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第22話(BL特有シーン・回避可)

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 顔に掛かった明るい金髪をよけてやりながら、シドはそっとハイファに口づけた。それは幾度も重ねられるうちに徐々に激しく貪るようなキスに変わる。

 上になったシドの唇が頬を伝った。耳たぶを甘噛みされ熱い言葉が吹き込まれる頃にはハイファの吐息は既に不規則な喘ぎとなっていた。

「お前が好きだ……ハイファ、愛してる。七年もこういう愛し方をせずにいられなかった自分が信じられねぇくらいだぜ。でもさ、本当はもっともっと愛してぇんだよ」

 首筋から鎖骨まで舐められ、軽く歯を立てられてハイファは喘ぎを洩らす。

「あっ、ふ……いいよ、これ以上愛されたら、気が狂いそう」

 シドの手がハイファの躰の中心に触れた。軽く握ると緩やかに扱き始める。

「だめだ、もっと愛してぇんだ。なのにどうしたらもっと愛せるか分からねぇ」
「そこ、やだ、一緒にいきたい……充分、愛されてるの、知ってる」
「ハイファ……何処へも行くなよ……ハイファ」

 繰り返し名を呼びながらシドはハイファの細い躰の至る処にキスの雨を降らせ舌を這わせる。不確定要素ばかりが積み重なってゆくこの状態で、ある程度までハイファの思惑を察してこそはいたもののシドは思わず口に出してしまっていた。

 何もかもを話し、知らせてくれなければ愛せない訳じゃない。だが愛する者の全てを知りたいと思うのも当然のことである。
 しかしどのように転ぶのか予想もつかないことまでハイファはペラペラ喋るタイプの男ではない。

 むしろ秘密主義的な傾向が強く、シドもそれは付き合いの長さから知っているのだが、関係性が変化した今に至っては失くす怖さがシドの心を竦ませていた。

「くそう、こんなこと、言うつもりじゃ……だから嫌だったんだ、俺は!」
「貴方は自分から手を伸ばしてくれた、んっ、あ……でも怖いんだね?」
「当たり前だ、失くしたくないものなんか俺は欲しくなかった……なのに、くっ!」
「シド、僕も怖いんだよ本当は。でもね、それは僕らを弱くしないと思う……んっ、それ以上はだめ! やだ、一緒がいいよ」

 いつの間にか強く扱いていたのだろう、ハイファはもう限界近くに達していたらしく、シドの右手首を掴んで止めた。二人はそのまま片手の指を絡ませる。
 シドのそれより白く細い指だが、互いに銃を扱う以上、関節は張っている。きつくその手を握った。残る片手でシドは己のものを扱いて指を濡らす。

 やや強引に細い脚を押し広げると既にハイファの窄まりは淫らにも欲しがりヒクついていた。細い腰も自ら浮かせている。煽情的な眺めを愉しんだのは僅かな間のみでシドは乾かぬうちに濡れた指でハイファを探った。

 色づきをなぞり一本目の指を挿入する。自分に構わないシドだがハイファとこのような関係になって以来、手指の手入れは欠かさないようになった。
 これ以上は無理なくらい深爪してバッファマシンで綺麗にヤスリがけしている。

 その指でつぷりと粘膜に侵入するとハイファの体内は吸い付くように迎え入れた。お蔭で抵抗なく指の根元まで呑み込まれる。同時に細い躰が弓なりに仰け反った。
 身を揺らし反応しては呼吸を乱す躰に指を増やし挿入してゆく。慎重にほぐしているうちにシドの中で急激に情欲が膨れ上がり咥え込ませた数指をバラバラに動かした。

 見たかったハイファの少し苦し気な表情は、苦しい訳でなく快感に酔っているのだ。一層高くなった喘ぎ声も悲痛にさえ聞こえるが、悦びを表している。

 そういったことも全て、この二ヶ月間でハイファよりハイファを知り尽くしたシドだからこそ分かる、堪らなく欲しがっている時のサインだった。

 だからこそ今日はすぐには与えない。この自分に隠し立てし、胸中だけで秘密裏に画策しては振り回してくれる男に罰をくれてやるつもりでシドは指を蠢かせた。

「あっあっ、シド……はぁん、そこ、いい――」

 これだけ悦ばせて罰でもないかとシドは内心苦笑する。ハイファはシドの巧みな攻めで奔放に声を上げては身を捩っている。白い肌が淡く紅潮しそのうち浮かせた細い腰が前後し始めた。
 罰なのだからとシドが指の動きを止めるとハイファは指を締め付け腰を揺らしてシドを誘う。この刺激が欲しくないのかとでもいうように。

「おい、あんまり動くと傷つけるぞ。大人しく俺にされてろ」
「嫌だ。んっ、あ……欲しい。貴方も欲しいクセに……ねえ、埋めてよ、僕を」

 ハイファの甘い誘いと乞いにシドも我慢できなくなる。粘膜に触れたままの数指は強く締められて、この感触が己の屹立を包むのだと思うと堪らなくなり指を抜いた。

 互いに切ないまでに疼きを溜め、潤んだ目でハイファは自ら膝を立てた細い脚を開く。シドは若草色の瞳の前に粘液が絡んだ指を翳して見せつけ、羞恥に染まった躰を我が身で押さえ付けた。片手で己を握ると緩めたハイファの入り口に押し当てる。

 だが挿入しようとした、その寸前にハイファはシドを避けて身を起こし、逆にシドを押し倒した。シドは何が何だか分からないうちに己をハイファに掴まれる。

 はっきり云って逆に自分がされるのかと勘違いしたシドは根っからのオス、驚きと半ば恐怖から声も出ない。しかしハイファはそんな思いも寄らない攻めには転じず、優しく手の中でシドの反り返りを扱くといきなり口に含んだ。

「うっ……あ……ハイファ!」

 仰向けのまま脳髄が白熱しそのまま蒸発するのではないかと思うような快感にシドは襲われる。ハイファは太い茎を半分ほどまで口に含み巧みに舌を蠢かせていた。

「ハイファ、ハイファ、だめだ……んっ、頼む! いっちまう!」

 本当に眩暈がした。耳は真綿を詰めたように何も聞こえなくなり、ひたすら押し寄せる快感の大波に揺さぶられ続ける。ハイファの喉を突かぬよう必死で己を抑えた。

「くっ……ハイファ、はあっ……ああっ!」

 深く咥えられ巻きつく舌に思考が混乱する。ハイファからこんな攻め方をされるのは初めてで、自分があられもない声を出してしまっていることにもシド自身、気付いていない。
 過去には殆ど途切れなく彼女もいたが声など出したことがなかった。

「だめだ、本当に……くっ……ハイファ……やめ――」

 息も絶え絶えに懇願してようやく解放される。やっと頭を上げて下を見ると、はち切れそうに張り詰めた己の切っ先とハイファの赤い唇との間に蜜が糸を引いていた。

 淫らすぎる光景に耐え難い疼きを覚えてシドは低く掠れた声でハイファに訴える。

「――お前と一緒にいきたいからさ。な?」

 細い躰を抱き締めて口づけた。そうしながらベッドのヘッドボードにあった備え付けのローションを取り上げ、器用に片手で開けると冷たく粘性のある液体を掌に受けて暫し温める。
 自分たちは人工物の仲介がなくても行為は可能だとこの二ヶ月で分かってはいたが、先日傷つけてしまったであろうハイファに負担を掛けたくない。

 ハイファと自分とに液体を塗りつけた。深くハイファの膝を割る。ハイファもまた自分から脚を広げ、腰を浮かせて色づいた入り口を見せつけた。
 確かにハイファの窄まりはシドを欲して息づくように蠢いている。それを見た途端シドは自分を抑え切れるのか分からなくなった。

 思い切り悲鳴を上げさせ快感に溺れさせて失神するまで攻め抜いてしまいそうな気がして少し怖い。それほどハイファの中が気持ち良く反応がいいのを知っている。

 既に陶酔し切ったハイファの苦悶に近い表情が、心臓を締めつけられるほどに美しい。塗ったローションが乾かぬうちに右手ではハイファをゆるゆると追い上げながらのしかかると若草色の瞳をまともに見つめ左手を添えて己をハイファに押し当てた。

「入るぞ、いいか?」
「待ってたよ、きて。あっ、あっ……はぁんっ!」
「痛いか? お前が育てたからだぞ」
「そんな、嘘……いっつもシドは、んっ、僕をいっぱいに……あああっ!」
「息、吐いて力抜いてくれ……くうっ、毎度のことだが、きついな」

 ハイファが息を吐いて力を抜くタイミングを計り少しずつ挿入した。なるべく時間をかけて収め、気付いてみるとまたも躰同士が接触するほどの深い処にまで届かせてしまっている。殆どクセになったこれはシドの嫉妬心の表れだ。

 どうしても躰を張ったスパイ稼業で数えきれないほどの不特定多数と行為に及んできたという事実が頭にある。だからこそ誰も届かせたことのない奥まで侵入し、己を刻み込み、できることなら己の形にしてしまいたいとすら思ってしまうのだ。

 浅い呼吸のハイファが若草色の瞳から潤みを零しそうなほど溜めて見上げた。

「大丈夫だから、お願い、して……好きに動いていいから」
「俺が好きに動いたら本気でお前は壊れる。でも気持ち良くしてやるからな」
「ん、欲しかった。シドだけが欲しくて……あっ、あっ、はぁんっ!」

 ゆっくりとシドは腰をスライドさせ、握ったハイファを扱いている。内襞をいっぱいに押し広げたシドの熱はハイファを急激に狂わせ、シドも鋭い快感を得ていた。

 徐々に力強い腰のスライドは速く、激しくなった。高い喘ぎを洩らしながらハイファは堪らなくなったのか、自分の手で己を握り締める。
 シドはハイファの両膝を抱え上げ更に奥深くまで突き上げた。腰を捻って捩じ入れ切っ先で突く。

「ああんっ、いい……すご、い……シド、シド!」
「うっ……ハイファ、メチャメチャ気持ちいい――」

 響くローションの水音までもが二人を追い上げた。更に浅く荒い息づかいとベッドの軋みにハイファの絶え間ない喘ぎが重なる。
 上気した白い肌が吸い付くようにシドの象牙色の肌と馴染んだ。半ば下半身を持ち上げられ、様々に変化を付けて貫かれるハイファは限界寸前で淫らな格好のままシドに訴える。

「あうっ、んっ……シド、もう、だめ――」
「俺も、だ……一緒に、いくぞ!」

 躰同士をぶつけるようにシドが突き上げた。反り返った先で体内を掻かれ、粘膜が破裂しそうなくらい張り詰めたシドに押し広げられるのをハイファは感じる。端正な顔を見つめるハイファの目から涙が零れ落ちた。これ以上なく二人はひとつだった。

 激しく揺れ合う二人は絶頂へと駆け上る。シドは思い切り締め付けられて呻いた。

「あっくっ、出せねぇっ! ハイファ、マジでだめだ、いかせろ!」
「きて! シド、お願い……早く、中に……はぅっ!」

 シドはきつく収縮するハイファの奥深くで、ハイファは自らの腹から胸にかけて、同時に熱く放っていた。荒い息をついてシドはハイファの隣に躰を投げ出す。
 暫しの沈黙ののち息づかいのやや収まったシドは、ノーブルな顔を覗き込んだ。

「お前、大丈夫か?」
「うん、平気……ああ、でも、起きたくないね」
「もう一度リフレッシャ浴びて……朝帰りは拙いよな」
「うーん、そうかもね。まあ、業務に間に合えばいいんだろうけど」
「まあ、ゆっくり帰ろうぜ」
「じゃあ、もっぺん……だめ?」
「……悪魔の誘いだな。この、メフィストフェレスめ」

 言っている傍からハイファは身を返してシーツに這い淫らな姿態で誘っている。少し開いた脚の間から先程シドが大量に放った熱が閉じ込めきれず流れ出し、白い内腿を伝っているという、酷く煽情的な眺めだ。

 それを見てなおシドがハイファを諫められる訳がない。
 
 吸い寄せられるように細い腰を掴み、背後から思い切り貫いて悲鳴を上げさせた――。
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