特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する任務~楽園29~

志賀雅基

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第23話

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 喋りながら最上階である七階まで上がり、円筒形をしている都合上、湾曲した廊下を歩いて角部屋とでも云える部屋とひとつ手前の部屋の間でバーナードは二人に礼をした。

「こちらのふたつのお部屋でございます。では、私のリモータIDをお送りしますので、何か要り用なものがございましたら、ご連絡下さい」

 リモータIDを交換すると、バーナードはまた一礼して去る。

 与えられた角と手前の二部屋には既にシドとハイファのIDが登録されていて、どちらがどちらを使用してもいいようになっていた。まずは角部屋のリモータチェッカをシドがクリアするとロックが解ける。古風な金メッキのノブを回して室内に入った。

「おっ、海が見えるぞ!」
「本当だ、すっごい絶景じゃない!」

 ぐるぐるとタクシーで走り回って方向感覚を失くしていたので分からなかったが、大使館の裏手は全面オーシャンビューだったのだ。おまけに風通しのために開け放たれていた窓から見下ろせば、斜面となった裏にはスロープがしつらえてあり、殆どプライヴェートビーチのように、誰もいない波打ち際まで降りて行けるようになっている。

「良かったね、シド」
「ああ。でもお前、いいのか?」

 テラ本星の官舎にいるときも自分の部屋では寝たがらない、シドと離れたがらないハイファである。ここにきてシングル二室で落ち込んでいるかと思い、ハイファをシドは窺った。

「いいも何も、貴方を独りで寝かせるとでも思ってるの?」
「だからってベッドはシングルだぜ?」
「少しワイドだし、いいじゃない。大丈夫、蹴飛ばしたりしないから」

 やはりどうしたって一部屋は使わないことになりそうで、二人は両方を覗いた結果、最初に入った角部屋の窓からの眺めを気に入って、こちらに決める。
 窓からの風に銀の金具で留めた金のしっぽと、青い紐で縛った黒いエセしっぽをなびかせながら、二人は微笑み合うとソフトキスを交わした。

 そこでふいにシドは思い出して声を荒げる。

「あの大使のリチャードって野郎、涼しい顔してふざけやがって!」
「ちょっと吃驚して避けられなかったよ」
「ハイファお前、あいつには気を付けろよな。完璧に目ぇつけられたぞ」

「嫌なこと言わないでよ、アレは単に気障ったらしい挨拶……って思いたいなあ」
「やっぱり部屋は別々にするべきじゃねぇな、夜這いでも掛けられたらアウトだぜ」
「僕だってタダでヤラれはしないけど、貴方と同室なら安心だしね」

 頷き合ってからハイファは壁際のデスクに載っていた端末を起動し、ホロディスプレイを眺めながら、これもホロのキィボードを叩いて今後の計画を立てるべく自分たちの予定を確かめた。すると意外にも今晩から仕事の予定が入っていることが判明する。

「某企業会長主催のパーティー、僕は出席だけど貴方はお留守番みたいだね」
「俺たち含めて七人しかいねぇ上に役付き、お前の方が却って忙しいんじゃねぇのか?」
「かも知れない。可能なら少しでも探っておいてよね、ザリガニ」

「へいへい。それよりここのメシの時間はどうなってるんだ?」
「ええと、九時と十五時と二十二時と二十八時だってサ」
「一日四食か、完璧にワープラグになりそうだな」

 ワープラグとは他星に行った際の時差ぼけのことである。
 何となくヒマになってハイファが部屋に備え付けの冷蔵庫を漁った。袋入りの挽かれたコーヒー豆を発見し、デスクの端に置かれたコーヒーメーカをセットする。

 やがてコーヒーが沸くと冷蔵庫脇の茶器棚からシドが咥え煙草で華奢なカップを出した。ハイファが注ぎ分ける。シドは行儀悪くデスクに腰を下ろして、また窓外を眺めながら煙草&コーヒータイムだ。灰皿はデスクに重々しいクリスタルのものが置いてあった。

 ハイファは壁際にあるベッドに腰掛けてカップに口をつける。
 そこで何気なくシドが部屋に備え着きの3DホロTVのスイッチをリモータで入れた。天井近くにホロスクリーンが浮かぶ。あれこれと局を変え、地元局のニュースに合わせてみた。

「何か視たい話題でもあるの?」
「ん、まあな。連続十二名誘拐をやってねぇかと思ったんだが、何だ、やってねぇな」

 過去のニュース検索をしようとしたところで、シドにリモータ発振が入った。

「誰からの発振?」
「あー、イーノス=ダンヒル二等書記官だとよ」
「五人の正規大使館要員の一人だね。で、何て?」
「三階の小会議室に来いってさ。何の用だろうな?」

 呟きながら煙草とTVを消すと、その間にハイファが洗面所でカップふたつを洗った。

「どんな人か知りたいから、僕も行くよ」

 またソフトキスを交わして部屋を出る。廊下の途中にエレベーターもあったが使わず、大階段を二人は三階まで降りた。小会議室は大使執務室の近くにあった。

 リモータチェッカ付きだが機能が停止された小会議室のドアをシドが開ける。

「遅い遅い、現地採用の使用人だって、もっとキビキビしてるぞ!」

 途端に投げられた大声にシドはうんざりした。
 声を投げたのはロの字型に置かれた端末付き長机の一番奥に陣取った男だった。年齢はテラ標準歴で五十代初めだろうか。恰幅が良く、あまり上等そうではないスーツを着ている。

 だが遅いことを咎めた口調は叱責しているというよりも揶揄しているようで、表情も笑みを湛えていた。どころか非常に嬉しそうにも見える。

「で、どっちがシドなんだ?」
「俺です」
「そうか。俺はイーノス=ダンヒル二等書記官だ。一番年を食ってるのに一番下っ端で腐ってたところだったんだ、子分ができて嬉しいぞ、わっはっは!」
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