それだけを瞬時に見取って霧島、まず目に付いた男五人が銃を抜き出す寸前に速射で九ミリパラを放った。二秒と掛からぬ五連射で五人の男が吹っ飛ぶ。
霧島と背中合わせに立った京哉も、右の階段を駆け下りてきた一団に九ミリパラを叩き込んでいた。速射で五人、六人とオールヘッドショット。一団は手にしたサブマシンガンを発射することなく棒きれの如く斃れた。
一挙動で十人以上を叩き伏せた二人はデスクの陰に身を投げ出しつつ、霧島は一階デスク周辺の二人、京哉は二階バルコニーから狙ってきた二人を撃ち倒す。
デスクの陰から霧島は膝撃ち、銃を向けてきた応接セットの男たちに銃弾を見舞った。一瞬で事務所内を血に染められ、男たちは銃を構えながらも腰が引けたらしい。
だがここにきて二階からの反撃が始まった。デスクのふちが銃弾で削られる。黒髪の頭を僅かに出して京哉が撃つ。三射、四射。バルコニーからヘッドショットを食らった男がデスクにドサリと落ちた。その間に霧島がサブマシンガンを拾う――。
シェリフ・パイク=ノーマンがレアードの事務所に飛び込んだ時、既にやるべきことは残っていなかった。向けられた銃口に霧島と京哉はゆっくりと両手を挙げる。
「撃たないでくれ、シェリフ」
「その節はお世話になりました」
「なんじゃ、あんたたちか。にしてもこれは……」
シェリフは手にショットガンのベネリM3、腰にはリボルバ、たすきがけに散弾の弾帯という勇ましい姿だった。その姿で事務所内を見渡しシェリフは絶句している。
そこには三十人以上の男たちが斃れていたのだった。動く者はいない。
「シェリフ。このくらいで腰が引けるなら参加申請は却下するからな」
「何を、この青二才が。減らず口はレアードを叩き潰してからにせい!」
「わあ、シェリフかっこいい~っ!」
「あ、いや、そうかの」
息子ほども歳の違う京哉に抱きつかれ、シェリフは白髪頭を掻きながら酒焼けした顔を赤らめて照れた。
バディの必殺技・男転ばしを霧島は横目で眺めながら外に出る。
「二十九掛ける二、十五掛ける二、本体が十六で合計百四。あとポケットに四十」
「私も一緒で百四十四だ。どのくらいだ?」
「二百いたとして、ブレガー襲撃で三十は殺られたんじゃないですかね?」
「二百八十八発もあれば何とかいけそうだな」
「なるべくヘッドショット狙いで殺れば充分ですよ」
そう言って力強く笑んだ京哉の細い腰を抱き寄せ霧島は荒々しく口づける。歯列を割って入り込んできた霧島に京哉は好きなだけ舌を、唾液を与えた。
ふっと離れると改めてソフトキス、灰色の目が澄んだ黒い瞳を覗き込む。
「本当にいいんだな?」
「勿論ですよ。忍さんが行くなら僕も行きます」
「ならば出るぞ」
「はい」
部屋を出て階段を下り、バーに出て行くとマスターが驚いて二人を見た。
「お客さん、だめです、危ないですよ」
「俯いて歩かなければならない理由など、何処にもないからな」
「お世話になりました。でも荷物とコートだけ暫く置かせて下さい」
一旦カードでマスターに宿泊料を支払う。
そこで驚いたのはテーブル席でビールを飲んでいたマイルズとネッドも同様だ。幽霊でも見たように怯えた目をしている。
「あんたら、生きて……」
「あのときはチクって悪かった――」
二人の髪結いの亭主を一瞥して霧島は言った。
「もう何とも思っていないから安心しろ」
「で、あんたらはまさか……?」
「ああ、ちょっとレアードの屋敷まで行ってくる」
制止する声を背に二人はスイングドアを揺らして表に出た。右に進路を取る。
「わあ、早春のいい陽気ですね」
「そうだな、茶畑の緑が濃くて綺麗だな」
心配していた霧島の足取りもしっかりしていて、京哉は安堵し寄り添って歩いた。
ゆっくりと大通りを三十分も歩くと右側に保安官事務所が見えてくる。椅子に腰掛けて腕組みし外を睨みつけていた老シェリフは窓越しに二人に気付くと目を剥いた。
ひらひらと京哉が手を振って挨拶する。
「京哉、そろそろだぞ」
「分かっています」
ここから二百メートルも行けば最初の目的地レアードの事務所だ。何人いるかも分からず内部構造も不明。圧倒的に不利なのは承知していたが京哉は不思議なほど怖くはなかった。
これ以上なく信頼して背を預けられるバディに微笑んでみせる。
辿り着いたレアードの事務所では張り番をしていたチンピラが二人、霧島と京哉の顔を見て慌ててドアを開け、中に飛び込んだ。壁も薄い事務所内でガチャガチャと音がする。
「ここは何人くらいだろうな?」
「さあ。でもなるべくここで戦力を削いでおきたいですよね」
「確かにな。では、邪魔するぞ……っと」
ドアの上下の蝶番に霧島がシグで二射ずつぶち込む。外れかけた合板のドアを蹴り飛ばし、右肩をぶつけるように室内に躍り込んだ。
室内は真ん中にデスクの地平、奥に応接セット。左右に二階への湾曲した階段があり、二階の廊下がバルコニーのように一階の天井に張り出している。
それだけを瞬時に見取って霧島、まず目に付いた男五人が銃を抜き出す寸前に速射で九ミリパラを放った。二秒と掛からぬ五連射で五人の男が吹っ飛ぶ。
霧島と背中合わせに立った京哉も、右の階段を駆け下りてきた一団に九ミリパラを叩き込んでいた。速射で五人、六人とオールヘッドショット。一団は手にしたサブマシンガンを発射することなく棒きれの如く斃れた。
一挙動で十人以上を叩き伏せた二人はデスクの陰に身を投げ出しつつ、霧島は一階デスク周辺の二人、京哉は二階バルコニーから狙ってきた二人を撃ち倒す。
デスクの陰から霧島は膝撃ち、銃を向けてきた応接セットの男たちに銃弾を見舞った。一瞬で事務所内を血に染められ、男たちは銃を構えながらも腰が引けたらしい。
だがここにきて二階からの反撃が始まった。デスクのふちが銃弾で削られる。黒髪の頭を僅かに出して京哉が撃つ。三射、四射。バルコニーからヘッドショットを食らった男がデスクにドサリと落ちた。その間に霧島がサブマシンガンを拾う――。
シェリフ・パイク=ノーマンがレアードの事務所に飛び込んだ時、既にやるべきことは残っていなかった。向けられた銃口に霧島と京哉はゆっくりと両手を挙げる。
「撃たないでくれ、シェリフ」
「その節はお世話になりました」
「なんじゃ、あんたたちか。にしてもこれは……」
シェリフは手にショットガンのベネリM3、腰にはリボルバ、たすきがけに散弾の弾帯という勇ましい姿だった。その姿で事務所内を見渡しシェリフは絶句している。
そこには三十人以上の男たちが斃れていたのだった。動く者はいない。
「シェリフ。このくらいで腰が引けるなら参加申請は却下するからな」
「何を、この青二才が。減らず口はレアードを叩き潰してからにせい!」
「わあ、シェリフかっこいい~っ!」
「あ、いや、そうかの」
息子ほども歳の違う京哉に抱きつかれ、シェリフは白髪頭を掻きながら酒焼けした顔を赤らめて照れた。
バディの必殺技・男転ばしを霧島は横目で眺めながら外に出る。
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