Blue Revolution[青の公転]~楽園2~

志賀雅基

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第23話

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 存分に快感の海に溺れた二人は暫しベッドで休憩である。

 シドの腕枕でハイファは同じ体温になった象牙色の肌に身を押し付けていた。

 幼い頃こそ自分は損だ、生まれてはいけなかったのかも知れないとばかり思っていたものだが、今は己のことより自分を想ってくれる人がいる。人生の中では幸も不幸も上手くバランスが取れているのかもと考えた。

 いや、シドと一緒ならきっと何があっても幸せの方が勝るに違いないと思う。そんな風に考えている、静かな吐息だけを繰り返していたシドが低い声を発する。

「……なあ、ハイファ」
「ん、何?」
「お前が考えの全てを俺に話していないことくらい分かってる。不確定性の高い事とか、あって欲しくない事ほどそういう傾向にあるよな。思ったことをそのまま口に出さねぇのは、きっと育ち方や、長年のスパイ稼業で身に付いた習性なんだろう」
「秘密主義……そう見えるよね? ごめん」
「別に謝らなくていいさ。全部を知らなきゃ愛せないほど、俺の心は狭くねぇぞ」
「そう言ってくれると助かるけど、わざとじゃないんだよ。ただ……」
「分かってるって。この歳で性格変えろとは言わねぇよ。それにパートナーやバディとして必要なことは話すだろ? 俺だって言われなくてもある程度は悟れるしな」
「言えば済むのに悟らせてるんだよね? 分かってるけど意識してる訳でもなくて」

 萎れたように若草色の瞳は伏せられ、黒い目から完全に逸れてしまった。シドはそんなハイファの方に身を返し、空いた右手で縛っていない金髪に優しく指を通す。

「言い訳が聞きたかったんじゃねぇってばよ。意識してねぇのは分かってるって言ってるだろ。身に染みついちまったモンは仕方ねぇしさ。でも、いいんだぞハイファ。俺には罪の意識なんか感じるな。それでも俺は絶対に裏切らない。何があってもお前の背に立ち続ける。重すぎる荷物は半分背負ってやる。刑事のときだけじゃねぇ、一生のバディでパートナーなんだから、忘れるなよ」
「……うん」

 ふいに寝返りを打った薄い背を抱き、明るい金髪をシドはずっと梳き続けた。

◇◇◇◇

 午前様となった官品二人が民間企業の厳しさの洗礼を受けたのはこの日だった。

 実務を執ることがないなどと思っていたのは激スイートだったのだ。

 朝八時半ピッタリから始まった幹部会議に出席させられ、未だ知らない専門用語、いわゆるテクニカルタームと、これもよく分からない数字や聞いたことのない価格が満載された会話をじっと聞き続けること一時間。

 次は社長付きのメンバー紹介もそこそこに社長室に缶詰にされ、ホロディスプレイに次々と映し出される訳の分からない書類に社長ライセンスキィで承認の印である署名をすること二時間半だ。

 署名と言ってもこの時代、普通ならボタンひとつでOKだが、大会社の決済ともなると確実に本人と分かる本物の署名が必要だった。

「ねえ、これさ、八〇〇〇兆クレジットって書いてあるのは気のせいかなあ?」

 などと最初はディスプレイを指差しシドと一緒に笑っていたハイファだったが、監視するような秘書の視線に射られて首を竦めた。仕方なく署名の続きを始める。

 とにかくハイファも、傍で見ているシドも、全ての意味が分からなかった。だが、やらねばナニも片付かない。

 ここまで上がってきた書類ということは、それなりの部署がプロの目で見て決裁を仰いできたのだからとハイファも腹を括ったようで、理解するのはとっとと諦め、数をこなせとばかりにホロディスプレイに向かい、社長ライセンスキィに登録された自分の名前を専用の署名用パッドに大盤振る舞いしていた。

 やっと昼になって二十五階に上がり、さすがのハイファも自らチェンバーズを訪ねた。すると今や会長となったチェンバーズは大笑いしながら言い放った。

「やらなきゃいいんだよ。やる気を見せるからそうなるんだ」

 このオッサン、意外に大物なのかも知れないとシドは思う。ずっと後ろに立ち続けているシドから見てもあの流れで全てを放擲するにはかなりのド根性、太陽系から出て行くくらいの覚悟が要りそうだ。

 ともあれ与えられた昼休みはたったの四十五分間で、急いで部屋に戻りエレアお手製のパエリヤをスープで流し込むと社長室に駆け戻る。

 一分遅刻して戻った社長室では、既に録音機材を揃えてスタッフが待機していた。社員への経営指針配布などすっかり忘れていたハイファと共にシドも焦る。『過去のを繋ぎ合わせて』と昨夜は思っていたが、そんな細工を弄するヒマがなかったのだ。

「ええと、今日は中止です。風邪を引いて声がよく出ないので……ゲホゴホ」
((く、苦しいっ!))

 二人は心の中で呻いた。じつはハイファは風邪を引かない。元々宇宙を股にかけるスパイ稼業で、様々な星系を巡る別室員は体内に免疫チップを埋めているからだ。

 重ねて咳をしてみせると鋭い目つきの秘書殿は手の一振りで録音スタッフを追い出した。そしてハイファだけでなくシドにまで射るような視線を浴びせて言った。

「今後はお風邪など召されませぬよう、夜遊び等、どうぞご自重下さい」

 それは忠告や諫言などといったものではなく、まるで命令のように聞こえた。おまけに昨夜のことを知っているかのような口調である。

((こいつ、まさかサイキ持ち、テレパスか!?))

 と、未だ笑った顔を見たことのない秘書を前に二人は顔をこわばらせた。
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