Blue Revolution[青の公転]~楽園2~

志賀雅基

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第37話

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 BELはレアメタル輸入部門部長とセンリーにマクリスタル支社長、それにマルチェロ医師にシドとハイファという、結構な大所帯を乗せて飛び立った。
 それでもBELのパイロットとコ・パイロットも入れて八名は、巨大ファサルートコーポレーションの本社社長視察にしては異例の少人数であるという。

「ここから一時間半の場所にある第五鉱区を最初に視察致します。そこから約三十分で次の視察場である第十二鉱区へ向かい第十二出張所にて昼食。そして最後は二時間で、ここセフェロⅥで最大のトリアナチウム鉱床である第一鉱区へ参ります。第一鉱区は見甲斐のある鉱床ですが少々残念ながら現在はこの惑星の夜側になりますね」

 サラサラと上申するセンリーの顔色はまだ青く、皆は一様にドキドキして見守る。同行するマルチェロ医師は古びた鞄に点滴等を待機させていた。

 暫くの沈黙を破り、何処までも続く鬱蒼とした森の上空でハイファが切り出す。

「何処の鉱床にも鉱区の代表者っているんだよね?」
「それぞれに我が社の出張所があり、鉱区民とのパイプ役を担っておりますが」
「FC側じゃなくって、鉱区民側の代表ってことなんだけど」
「それはいるのでしょうが、まさか社長……?」
「そう。僕は彼らと直接会う」

 わざとらしい溜息をついて見せながらセンリーは呆れた風に頭を振った。

「わたくしと致しましては社長を危険に晒すことはできかねます。それに何の――」

 言い募ろうとしたセンリーをハイファは遮る。

「僕は『お願い』なんてしてないよ、センリー。ただ会うって言っただけ。もう決めてるんだから最初から手配しておけば良かったかな。全鉱区民の代表を集めてサ」
「そのような前例はございません」
「前例がないとダメなの? じゃあ全ての前例は誰が作ってきたのかな?」
「どうせ鉱区民の代表を一堂に会した日には、色々と情報交換だの不穏な動きだのを始めるかも知れねぇ、そいつは困る。だからじゃねぇのか?」

 当然のことをシドは口にし、違法カルテルを知り得る立場にいた秘書は沈黙した。

 今まではシドの言葉通りだった。だが違法な価格カルテルを抜け、企業体としての姿勢を正していくと宣言した新社長の下では違う。改革はこれからだが、ハイファの許でなら今後の鉱区民の生活も徐々に変わってゆく筈だ。

 今回の視察はその第一歩であり、鉱区民の生の表情を視られなくてはこの視察行に意味がない。おまけに別室任務における何かをハイファはここで掴もうとしているのだ。

「分かりました。先程の第一出張所以外、他の出張所はそれぞれが鉱区と隣接しております。BELを着けますので存分にご視察下さい。ですがくれぐれも……」
「注意するよ。超優秀な護衛もいることだしね」

 それから暫くは、これから行く鉱区の年間産出量だの埋蔵見込み量だのの部長の説明に終始した。シドは勿論、ハイファにも詳しくは分からぬ話だったが、とにかくとんでもない利益をこの惑星からFCが得ていることだけは感じ取れた。

「第五鉱区が見えて参りました、あそこです」

 センリーの声で窓外に目をやると、鬱蒼とした森の中に山脈が見えた。山脈は殆どが緑に浸食されているが、端の方では茶色い土砂が剥き出しになっている。

 ここで十数世紀も前から掘り続けられているレアメタル・トリアナチウム。

 反物質機関や様々な重力制御装置に欠かせない稀少金属は、鉱山の土壌にコンマ五パーセント含まれると説明があった。
 他星では考えられない含有量の多さだが、長い長い間に掘り捨てられた土砂の量も半端ではない。それらの土砂がちょっとした登山くらいできそうな、まさに山脈のような様相を呈しているのだ。

 遠目にも広大な鉱床を目の当たりにしてシドは複雑な思いに囚われた。濃い緑を切り開かれ掘削された剥き出しの土壌部分が、まだ生々しい傷跡のように見えたのだ。
 高度文明を享受して暮らし、当たり前のようにレアメタルの恩恵を受けて生きている自分が、まるで他者の大地を犯し蹂躙しているような気すらしてくる。

 そんなシドのにわかに重たくなった気分をよそに、BELは軽々と第五鉱区上空へと差し掛かった。土壌の中にぽつぽつと掘削機であろう黄色いマシンが散見される。
 どんどん高度を下げるにつれて、その機械の巨大さが分かってきた。

 やがてBELが安全高度ギリギリで鉱区上を旋回する頃には、地上の人々との対比で掘削機が先程までいた第一出張所の建物と変わらぬほどの大きさであると知れる。

「うわ、すっげぇ!」

 つい今し方の重い気分など吹き飛び、シドは思わず声を洩らしていた。現金なようだがこれが素直な感想だ。自分の力量を超えたことでウダウダ悩むタイプではない。

「今度はあれのプラモが欲しいとか言い出すんじゃないの?」

 ハイファが笑った。こういうモノに対してシドは『男の子』なのだ。

 BELは旋回を終え、出張所へとターンする。ランディングすると、リモータでセンリーが連絡していた出張所員が出迎えた。
 用意されたコイルに乗り込み、山脈方向を目差して悪路を二十分ほど走る。それでようやく実際に鉱区民が働き、暮らしている場所に辿り着いた。

 そこは想像以上に過酷な場所だった。鉱区民は元よりハイファにとっても、だ。

 彼らが着けている最低ヴァージョンのリモータが、まるで手枷のように見えた。そのくらい酷い光景が広がっていた。

 バラックのような小屋が山脈の陰に立ち並び、汚れきってあちこちがほつれた作業服の人々の表情は疲れ果てて陰鬱だった。
 ウェザコントロール、いわゆる気象制御すらしていないこの星で、あの小屋は果たして雨露がしのげるのだろうかとシドは疑問に思う。

 密かにハイファを窺うとノーブルな横顔は表情を消し、小屋の方から響く子供たちのはしゃぎ声に耳を傾けているようだった。

「忙しいんだ、早くしてくれ」

 巨大掘削マシンの唸りが低く響く中、鉱区代表であるというその男は、やってくるなり苦々しげに吐き捨てた。
 出張所員が本社社長の来訪だと伝えていた筈だが、黒髪の所々に青い髪が束で混ざった男の対応はぞんざいというのを少々越えている。

 だが階級社会の最底辺に生まれついた男に『違法カルテルを抜けたので、これから先は大丈夫です』などと軽はずみな甘い言葉は掛けられない。
 他星系には他星系の掟があり、外界からやってきたファサルートコーポレーションという一企業だけが何をどうしようと、彼らの望む全てを与え、不満を満足に変えてやれる確約などできないからだ。

 しかしハイファス=ファサルートは自身の意志を伝えることを選んだ。

「お邪魔して申し訳ありません。この目で鉱区を見たかったものですから。……ところでここに住宅と学校を建てたいのですがそれについて何かご意見はありますか?」
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