Blue Revolution[青の公転]~楽園2~

志賀雅基

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第45話

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 社長と秘書の言い争いを黙って聞くシドも、本音ではハイファを行かせたくなかった。
 それこそ破裂しそうな心を押し隠し、平然としたふりで鉱区民全員を皆殺しにしかねないからだ。

 そしてそのあともずっと平気な顔で居続ける。

 その顔を見ながら、いつ破裂するのかと怯え、その怯えを隠す自分も嫌なのだ。

 それでもシドは決めたのだった、ハイファが何処にいて何をしようが背を護ると。今のシドにできることはそれだけだった。
 本当なら言ってしまいたい、言って楽になりたい大切なことを告げずにいるほど、ハイファはこの自分を信頼してくれている。

 この自分がハイファの秘密を知らなければ満足できないような男だと思っていないのだ。スコットシネマシティの晩にシドが告げたことをキッチリ理解している。
 ならシド自身もハイファが間違った方向に走り出さないと信じついてゆくのみだ。

 とうとう根負けしたセンリーも巨大な溜息をついて手を差し出す。

「さっきのレーザーガン、もう一度お借りしても宜しいですね」

 シドとハイファは二人だけで行きたかったが別室任務を洩らせない以上仕方ない。
 そこに血だらけの白衣を着たままのマルチェロ医師がひょこひょこと現れた。

「『方向性の違うプロの犯行』とやらが嫌なら、俺にも何か貸せよ」

 と、治療に使用した合成蛋白スプレーとは反対側の手を出す。
 他にはシドの持つ有反動モードのシリルM二二〇しかない。そこで利き手側ではないが左肩を負傷しているマルチェロ医師にレーザーガン、センリーにシリルを持たせることにした。

 軍でも滅多に撃つことなどない旧式銃をホルスタごと渡されたセンリーは、小さな見た目を裏切る重さに少々情けない表情をする。
 かなりの反動が掛かるので手首でそれを逃がすこと、できれば両手で保持して撃つことなどを簡単にレクチャしたが、センリーに背を向けるのは誰もが不安だった。

◇◇◇◇

 緊張感を満載したコイルが鉱区に辿り着くと、案ずるより産むが易しという事が本当にあるものなのだと、皆がそれぞれに溜息をついて肩の力を抜いた。

 四名の来訪者を出迎えたのは広場に盛大に焚かれた幾つもの火と、それを囲む大勢の男女だった。誰一人として武装などしておらず、子供らまで勢揃いした彼らの表情は心配げだったものの、来訪者を敵視していないことは明らかだったのだ。

 コイルから降り立つと真っ先にハイファは人々に取り囲まれる。そうして痛ましそうな視線という視線は、消毒と合成蛋白スプレーに人工皮膚テープで処置しただけのこめかみに向けられていた。おろおろしてマルチェロ医師に様子を訊く者すらいる。

「ファサルートの坊ちゃん、若社長だよな。その傷、あいつらにやられたんだろ?」
「あいつら、どうしても止められなくて。本当にごめんなさいね」
「ああ、マルチェロ先生まで怪我をされて……」

 赤毛に真紅の束混じりの髪をした者の皆が皆、謝り続けているので話が掴めない。

「あのう、代表の方は?」
「わたしです」

 真ん前に立っていた大柄の女性が歯切れ良く答えた。想定外に若い。ハイファやシドと同じ歳くらいに思われた。二十代前半で代表とは並みならぬ人物と見受ける。

「僕を『坊ちゃん』なんて呼ぶ人を僕はテラ本星で一人しか知りません。つまりここにエレア=カシスから何らかの連絡がきた、そういうことですね?」
「ええ、一応セフェロⅥ最大の第一鉱区の代表なので、この通り――」

 と、女性は左手首を振って見せた。

「わたしのリモータはダイレクトワープ通信が受けられるギリギリのヴァージョンです。これにエレアから通信が入ったのです。本星歴で二ヶ月ほど前でしょうか」

 その女性が語るには二十三年前にこの地に視察にやってきたチェンバーズ=ファサルートが、鉱山の瓦礫に足を取られて軽い怪我をした際に、親身になって治療したエレアをいたく気に入ってテラ本星へと連れ帰ったのだそうだ。

 時期的におそらくエンジュ=セフェロも一緒だったと思われる。

 そのエレア=カシスから送られてきた通信にはファサルートコーポレーション社長が近く交代することの他、誠実な新社長を信用してくれぐれも過激な行動に走らぬようにとの懇願と、今後のハイファの行動への期待などが切々と綴られていたという。

「今までもこんな通信はあったんでしょうか?」
「ええ、出張所を経由して普通の通信は」
「ダイレクトワープ通信は?」
「いいえ、彼女がここを去ってからは初めてですが」
「では何故、テラ標準歴で二十三年も前に出て行った、貴女の歳では殆ど見た覚えもないような人間の言い分を信用する気になったんですか?」
「見たことがない? いいえ、見たことどころか遊んで貰ったのも覚えていますよ。わたしはここでいう六十歳、テラ標準歴で八十二歳です。このセフェロⅥでこういった髪を持つ者全て先祖返りのように長命系星人の血が濃く出て躰も強靱なのです」

 黙ってハイファの背後を固めていたシドが呟く。

「もしかして順番が逆……だから奴隷に選ばれちまったってことか?」
「そう……なんでしょうか、よく分かりませんが。ともかくエレアはわたしの叔母にあたり、幼い頃はよく面倒を見て貰いました。彼女はテラ標準歴で百歳を越えていますよ」
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