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第33話
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エマを置いてビルに戻るなりシドとハイファはマイケルとフィリップたちに囲まれたままオリバーの部屋を訪ねた。オリバーは多機能デスクに就き葉巻を吸っていた。
「そろそろ『嘆きの果実』を渡す気になったのかな?」
「悪ぶるのはよせよ。贋作グループのボス、いや、オリバー=フォーゲル元・二等宙佐さんよ」
水色の目を瞬かせて見せたオリバーにハイファがシドのあとを引き取って続ける。
「別室基礎資料に貴方のファイルがありました。貴方はテラ標準歴で十二年前まで、テラ連邦中央直轄宙軍の将校だったそうですね。それも精鋭タイタン駐留のテラの護り女神・第二艦隊護衛艦サヤマの副艦長まで勤め上げた……違いますか?」
「過去にはこだわらないたちでね」
「いい心がけだが、それが何でこんな所で義賊をやってんだ?」
「さあな。まあ、あの頃よりも愉しい毎日を送らせて貰っているよ」
「ふん。……それよりこいつだ」
ハイファから筒を受け取るとシドは中身のキャンバス地を引き出して多機能デスクの上に広げて置いた。全員の目が『嘆きの果実』に吸い寄せられる。
「ここから核ミサイルの解除キィコードを拾い出して貰いたい。可能か?」
「勿論。マイケルなら上手くやるだろう。だがその解除キィを手にしてどうする?」
「核ミサイルを止めるんだよ、当たり前だろ」
「今朝のテラ連邦との交渉では『嘆きの果実』込みなら、ローゼンバーグから三ヶ所のラクリモライト鉱山を買い上げて権利書を我々に寄越すと言ってきた」
「そんな旨い話に裏があるとは思わねぇのか、綺麗に消されるぜ?」
切れ長の黒い目が水色の瞳を見据えた。だが水色の瞳は余裕の笑みを湛えている。
「そこらは上手くやる。蛇の道は蛇というだろう、こちらもテラの手の内は読んでいるつもりだからね」
「惑星バイナスはどうする、あんたは目の前の惨状だけ救えればいいのか?」
「私は神じゃない、何もかもを抱えることはできない。欲張っても零すのがオチだ」
「なら、神じゃなくて贋作グループらしくすりゃあいいじゃねぇか」
「……どういうことだ?」
多機能デスクを囲んだ男たちは、更に輪を狭めてシドの話を聞いた。
◇◇◇◇
翌日の昼食後、ビル内をシドとハイファはぶらぶらと歩いていた。外は不案内な上に夜の日で見るべきモノもない。おまけに暑いのでビルをくまなく探索中なのだ。
「警備任務も残り四日だね」
「そうだな。しあさって、その次のテラ標準時十二時がリミットか」
そう言ってシドは窓外の黒々とした鉱山の方を眺める。エマはあれから帰ってこなかった。寄越したリモータ発振では大層愉しげな様子だった。
上から順番に巡り十二階までくると嗅いだ覚えのある匂いが漂い始める。その匂いが濃い方へと二人は歩を進めた。『大会議室』なるプレートが貼ってある部屋に辿り着く。ここもリモータチェッカは作動していないのを見取りハイファが声を掛けた。
「お邪魔しまーす」
シドがセンサ感知してオートドアを開ける。すると独特の匂いが一層濃くなった。
「うわあ、すっごい!」
「あ、シドさん、ハイファスさん、どうもですう」
「ここがマイケル=エッジワースのアトリエって訳だね」
広い部屋には長机が幾つも並び、上には様々な大きさのキャンバスが置かれ壁にもかけられ立て掛けられていた。リオ=エッジワースの複製ばかりではなく何処かで見たことのある大御所のコピーもある。中には何点かオリジナルらしき作品もあった。
筆を手にしたマイケルはそう言って二人に頭だけ下げると、また手元のパレットに真剣な目を向けて絵の具を練り始める。目の前にはまだ白地を残したキャンバスがイーゼルに載って掲げられていた。
二人は画家先生の邪魔をせぬよう足音も潜めてそっと室内を巡り鑑賞した。
そうして室内を殆ど回り終えたときだった。
建材に紛れた音声素子がブーンと震え、オリバーの怒号のような声が流れ出した。
《敵襲、敵襲! 一個小隊が屋上よりBELで侵入、十五階にて交戦中!》
「そろそろ『嘆きの果実』を渡す気になったのかな?」
「悪ぶるのはよせよ。贋作グループのボス、いや、オリバー=フォーゲル元・二等宙佐さんよ」
水色の目を瞬かせて見せたオリバーにハイファがシドのあとを引き取って続ける。
「別室基礎資料に貴方のファイルがありました。貴方はテラ標準歴で十二年前まで、テラ連邦中央直轄宙軍の将校だったそうですね。それも精鋭タイタン駐留のテラの護り女神・第二艦隊護衛艦サヤマの副艦長まで勤め上げた……違いますか?」
「過去にはこだわらないたちでね」
「いい心がけだが、それが何でこんな所で義賊をやってんだ?」
「さあな。まあ、あの頃よりも愉しい毎日を送らせて貰っているよ」
「ふん。……それよりこいつだ」
ハイファから筒を受け取るとシドは中身のキャンバス地を引き出して多機能デスクの上に広げて置いた。全員の目が『嘆きの果実』に吸い寄せられる。
「ここから核ミサイルの解除キィコードを拾い出して貰いたい。可能か?」
「勿論。マイケルなら上手くやるだろう。だがその解除キィを手にしてどうする?」
「核ミサイルを止めるんだよ、当たり前だろ」
「今朝のテラ連邦との交渉では『嘆きの果実』込みなら、ローゼンバーグから三ヶ所のラクリモライト鉱山を買い上げて権利書を我々に寄越すと言ってきた」
「そんな旨い話に裏があるとは思わねぇのか、綺麗に消されるぜ?」
切れ長の黒い目が水色の瞳を見据えた。だが水色の瞳は余裕の笑みを湛えている。
「そこらは上手くやる。蛇の道は蛇というだろう、こちらもテラの手の内は読んでいるつもりだからね」
「惑星バイナスはどうする、あんたは目の前の惨状だけ救えればいいのか?」
「私は神じゃない、何もかもを抱えることはできない。欲張っても零すのがオチだ」
「なら、神じゃなくて贋作グループらしくすりゃあいいじゃねぇか」
「……どういうことだ?」
多機能デスクを囲んだ男たちは、更に輪を狭めてシドの話を聞いた。
◇◇◇◇
翌日の昼食後、ビル内をシドとハイファはぶらぶらと歩いていた。外は不案内な上に夜の日で見るべきモノもない。おまけに暑いのでビルをくまなく探索中なのだ。
「警備任務も残り四日だね」
「そうだな。しあさって、その次のテラ標準時十二時がリミットか」
そう言ってシドは窓外の黒々とした鉱山の方を眺める。エマはあれから帰ってこなかった。寄越したリモータ発振では大層愉しげな様子だった。
上から順番に巡り十二階までくると嗅いだ覚えのある匂いが漂い始める。その匂いが濃い方へと二人は歩を進めた。『大会議室』なるプレートが貼ってある部屋に辿り着く。ここもリモータチェッカは作動していないのを見取りハイファが声を掛けた。
「お邪魔しまーす」
シドがセンサ感知してオートドアを開ける。すると独特の匂いが一層濃くなった。
「うわあ、すっごい!」
「あ、シドさん、ハイファスさん、どうもですう」
「ここがマイケル=エッジワースのアトリエって訳だね」
広い部屋には長机が幾つも並び、上には様々な大きさのキャンバスが置かれ壁にもかけられ立て掛けられていた。リオ=エッジワースの複製ばかりではなく何処かで見たことのある大御所のコピーもある。中には何点かオリジナルらしき作品もあった。
筆を手にしたマイケルはそう言って二人に頭だけ下げると、また手元のパレットに真剣な目を向けて絵の具を練り始める。目の前にはまだ白地を残したキャンバスがイーゼルに載って掲げられていた。
二人は画家先生の邪魔をせぬよう足音も潜めてそっと室内を巡り鑑賞した。
そうして室内を殆ど回り終えたときだった。
建材に紛れた音声素子がブーンと震え、オリバーの怒号のような声が流れ出した。
《敵襲、敵襲! 一個小隊が屋上よりBELで侵入、十五階にて交戦中!》
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