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第25話
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持ってきた中で一番まともでハイソな人々に受け入れられそうな服と考えたらやっぱり互いに制服しかなかったしがない平刑事と軍人は、センリーの痛い視線を浴びつつコイルの後部座席に乗り込んだ。このバルナでも珍しい防弾・対爆コイルである。
秘書センリーも勿論同行し前部座席に姿勢良く座っていた。時折思い出したように秘書用だろう上位機種だが装飾のないリモータで何事かを確かめている。
ファサルートコーポレーション本社社屋からディン資源公司バルナ支社までは三キロほどしか離れていなかったが、まさかのんびり散歩を愉しませて貰える筈もなく、大人しく頑丈な社用コイルの座席に腰掛けているしかない二人なのであった。
ディン資源公司のビルは円筒形で二十七階は外側の壁が全て透明素材という造り、そこから見えるテラ本星とビジネス・月、バルナの光景はなかなかのものである。
大きく切り取ったシフォンケーキ型の会食用広間に用意されていたのは立食形式のランチで、シドの存在を外せないハイファたちには好都合だった。
それに目前でシェフが腕を振るう料理はかなりの美味である。官品二人は豪華な中華に舌鼓を打った。
だが二十二名のテラ連邦エネルギー財団幹部は皆が皆、食欲は薄いようだった。
それもその筈で企業も大手になると互いに情報戦略を繰り広げる。その過程で一般には存在すら公表せず殆ど名称すら知られていない、『テラ連邦軍中央情報局第二部別室』の名が必ず浮上してくるのだ。それも有難い存在としてではなく。
テラ連邦は純然たる資本主義社会であり、会社とは利を追求する組織である。その『利』を得るために大手で儲けていればいるほど違法すれすれの行為をやらかしているのが普通だ。議員への付け届けは当たり前といった風だ。
それが慢性化した挙げ句、違法行為を違法とも思わなくなる会社も中には存在し、多少なら目を瞑れても行き過ぎると取り締まりの対象になるのは当然のことである。
しかし警察や検察に税務署などが手を出すまでもなく鉄槌を下される場合がある。まさに見せしめの如く、会社のためになっても『巨大テラ連邦の利のために』ならない場合、垣間見える鉄槌の持ち主が別室という訳だ。
又は通常の捜査機関では感知できない違法行為や、手を出せない大物絡み・他星系での独特な風習だの因習が捜査を邪魔する時も別室が密やかに動いて始末をつける。
イリーガルな相手に対してはイリーガルな手段を以てしてでも巨大テラ連邦の利を護る存在がテラ連邦軍中央情報局第二部別室なのだ。
自社の利のみを追求して目を付けられ、砂の城に水が染みこんだかのように、まるで内側から崩壊したかの如き末期を見せて消えていった会社は少なくない。だから脛に傷を持つ身であれば別室は恐怖の対象だ。
そして大会社なら何処だって多少は不正をやらかしている。喩え目の前にいるのが女性のようになよやかな若造であるにせよ舐めてかかる訳にはいかないのだった。
「先々月の会合に出席された皆さん。ちゃんとリモータは替えられましたか?」
暢気に間延びしたハイファの言葉に対して皆で譲り合ったのち、メッテルニヒの通夜の時にシドと話した最長老らしき老人が返答する。
「ああ、大丈夫じゃ。わしのはあのあと暫く放置しておって、見てみたら裏に穴が開いておった。このおいぼれがキミらに命を拾うて貰ったわい。礼を言うぞよ」
「そうですか。ところでそのリモータはどうされました?」
取り調べ口調にならぬよう気を付けながらシドが訊いた。
「わしのは捨ててしもうたが……」
「ああ、それなら私が持ってます、まだ穴は開いていませんが」
このメンバーの中では若手、チェンバーズと同じくらいの歳の男が挙手をした。男がポケットから出したのは絶縁体であろう白い包みだ。
「中身は?」
「IDや仕事関連は抹消してあります。デフォルトに近い」
「ならば頂いても宜しいですか?」
「構いませんよ」
別室に送って解析すれば、何かヒントが得られるかも知れない。シドが受け取る。
「あとは皆さん、ここでしか言えないこと、あとで知られて拙いことがあれば、是非ともこの場での申告をお勧めしますよ。別室はまだ本気じゃありませんからね~」
片手でワイングラスとプレートを持ち、軽い調子で言い置いてハイファは料理を取りに行った。中華のランチはシドも一通り堪能している。
しかしハイファはああ言ったものの、何を引き出そうとしているのだろうか。何の目算もなしにあんな言い方をする奴ではない。ぼんやりとでも何かを掴んでいて、揺さぶりをかけている筈だとシドは考えた。
会社の実務関係となると自分だけでなくハイファもからきしのようだが、少なくともハイファは跡継ぎとしての基礎教育は受けている。
捜査という点においてアドバンテージを取られるのは悔しいが、こればかりは仕方がない。おそらく今回の『揺さぶり』は自分には予想できない類のことなのだろう。
当のハイファは、もぐもぐと白身魚のチリソース炒めを頬張り咀嚼し飲み込むと、サーヴィスしているシェフにレシピなんぞ訊いている。プロの味そのものでなくてもアレンジしたハイファの料理なら間違いなく旨そうだな、などと考えだす。
そこから思いがシフトして、そういやハイファの手料理を何日食べていないのだろう、いや、これから先、元の生活に戻ってハイファの料理を食うことなどあるのかどうかすら疑問だな……そんな風に少々感傷に耽っていると、最長老がシドに手招きをした。
どうやら別室員でFC本社社長のハイファよりシドの方が話しやすいらしい。
苦笑しつつシドはハイファに合図をし、二人は皿とフォークにグラスを置く。
「言うておくが共同正犯じゃからな、FCとて未だにそれを続けておるということを忘れて貰っては困るぞよ。そこなFC本社社長のファサルート氏よ」
「分かりました。若輩者ですので、どうか簡潔に分かりやすくお願いします」
下手に出た丁寧な受け答えに安堵したのか、老人は語った。
「ここ三十年ほど、テラ連邦におけるレアメタルの価格帯は安定しておる。距離的にも、時間的にも遠すぎる百令星系やガムル星系のみに頼らずとも良くなったからじゃ。もっと近くて安定生産が見込める鉱山を発見・開拓した、それが価格安定にも繋がっておる」
「そのようですね。確かにそれは自社で確認させて貰いました」
「それなら話は早い。近場の星系に安定生産が見込める鉱山を発見・開拓しただけではここまでの価格安定には繋がらん。最も価格安定に繋がり貢献しているのは――」
「――いわゆるハードコア・カルテル、違法な価格カルテルですね」
「そう、その通りじゃよ。分かっておって言わせるとは若いクセに人が悪いのう」
「そういう訳では……まあいいか」
やはり読んでいたのか……呟いたバディを見てそう思い、シドは溜息をついた。
秘書センリーも勿論同行し前部座席に姿勢良く座っていた。時折思い出したように秘書用だろう上位機種だが装飾のないリモータで何事かを確かめている。
ファサルートコーポレーション本社社屋からディン資源公司バルナ支社までは三キロほどしか離れていなかったが、まさかのんびり散歩を愉しませて貰える筈もなく、大人しく頑丈な社用コイルの座席に腰掛けているしかない二人なのであった。
ディン資源公司のビルは円筒形で二十七階は外側の壁が全て透明素材という造り、そこから見えるテラ本星とビジネス・月、バルナの光景はなかなかのものである。
大きく切り取ったシフォンケーキ型の会食用広間に用意されていたのは立食形式のランチで、シドの存在を外せないハイファたちには好都合だった。
それに目前でシェフが腕を振るう料理はかなりの美味である。官品二人は豪華な中華に舌鼓を打った。
だが二十二名のテラ連邦エネルギー財団幹部は皆が皆、食欲は薄いようだった。
それもその筈で企業も大手になると互いに情報戦略を繰り広げる。その過程で一般には存在すら公表せず殆ど名称すら知られていない、『テラ連邦軍中央情報局第二部別室』の名が必ず浮上してくるのだ。それも有難い存在としてではなく。
テラ連邦は純然たる資本主義社会であり、会社とは利を追求する組織である。その『利』を得るために大手で儲けていればいるほど違法すれすれの行為をやらかしているのが普通だ。議員への付け届けは当たり前といった風だ。
それが慢性化した挙げ句、違法行為を違法とも思わなくなる会社も中には存在し、多少なら目を瞑れても行き過ぎると取り締まりの対象になるのは当然のことである。
しかし警察や検察に税務署などが手を出すまでもなく鉄槌を下される場合がある。まさに見せしめの如く、会社のためになっても『巨大テラ連邦の利のために』ならない場合、垣間見える鉄槌の持ち主が別室という訳だ。
又は通常の捜査機関では感知できない違法行為や、手を出せない大物絡み・他星系での独特な風習だの因習が捜査を邪魔する時も別室が密やかに動いて始末をつける。
イリーガルな相手に対してはイリーガルな手段を以てしてでも巨大テラ連邦の利を護る存在がテラ連邦軍中央情報局第二部別室なのだ。
自社の利のみを追求して目を付けられ、砂の城に水が染みこんだかのように、まるで内側から崩壊したかの如き末期を見せて消えていった会社は少なくない。だから脛に傷を持つ身であれば別室は恐怖の対象だ。
そして大会社なら何処だって多少は不正をやらかしている。喩え目の前にいるのが女性のようになよやかな若造であるにせよ舐めてかかる訳にはいかないのだった。
「先々月の会合に出席された皆さん。ちゃんとリモータは替えられましたか?」
暢気に間延びしたハイファの言葉に対して皆で譲り合ったのち、メッテルニヒの通夜の時にシドと話した最長老らしき老人が返答する。
「ああ、大丈夫じゃ。わしのはあのあと暫く放置しておって、見てみたら裏に穴が開いておった。このおいぼれがキミらに命を拾うて貰ったわい。礼を言うぞよ」
「そうですか。ところでそのリモータはどうされました?」
取り調べ口調にならぬよう気を付けながらシドが訊いた。
「わしのは捨ててしもうたが……」
「ああ、それなら私が持ってます、まだ穴は開いていませんが」
このメンバーの中では若手、チェンバーズと同じくらいの歳の男が挙手をした。男がポケットから出したのは絶縁体であろう白い包みだ。
「中身は?」
「IDや仕事関連は抹消してあります。デフォルトに近い」
「ならば頂いても宜しいですか?」
「構いませんよ」
別室に送って解析すれば、何かヒントが得られるかも知れない。シドが受け取る。
「あとは皆さん、ここでしか言えないこと、あとで知られて拙いことがあれば、是非ともこの場での申告をお勧めしますよ。別室はまだ本気じゃありませんからね~」
片手でワイングラスとプレートを持ち、軽い調子で言い置いてハイファは料理を取りに行った。中華のランチはシドも一通り堪能している。
しかしハイファはああ言ったものの、何を引き出そうとしているのだろうか。何の目算もなしにあんな言い方をする奴ではない。ぼんやりとでも何かを掴んでいて、揺さぶりをかけている筈だとシドは考えた。
会社の実務関係となると自分だけでなくハイファもからきしのようだが、少なくともハイファは跡継ぎとしての基礎教育は受けている。
捜査という点においてアドバンテージを取られるのは悔しいが、こればかりは仕方がない。おそらく今回の『揺さぶり』は自分には予想できない類のことなのだろう。
当のハイファは、もぐもぐと白身魚のチリソース炒めを頬張り咀嚼し飲み込むと、サーヴィスしているシェフにレシピなんぞ訊いている。プロの味そのものでなくてもアレンジしたハイファの料理なら間違いなく旨そうだな、などと考えだす。
そこから思いがシフトして、そういやハイファの手料理を何日食べていないのだろう、いや、これから先、元の生活に戻ってハイファの料理を食うことなどあるのかどうかすら疑問だな……そんな風に少々感傷に耽っていると、最長老がシドに手招きをした。
どうやら別室員でFC本社社長のハイファよりシドの方が話しやすいらしい。
苦笑しつつシドはハイファに合図をし、二人は皿とフォークにグラスを置く。
「言うておくが共同正犯じゃからな、FCとて未だにそれを続けておるということを忘れて貰っては困るぞよ。そこなFC本社社長のファサルート氏よ」
「分かりました。若輩者ですので、どうか簡潔に分かりやすくお願いします」
下手に出た丁寧な受け答えに安堵したのか、老人は語った。
「ここ三十年ほど、テラ連邦におけるレアメタルの価格帯は安定しておる。距離的にも、時間的にも遠すぎる百令星系やガムル星系のみに頼らずとも良くなったからじゃ。もっと近くて安定生産が見込める鉱山を発見・開拓した、それが価格安定にも繋がっておる」
「そのようですね。確かにそれは自社で確認させて貰いました」
「それなら話は早い。近場の星系に安定生産が見込める鉱山を発見・開拓しただけではここまでの価格安定には繋がらん。最も価格安定に繋がり貢献しているのは――」
「――いわゆるハードコア・カルテル、違法な価格カルテルですね」
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