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第41話
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錠剤三シートを空にしたところで黒塗りはホテルの前に停止し接地した。
黒塗りから降ろされてホテルを見上げる。七分署管内だけにシドもよく知っている、コンスタンスホテルというビジネスホテルだった。
ここでもプロは銃を突き付けて強引に事を運んだりはしない。ホテル内に足を運ぶと、先に二人がフロントに立ち、次にシドにチェックインさせる。後ろからは別の客を装って二人が絶妙な距離感を保っていた。
「――三階、三〇七号室になります」
勿論、エレベーターには男四人が一緒に乗り込んだ。降りて廊下を歩き、辿り着いた三〇七号室のオートではないドアのキィロックコードをシドに解除させて室内に足を踏み入れる。内部はベッドにひとつきりのソファ、ロウテーブルにデスクとチェアという簡素なものだ。フリースペースは僅かで、奥の扉がトイレとバスルームだろう。
ここに至るも武装解除されず、だがやはり四人の男たちに隙を見つけられない。
チェアに座らされて待つこと暫し、四人の男の他に新顔の男が入ってきて、新しいウィスキーを一本と薬瓶をふたつデスクに置いて去った。
姿勢良く立ったまま取り囲む男たちをシドは見上げる。
「本当にあんたら、この手のやり口は変わらねぇな」
「ほう、妙なことに詳しいようだな」
「『これ』をやられたのは初めてじゃねぇんだよ」
以前はハイファの隣人カール=ネスを助けるためにシドが囮となり、結局は間一髪でテラ連邦軍中央情報局の兵を引き連れた別室長その人までが出張ってきて助かった。
だがシド自身は助けられたとは思っていない。別室長のわざとらしい誤解を招く発言の繰り返しにより、調別には、
『シド=ワカミヤは別室長の愛人だ』
という、それこそ首を括りたくなる様なエゲツない噂が蔓延することになったのだ。お蔭でシドは自分の命よりも先に名誉を気にして男たちに訊いた。
「おんなじ手口におんなじメンバーが雁首揃えるのは勘弁してくれよな」
「安心しろ、別室サイドに情報は洩らしてはいない」
よく言うぜ、ハイファが追ってきている筈なのによ……そう思う間も銃口でモノを言われてウィスキーと錠剤を食うしかない。
だが幾ら飲んでもアルコールが効かない体質とはいえ、空きっ腹にプラスして薬物である。シドはだんだん気持ち悪くなってきた。同時に顔色が悪くなったか「頃合い」だと思ったらしい男たちが動く。
酔いもしないので薬の作用に任せ、人事不省になった(と思わせて)ベッドに移動し、シド自身が銃で自分の頭をぶち抜いたというシナリオに決めたようだ。
体に手を掛けられたシドは舌をもつれさせながらも訊いてみる。
「それで冥土の土産に訊きたいんだが、あんたらを動かしたのは植民地委員会の副委員長エリアス=ワーナーで間違いねぇのか?」
答えず男は肩を竦めた。本当に知らないのかも知れない。
「こうしてトカゲの尻尾切りを続けるより、逆に本ボシを挙げた方が楽じゃねぇか?」
「我々に言われても困る。まあ、尤もだとは思うが」
「たまには意見具申してみるのも手だと思うぜ?」
「なるほど、忠告は次の仕事で活かすことにしよう」
「次と言わずに、今なら指南してやるが、どうだ?」
リーダー格らしい男はシドではなくリモータを見て頷く。
シドは並外れて薬の類に強い体質でアルコールにも酔わないために少々状況を甘く見過ぎていたようだ。稼げるだけの時間は稼いだ。ハイファが遅い。
レックスを捜せと言ったのは余計だったかも知れないと思い始める。あの躁男は何処にいても目立つ上に、ナイトと別室が用意したリモータにはトレーサーも付いていた。だからといって一ヶ所で大人しくしているとは思えない。
さすがに抗い難い眠気が襲う。強く意識した時には腰のレールガンが無かった。
動けるうちに「寝たフリ」でレールガンを奪い返せるか――?
そこで完全防音の部屋に何かがこだました。二回、三回と続く音は出入り口のドアを振動させる。あまりに激しい音に男四人の視線が僅かに向いた。その瞬間をシドは見逃さない。一切の予備動作なしで男が背に差していた巨大レールガンを抜き撃つ。
反射的に男たちが振り向いたときにはもう遅い、マックスパワーで放たれた二射はドアの蝶番辺りを中心に直径五十センチはあろうかという大穴を穿っていた。
「ハイファ!」
叫んだが先にドアを蹴って飛び込んできたのはレックス=ナイト、四十五口径の大型セミ・オートを手にしていた。おまけにレジーまでが滑空して室内に舞い込んでくる。
「メクソミミクソ……クエーッ!」
続けて駆け込んできたのはハイファ、だがテミスコピーの銃口は調別の男四人ではなく、ドアの外に向けられていた。
「シド、伏せてっ!」
しかし伏せる間もなくサブマシンガンの一連射が対衝撃ジャケットの胸を通過する。事態を読めずにシドを囲んでいた男たちが血飛沫を上げた。頽れる彼らを見ているヒマはない、ドアの外からこちらに向けてサブマシンガンを構える男にシド、マックスパワーのままでダブルタップをぶちかます。男は得物ごと吹っ飛んで廊下の壁に背を叩きつけた。
「いったい何なんだ、助けに来たんじゃねぇのか!」
椅子を蹴って体を投げ出しながら喚く。
「観光中にレックスがビューラーファミリーに襲われたの!」
「お礼参りのカチコミって、お前はこのパターンしか持ち合わせがねぇのかよっ!?」
黒塗りから降ろされてホテルを見上げる。七分署管内だけにシドもよく知っている、コンスタンスホテルというビジネスホテルだった。
ここでもプロは銃を突き付けて強引に事を運んだりはしない。ホテル内に足を運ぶと、先に二人がフロントに立ち、次にシドにチェックインさせる。後ろからは別の客を装って二人が絶妙な距離感を保っていた。
「――三階、三〇七号室になります」
勿論、エレベーターには男四人が一緒に乗り込んだ。降りて廊下を歩き、辿り着いた三〇七号室のオートではないドアのキィロックコードをシドに解除させて室内に足を踏み入れる。内部はベッドにひとつきりのソファ、ロウテーブルにデスクとチェアという簡素なものだ。フリースペースは僅かで、奥の扉がトイレとバスルームだろう。
ここに至るも武装解除されず、だがやはり四人の男たちに隙を見つけられない。
チェアに座らされて待つこと暫し、四人の男の他に新顔の男が入ってきて、新しいウィスキーを一本と薬瓶をふたつデスクに置いて去った。
姿勢良く立ったまま取り囲む男たちをシドは見上げる。
「本当にあんたら、この手のやり口は変わらねぇな」
「ほう、妙なことに詳しいようだな」
「『これ』をやられたのは初めてじゃねぇんだよ」
以前はハイファの隣人カール=ネスを助けるためにシドが囮となり、結局は間一髪でテラ連邦軍中央情報局の兵を引き連れた別室長その人までが出張ってきて助かった。
だがシド自身は助けられたとは思っていない。別室長のわざとらしい誤解を招く発言の繰り返しにより、調別には、
『シド=ワカミヤは別室長の愛人だ』
という、それこそ首を括りたくなる様なエゲツない噂が蔓延することになったのだ。お蔭でシドは自分の命よりも先に名誉を気にして男たちに訊いた。
「おんなじ手口におんなじメンバーが雁首揃えるのは勘弁してくれよな」
「安心しろ、別室サイドに情報は洩らしてはいない」
よく言うぜ、ハイファが追ってきている筈なのによ……そう思う間も銃口でモノを言われてウィスキーと錠剤を食うしかない。
だが幾ら飲んでもアルコールが効かない体質とはいえ、空きっ腹にプラスして薬物である。シドはだんだん気持ち悪くなってきた。同時に顔色が悪くなったか「頃合い」だと思ったらしい男たちが動く。
酔いもしないので薬の作用に任せ、人事不省になった(と思わせて)ベッドに移動し、シド自身が銃で自分の頭をぶち抜いたというシナリオに決めたようだ。
体に手を掛けられたシドは舌をもつれさせながらも訊いてみる。
「それで冥土の土産に訊きたいんだが、あんたらを動かしたのは植民地委員会の副委員長エリアス=ワーナーで間違いねぇのか?」
答えず男は肩を竦めた。本当に知らないのかも知れない。
「こうしてトカゲの尻尾切りを続けるより、逆に本ボシを挙げた方が楽じゃねぇか?」
「我々に言われても困る。まあ、尤もだとは思うが」
「たまには意見具申してみるのも手だと思うぜ?」
「なるほど、忠告は次の仕事で活かすことにしよう」
「次と言わずに、今なら指南してやるが、どうだ?」
リーダー格らしい男はシドではなくリモータを見て頷く。
シドは並外れて薬の類に強い体質でアルコールにも酔わないために少々状況を甘く見過ぎていたようだ。稼げるだけの時間は稼いだ。ハイファが遅い。
レックスを捜せと言ったのは余計だったかも知れないと思い始める。あの躁男は何処にいても目立つ上に、ナイトと別室が用意したリモータにはトレーサーも付いていた。だからといって一ヶ所で大人しくしているとは思えない。
さすがに抗い難い眠気が襲う。強く意識した時には腰のレールガンが無かった。
動けるうちに「寝たフリ」でレールガンを奪い返せるか――?
そこで完全防音の部屋に何かがこだました。二回、三回と続く音は出入り口のドアを振動させる。あまりに激しい音に男四人の視線が僅かに向いた。その瞬間をシドは見逃さない。一切の予備動作なしで男が背に差していた巨大レールガンを抜き撃つ。
反射的に男たちが振り向いたときにはもう遅い、マックスパワーで放たれた二射はドアの蝶番辺りを中心に直径五十センチはあろうかという大穴を穿っていた。
「ハイファ!」
叫んだが先にドアを蹴って飛び込んできたのはレックス=ナイト、四十五口径の大型セミ・オートを手にしていた。おまけにレジーまでが滑空して室内に舞い込んでくる。
「メクソミミクソ……クエーッ!」
続けて駆け込んできたのはハイファ、だがテミスコピーの銃口は調別の男四人ではなく、ドアの外に向けられていた。
「シド、伏せてっ!」
しかし伏せる間もなくサブマシンガンの一連射が対衝撃ジャケットの胸を通過する。事態を読めずにシドを囲んでいた男たちが血飛沫を上げた。頽れる彼らを見ているヒマはない、ドアの外からこちらに向けてサブマシンガンを構える男にシド、マックスパワーのままでダブルタップをぶちかます。男は得物ごと吹っ飛んで廊下の壁に背を叩きつけた。
「いったい何なんだ、助けに来たんじゃねぇのか!」
椅子を蹴って体を投げ出しながら喚く。
「観光中にレックスがビューラーファミリーに襲われたの!」
「お礼参りのカチコミって、お前はこのパターンしか持ち合わせがねぇのかよっ!?」
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