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第37話
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ホテルから買い出しに行って戻ってきた霧島を、一瞬京哉は誰かが部屋を間違えて闖入してきたのかと思った。服装は出て行った時と同じダークスーツにロング丈のチェスターコートだったが、目深にソフト帽まで被っていたからだ。
そんな格好をして何か警戒しているように、長身の大柄な図体に似合わずコソコソとドアを閉めたりしている。
「どうしたんです? ただでさえマフィアみたいなのに何処かのドンみたいですよ」
ホテルに入った夜を含めて三晩が過ぎていた。
霧島の傍で安心した京哉は急速に回復し、ゆっくりなら部屋の中を自由に歩けるまでになった。それを待って霧島は独りで二人分の着替えを買いに出掛けたのだった。
「失敬な奴だな。人が危険を冒してまで買い物に行ってきたというのに」
「それは感謝してますけど、その格好はいったい何なんですか?」
「じつはな……私たちが賞金首になっている」
「ええっ、何それ?」
「お前はアンセルムの屋敷から偶然出ていた手下が残っていて、『爆撃は前のドンを射殺したエージェントが手引きした』などと言い始めたのに尾ひれが付いた」
既に京哉もアンセルムの屋敷がこの世から消滅した大事件は知っている。
「爆撃で死んだとは思わなかったんですかね?」
「だから尾ひれが付いて、見つかれば幸いくらいの感覚なんだろう」
「じゃあ忍さんは?」
「私はもっと拙い。カジノで助けたアンセルムと一緒にヘリに乗ったのをカジノの従業員に見られている。そのタイミングで『ドカン!』だ。それこそ伝説のヒットマン扱いだ」
「厄介ですね。でもバーナードファミリーは混乱・収拾不能じゃないんですか。跡目を継ぐ人材もいない筈でしょう。いったい誰が賞金なんて懸けてるんです?」
ポケットから煙草を出して一本咥え、火を点けた霧島は溜息混じりに告げた。
「この辺りの街の治安を一手に担う、自治警察だそうだ」
「うわあ、警察って本当に?」
「ああ、やられた。想定外だった」
「ホテルの人とお医者さんに見られてる、もう通報されてるかも知れませんよ?」
「よく考えろ。京哉お前、熱で頭の回転が鈍っているぞ。いいか、自治警察が迎えにきてくれたらそれでいいんだ。大人しく捕まって私たちの持つ日本政府やバルドール軍発行の書類を見せればいいのだからな。幾ら何でも日本や自国軍の上層部に盾突かんだろう」
幸いながら京哉の分の書類やパスポートなども回収してある。これらの書類があれば捕まってもすぐに釈放されるだろうと思われた。
「そっか。じゃあ、それこそ自分で自治警察に通報すれば早いんじゃないですか?」
「やってみたし、街なかのTVでも見たが、山ほど入る『似たような人物を見た』情報で電話回線も自治警察の『似たような人物』確認部隊もパンク状態ということだ。そもそもこの国は通信回線自体が少ない上に常に繋がるとは限らんからな」
「そういや前に任務で入隊した時にそれ言ってましたもんね。じゃあ忍さんがひとっ走り自治警察まで行ってきて下さい。僕は大人しく待ってますから」
あっさり言った京哉に霧島は諸手を挙げてみせる。
「簡単に言うな。自治警察まで片道五十キロあるんだぞ。その間のタクシーのドライバーが賞金稼ぎに化けたら私は袋叩きじゃ済まされん。逆に本物のヒットマンになるのも私は嫌だ」
既にリボルバ爆弾での爆破も全て京哉に話してあった。すると哀しむより京哉は怒ったのだ。二人して生きる側に回る、それもどうせ生きるのだから納得し、真っ直ぐ前を向いて生きて行くと霧島自身が言った。ならばどうして俯いて話すんだと。
納得していないのなら殺した数十人を生き返らせろ、それができないからこの自分は心に立ち並ぶ墓標で心の一部が壊れかけたのだ。そんなこの自分の状態を的確に見抜き、癒してくれていながら、霧島が納得せず俯いているのは京哉と同じ轍を踏むことだ、そう激しく怒った。
『気にするのはとても貴方らしいと思います。でも決めた貴方が気に病むのは全く意味が違うと思います。納得しているのなら真っ直ぐ前を向いて下さい』
怒られた挙げ句そんな風に言われて、大男の背筋が伸びたのだった。
そんなやり取りの後でヒットマンにまで昇格するのはどうかと思われた。
そんな格好をして何か警戒しているように、長身の大柄な図体に似合わずコソコソとドアを閉めたりしている。
「どうしたんです? ただでさえマフィアみたいなのに何処かのドンみたいですよ」
ホテルに入った夜を含めて三晩が過ぎていた。
霧島の傍で安心した京哉は急速に回復し、ゆっくりなら部屋の中を自由に歩けるまでになった。それを待って霧島は独りで二人分の着替えを買いに出掛けたのだった。
「失敬な奴だな。人が危険を冒してまで買い物に行ってきたというのに」
「それは感謝してますけど、その格好はいったい何なんですか?」
「じつはな……私たちが賞金首になっている」
「ええっ、何それ?」
「お前はアンセルムの屋敷から偶然出ていた手下が残っていて、『爆撃は前のドンを射殺したエージェントが手引きした』などと言い始めたのに尾ひれが付いた」
既に京哉もアンセルムの屋敷がこの世から消滅した大事件は知っている。
「爆撃で死んだとは思わなかったんですかね?」
「だから尾ひれが付いて、見つかれば幸いくらいの感覚なんだろう」
「じゃあ忍さんは?」
「私はもっと拙い。カジノで助けたアンセルムと一緒にヘリに乗ったのをカジノの従業員に見られている。そのタイミングで『ドカン!』だ。それこそ伝説のヒットマン扱いだ」
「厄介ですね。でもバーナードファミリーは混乱・収拾不能じゃないんですか。跡目を継ぐ人材もいない筈でしょう。いったい誰が賞金なんて懸けてるんです?」
ポケットから煙草を出して一本咥え、火を点けた霧島は溜息混じりに告げた。
「この辺りの街の治安を一手に担う、自治警察だそうだ」
「うわあ、警察って本当に?」
「ああ、やられた。想定外だった」
「ホテルの人とお医者さんに見られてる、もう通報されてるかも知れませんよ?」
「よく考えろ。京哉お前、熱で頭の回転が鈍っているぞ。いいか、自治警察が迎えにきてくれたらそれでいいんだ。大人しく捕まって私たちの持つ日本政府やバルドール軍発行の書類を見せればいいのだからな。幾ら何でも日本や自国軍の上層部に盾突かんだろう」
幸いながら京哉の分の書類やパスポートなども回収してある。これらの書類があれば捕まってもすぐに釈放されるだろうと思われた。
「そっか。じゃあ、それこそ自分で自治警察に通報すれば早いんじゃないですか?」
「やってみたし、街なかのTVでも見たが、山ほど入る『似たような人物を見た』情報で電話回線も自治警察の『似たような人物』確認部隊もパンク状態ということだ。そもそもこの国は通信回線自体が少ない上に常に繋がるとは限らんからな」
「そういや前に任務で入隊した時にそれ言ってましたもんね。じゃあ忍さんがひとっ走り自治警察まで行ってきて下さい。僕は大人しく待ってますから」
あっさり言った京哉に霧島は諸手を挙げてみせる。
「簡単に言うな。自治警察まで片道五十キロあるんだぞ。その間のタクシーのドライバーが賞金稼ぎに化けたら私は袋叩きじゃ済まされん。逆に本物のヒットマンになるのも私は嫌だ」
既にリボルバ爆弾での爆破も全て京哉に話してあった。すると哀しむより京哉は怒ったのだ。二人して生きる側に回る、それもどうせ生きるのだから納得し、真っ直ぐ前を向いて生きて行くと霧島自身が言った。ならばどうして俯いて話すんだと。
納得していないのなら殺した数十人を生き返らせろ、それができないからこの自分は心に立ち並ぶ墓標で心の一部が壊れかけたのだ。そんなこの自分の状態を的確に見抜き、癒してくれていながら、霧島が納得せず俯いているのは京哉と同じ轍を踏むことだ、そう激しく怒った。
『気にするのはとても貴方らしいと思います。でも決めた貴方が気に病むのは全く意味が違うと思います。納得しているのなら真っ直ぐ前を向いて下さい』
怒られた挙げ句そんな風に言われて、大男の背筋が伸びたのだった。
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