特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する任務~楽園29~

志賀雅基

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第5話

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「うーん、ここでコレにお目に掛かるとはね」

 呟いたハイファにシドも溜息混じりだ。

「こんなモン使うのはポリアカ以来だぜ」
「当たれば結構痛いんだよね、場所によってはアザくらいできちゃうし」
「お前ハイファ、絶対、顔なんかに被弾するなよ」
「みんなを信じるしかないよ」

 どういうシチュエーションを想定したものか勝手に全員参加が決められていて、それこそ互いの腕と判断力、更には自分の日頃の行いを信じるしかないのであった。シドに至っては対衝撃ジャケットまで脱がされて、どうにも嫌な予感を抑えることができない。

 ふと視線を感じてシドは、統括本部長に付き従うように立っているヴィンティス課長を振り向いた。目が合うと青い目は憂いを湛えていて、互いに二年以上も前のハンドグレネード爆発事件を思い浮かべていることが分かる。付き合いも長くなるとテレパス並みだ。

「シド、頼むから新しいバトルフィールドまで粉砕しないでくれたまえよ」
「俺がやった訳じゃないのは、課長も御存知でしょう」
「だが取り付けられていた時限装置を作動させたのはキミだ」
「じゃあ何ですか、処理場まで保たないアレをどうしたらよかったんですかね?」
「う……む、過去はもういい。とにかく気を付けてくれ」

 今週も記録的な数値をマークした七分署管内の事件発生率に頭と胃を痛めるヴィンティス課長は、その事実を統括本部長に報告しただけで既に疲れ切っているようだ。

「そんなに心配なら、課長も参加したらいいじゃないですか」

 何気ないシドの科白で全員が振り向きヴィンティス課長を注視した。課長は少々仰け反った。統括本部長までが自分に視線を注いでいるのに気付き、エドワード=ヴィンティスは無言の圧力に追い詰められる。

「あー、いや、それはだな――」
「エドワードくん、是非とも参加したまえ」
「……はい」

◇◇◇◇

 息を殺してシドはドア向こうの気配を窺った。何も感じられない。ハイファに合図し、下がらせて自分の背に庇った。ドアノブに手を伸ばして開ける。開かない。

 だが手にした銃はいつものレールガンではない、コンパチ・シリルである。上下の蝶番にぶち込んで蹴り開ける訳にはいかないのだ。そこでシドはハイファが止める間もなく、後半部分だけ実行した。
 つまりは力任せに蹴り開けたのだ。鍵の掛かった合板のドアが壊れて吹っ飛ぶ。

「わあ、やっちゃった!」
「いいから行くぞ、ハイファ!」
「ヤー!」

 反射的に返事をしてしまいハイファは後悔したものの、もう遅い。仕方なく飛び込んだ部屋にシドと背中合わせで立ち、全方位警戒。見取ったのは女性が住んでいたらしき室内の仕様で、ベッドにクローゼット、鏡台などである。どれも使われなくなってから随分と年月を経たような、触れば朽ちそうな風情だ。人はいない。

 だが今にも鏡台に青白い顔をした女性が映るんじゃないのかな、などとハイファは薄気味悪く思う。次の瞬間、気配を感じて窓の方を注視した。外は闇、だがヒビの入った窓には無数の人の手が張り付いて蠢いていた。
 思わずハイファは叫びながらシドに抱きつく。

「わあああ~っ!」
「デカい声、出すなよハイファ」
「う、ごめん。でもナニこれ、勘弁してよ、もう」
「いいから黙って索敵……うわああ~っ!」

 上から降ってきたナニかにぬるりと顔を撫でられ、今度はシドが喚く。ハイファが確かめて見れば、それは古典的にもほどがある、今どきホロでもない実物のマネキンの頭部であった。ゴム紐でぶら下げられた長い黒髪が、びょんびょんと弾んでシドの頬を擦過したのである。

「くそう、バカにしやがって! さっさとこんな所から出るぞ」

 しかし次の部屋ではド真ん中に棺桶が置かれていて、フラグ以外の何物でもないソレを無視して出ようとしたらフタが開き、中から現れたのはケヴィン警部だった。咄嗟に向けられた銃をハイファが撃ち落としたのみ、足は止めずに部屋をそのまま突っ切って階段を駆け下りる。

 バトルフィールドから一抜けすることは叶わないが、とにかく建物のセットからは抜け出さないとロクな事が無い。

 そうして階段を降りた所では段ボール箱が歩いていた。僅かに見える足はヤマサキのものだ。

 錯視を上手く利用した何処だか分からない出口を探して、歩く箱とは反対に針路を取る。ここかと思ってシドが引き開けたドアの外にいたのは青い顔をしたヴィンティス課長、その刹那、シドはためらいなくトリガを引いた。

 同時にシドも腹にダブルタップを食らう――。

 互いに互いを認識した上で食らわせた速射で二射だが、何故に二射だったかといえば残弾がそれだけしかなかったからという理由に尽きた。
 そこであちこちに埋められた音声素子から統括本部長の「状況終わり」なる声が流れた。
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