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第6話
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大声は男の気を引くため、僅かに銃口が逸れた隙にシドはトリガを引く。「ガシュッ」というレールガン独特の発射音に「ガォン!」というハイファのテミスコピーの撃発音が重なった。狙いたがわず銃を持った男の腕に二発が着弾。銃が腕ごとゴトリと落ちる。
だがそれを見ていた三人目の男が脱兎の如く逃げ出した。シドが追う。
「止まれ、撃つぞ!」
十五メートルほどを走ってシドは男の足元にフレシェット弾を撃ち込んだ。歩道を造るファイバブロックが砕けて爆発的に飛び散り、男は跳び上がってこちらを向く。その目を見てシドは相手がジャンキーだと悟った。
既に野次馬が輪を作り始め、囲まれたジャンキーも逃げられないと悟ったか、身を翻してシドに突っ込んでくる。その手にはバタフライナイフが握られていて、横薙ぎに走った白刃をシドは危うくスウェーバックで避けた。
鼻先を通り過ぎた銀光から目を離さず二歩後退、間合いを取ってジャンキーにローキックを入れると見せかけ、回し蹴りで手首を打つ。ファイバブロックにナイフが落ちた。だがジャンキーは諦めずにむしゃぶりついてくる。その勢いを利用してシドは懐に飛び込むと、胸ぐらと片腕を取って腰に相手の体重を載せ、身を返して地面に叩きつけた。
ようやくジャンキーは一声呻いたのちに沈黙、気絶する。
ベルトの後ろにつけたリングから捕縛用の樹脂製結束バンドを引き抜くと、ジャンキーの両手を後ろ手に、両足首も同様に縛り上げて、そのポケットを探った。
するとジャケットといわずジーンズといわず、同じカプセルの入った分包がザクザクと出てくる。そのうちふたつを対衝撃ジャケットのポケットに仕舞い、ジャンキーのリモータを操作した。だが一見したところ殆どのデータはデリートされていて歯が立たないのを確認、ハイファの許に駆け戻る。
「発振したよ。本日二回目の乱闘ご苦労様。貴方は大丈夫?」
「ああ、何ともねぇよ」
応えながら肘からちぎれた男の二の腕を結束バンドで締め上げた。次に最初に撃たれて倒れたスーツ男の様子を看たが、こちらは綺麗にハートショットを食らっていて止血のしようもない。
腕をちぎった男のリモータも操作すると、これも殆どの情報がデリートされた状態だった。唯一、胸を撃たれた男のリモータだけが通常表示される。
「ロブ=カーター、住所は五分署管内か」
幾重にも取り囲んだ野次馬の輪がざわめき、血に怯えたご婦人方の悲鳴が響く中、待つこと三分ほどで緊急機が飛来し路肩に接地した。
「何だ何だ、派手にやってくれたな、イヴェントストライカ!」
緊急機から降りてきたゴーダ主任に背中をどつかれてシドは咳き込む。
「ゲホゲホッ! やらかしたって、俺が始めた訳じゃないですよ」
「だが派手だろうが」
「ハートショットは冤罪で……ゲホゲホ」
二発、三発と続けてどつかれ閉口しているうちに、緊急音を鳴らして救急機も現着した。
救急機から飛び降りてきた白ヘルメットの隊員たちはシドの顔を一瞥して物わかりよく頷き、胸を撃たれた男と腕のちぎれた男、その腕を移動式再生槽の中にボチャンと投げ込んだ。ついでに気絶したジャンキーも機内に放り込んで速やかにテイクオフ。
見送ってゴーダ主任がシドに訊いた。
「で、あいつらは何なんだ?」
「たぶん売人とシキテンです。こいつを持ってました」
と、ジャンキーの持っていたカプセルの袋をひとつ手渡す。シキテンとは闇取引の現場で当局の人間がいないかどうかを見張る役目の者のことである。
「こんな時間に、こんな所で取引か?」
「セオリーを無視してやがりますね」
「ふん、客とのトラブルか。まあいい、さっさと実況見分やるぞ」
鑑識班が退き、慣れたメンバーでの実況見分もスルスルと終了すると、ゴーダ主任のバディであるナカムラがシドに遠慮がちに声を掛けた。
「ヴィンティス課長からの伝言です。『歩いて帰るな、BELで帰れ』だそうです」
「ふん、署はすぐそこじゃねぇか。胆の小せぇ上司には苦労させられるぜ」
「って、シド。まさかこの期に及んで歩いて帰るの?」
「仕方ねぇな。武士の情けだ、乗って帰ってやるか」
偉そうに宣言してシドはゴーダ主任に続き、悠々とBELに乗り込んだ。ハイファとナカムラが静かに乗り込むと緊急機はテイクオフ、署まではたったの三分だ。
機動捜査課のデカ部屋に戻ると、昨日に引き続いての狙撃逮捕の報を聞いたヴィンティス課長は、増血剤と胃薬の瓶を並べた多機能デスクに沈没していた。
頭を抱えて時折哀しみを湛えたブルーアイを向けてくる課長はガン無視、シドはハイファと地下留置場からひったくりを出して取調室に連行した。
ひったくりに続いてオートドリンカ荒らしの取り調べを済ませ、また身柄を留置場に放り込むと、デカ部屋に戻ったシドは自分のデスクに着く。対衝撃ジャケットを椅子の背に掛け、積まれた電子回覧物をチェックしながら一服だ。
すかさずハイファが泥水コーヒーの紙コップをふたつ運んでくる。
煙草と泥水を交互に口に運んでいると、ハイファが今度は大量の紙束を打ち出して持ってきた。キッチリ二等分して一方をシドのデスクに置く。
「昨日のタタキ二名の狙撃逮捕で三枚、誘拐犯狙撃逮捕で三枚にひったくりとドリンカ荒らしで二枚、さっきの狙撃逮捕で三枚、始末書が三枚で合計十四枚だよ。明日は明日の始末書が降るんだから、さあ、頑張って書きましょうねー」
だがそれを見ていた三人目の男が脱兎の如く逃げ出した。シドが追う。
「止まれ、撃つぞ!」
十五メートルほどを走ってシドは男の足元にフレシェット弾を撃ち込んだ。歩道を造るファイバブロックが砕けて爆発的に飛び散り、男は跳び上がってこちらを向く。その目を見てシドは相手がジャンキーだと悟った。
既に野次馬が輪を作り始め、囲まれたジャンキーも逃げられないと悟ったか、身を翻してシドに突っ込んでくる。その手にはバタフライナイフが握られていて、横薙ぎに走った白刃をシドは危うくスウェーバックで避けた。
鼻先を通り過ぎた銀光から目を離さず二歩後退、間合いを取ってジャンキーにローキックを入れると見せかけ、回し蹴りで手首を打つ。ファイバブロックにナイフが落ちた。だがジャンキーは諦めずにむしゃぶりついてくる。その勢いを利用してシドは懐に飛び込むと、胸ぐらと片腕を取って腰に相手の体重を載せ、身を返して地面に叩きつけた。
ようやくジャンキーは一声呻いたのちに沈黙、気絶する。
ベルトの後ろにつけたリングから捕縛用の樹脂製結束バンドを引き抜くと、ジャンキーの両手を後ろ手に、両足首も同様に縛り上げて、そのポケットを探った。
するとジャケットといわずジーンズといわず、同じカプセルの入った分包がザクザクと出てくる。そのうちふたつを対衝撃ジャケットのポケットに仕舞い、ジャンキーのリモータを操作した。だが一見したところ殆どのデータはデリートされていて歯が立たないのを確認、ハイファの許に駆け戻る。
「発振したよ。本日二回目の乱闘ご苦労様。貴方は大丈夫?」
「ああ、何ともねぇよ」
応えながら肘からちぎれた男の二の腕を結束バンドで締め上げた。次に最初に撃たれて倒れたスーツ男の様子を看たが、こちらは綺麗にハートショットを食らっていて止血のしようもない。
腕をちぎった男のリモータも操作すると、これも殆どの情報がデリートされた状態だった。唯一、胸を撃たれた男のリモータだけが通常表示される。
「ロブ=カーター、住所は五分署管内か」
幾重にも取り囲んだ野次馬の輪がざわめき、血に怯えたご婦人方の悲鳴が響く中、待つこと三分ほどで緊急機が飛来し路肩に接地した。
「何だ何だ、派手にやってくれたな、イヴェントストライカ!」
緊急機から降りてきたゴーダ主任に背中をどつかれてシドは咳き込む。
「ゲホゲホッ! やらかしたって、俺が始めた訳じゃないですよ」
「だが派手だろうが」
「ハートショットは冤罪で……ゲホゲホ」
二発、三発と続けてどつかれ閉口しているうちに、緊急音を鳴らして救急機も現着した。
救急機から飛び降りてきた白ヘルメットの隊員たちはシドの顔を一瞥して物わかりよく頷き、胸を撃たれた男と腕のちぎれた男、その腕を移動式再生槽の中にボチャンと投げ込んだ。ついでに気絶したジャンキーも機内に放り込んで速やかにテイクオフ。
見送ってゴーダ主任がシドに訊いた。
「で、あいつらは何なんだ?」
「たぶん売人とシキテンです。こいつを持ってました」
と、ジャンキーの持っていたカプセルの袋をひとつ手渡す。シキテンとは闇取引の現場で当局の人間がいないかどうかを見張る役目の者のことである。
「こんな時間に、こんな所で取引か?」
「セオリーを無視してやがりますね」
「ふん、客とのトラブルか。まあいい、さっさと実況見分やるぞ」
鑑識班が退き、慣れたメンバーでの実況見分もスルスルと終了すると、ゴーダ主任のバディであるナカムラがシドに遠慮がちに声を掛けた。
「ヴィンティス課長からの伝言です。『歩いて帰るな、BELで帰れ』だそうです」
「ふん、署はすぐそこじゃねぇか。胆の小せぇ上司には苦労させられるぜ」
「って、シド。まさかこの期に及んで歩いて帰るの?」
「仕方ねぇな。武士の情けだ、乗って帰ってやるか」
偉そうに宣言してシドはゴーダ主任に続き、悠々とBELに乗り込んだ。ハイファとナカムラが静かに乗り込むと緊急機はテイクオフ、署まではたったの三分だ。
機動捜査課のデカ部屋に戻ると、昨日に引き続いての狙撃逮捕の報を聞いたヴィンティス課長は、増血剤と胃薬の瓶を並べた多機能デスクに沈没していた。
頭を抱えて時折哀しみを湛えたブルーアイを向けてくる課長はガン無視、シドはハイファと地下留置場からひったくりを出して取調室に連行した。
ひったくりに続いてオートドリンカ荒らしの取り調べを済ませ、また身柄を留置場に放り込むと、デカ部屋に戻ったシドは自分のデスクに着く。対衝撃ジャケットを椅子の背に掛け、積まれた電子回覧物をチェックしながら一服だ。
すかさずハイファが泥水コーヒーの紙コップをふたつ運んでくる。
煙草と泥水を交互に口に運んでいると、ハイファが今度は大量の紙束を打ち出して持ってきた。キッチリ二等分して一方をシドのデスクに置く。
「昨日のタタキ二名の狙撃逮捕で三枚、誘拐犯狙撃逮捕で三枚にひったくりとドリンカ荒らしで二枚、さっきの狙撃逮捕で三枚、始末書が三枚で合計十四枚だよ。明日は明日の始末書が降るんだから、さあ、頑張って書きましょうねー」
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