高貴なる義務の果て~楽園19~

志賀雅基

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第41話

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 ミエラ医師の言葉もロクに聞かず、シドはハイファに駆け寄って抱き締めた。濡れるのも構わずに硝煙の匂うテミスコピーを握ったままのハイファの白い額に口づける。

「独りにして、本当にすまん」
「SPの人たちは助かるってサ。後遺症も残らないみたいだよ」
「再生槽を壊されて起きたのか?」

「うーん、吃驚はしたけど、明日の取引に間に合うのは幸いかも」
「お前は行かせない、言っただろ」
「セフェロ星系人は異星系人の血が多少混ざってるし、その血が半分入った僕は細胞賦活能力が高いんだって。意外と培養移植も早くできそう、退院も早そうだってサ」

 まだ耳が聞こえないハイファとの会話はちぐはぐだったが、シドはハイファが無事だったことで膝が萎えそうなくらい安堵していた。そこに地元惑星警察がなだれ込んでくる。

 だがリモータ発振・ダイレクトワープ通信で別室戦術コンに支援を要請したハイファの機転で、四人をヘッドショットでったハイファ自身への聴取は厳しいものではなかった。
 約一時間後には隣室の一〇二八号室にハイファは移され、四人部屋のベッド三台・再生槽一台のうち、再生槽に「入れ」「入らない」でシドとハイファが揉め始める。

 それを無視して一緒に部屋に入ったユウキがさっさとコウの服を脱がせると、小柄な白い躰に患者服を着せつけて、有無を言わさず再生槽に放り込んだ。
 取り敢えずそれでシドとハイファの言い争いは終わり、リモータ入力会話でシドが経過をハイファに報告した。

 その間にミエラ医師が再生槽入りしたコウに意識を落とす薬剤を入れたのち診察、明日には傷も塞がって再生槽から出せることを告げる。

 続けて診察されたハイファはまだ歩けないが座れるまでに回復していた。培養中の器官も一週間ほどで移植可能になるという。だが当然ミエラは明日の移動に難色を示し、医局に戻っていった。入れ替わりにリモータチェッカに来訪者ランプが点灯する。

 同時にリモータ発振がハイファに入り、それを見たハイファがリモータ操作。

 オートドアのロック解除で入室してきたのは黒のパンツスーツを身に着けた女性だった。ベッドに角度をつけて凭れたハイファに女性は具合を聞き、躰を労るように言うと、ハイファから依頼されていたものをベッド付属のテーブルに置く。女性は速やかに去った。

 まもなく三人分の食事がリフトで届き、ハイファのベッドにシドとユウキも集まって夕食を摂る。結構旨いそれを食したあとはシドとユウキが交代で喫煙ルームだ。

 そして再生槽で眠るコウ以外の三人は相談を始めた。

◇◇◇◇

 翌日、燦々と恒星リマライが光を降らせる昼の日の十四時五十分、シドとユウキは昨日かっぱらった小型BELを使い、ナレスの鉱山に降り立った。

 ここは鉱山でも端で歓楽街の入り口に近い場所である。まだ客も少ないだろう元々しけた歓楽街だが、それでも呼び込みの声や店舗のBGMがこの辺りの空気まで揺らしていた。

「こんな所に突っ立っていて、本当に敵はやってくるのか?」
「くるさ。昨日から俺たちには糸が付いたも同然だからな」
「なるほど。……あれか?」

 上空に黒い点が現れ、下降してくるそれが中型BELだと分かるまで数秒だった。シドたちから三十メートルほど離れた場所に中型BELはスキッドを接地させ、十名以上の人間を吐き出す。殆どが黒い戦闘服で、スーツを着た男が三人混ざっていた。

 スーツの一人は憔悴しきったルドルフ=ロス支社長、一人は別室資料のポラで見覚えたライマンファミリーのドン・ライマンである。残る一人はドンの片腕を務める男だった。
 ぞろぞろとご一行様がシドたちに近づく。戦闘服たちはもう抜き身の銃を手にしていた。このままシドとユウキが蜂の巣にされてもおかしくはない。

 だが撃たれる前にシドが機先を制した。

「再生槽入りしているハイファス=ファサルートの代わりにきたシド=ワカミヤだ。FCと別室の癒着に関する情報を俺はハイファと同じだけ握っている。テラ連邦議会の分離主義者たちにでも訊けば嘘じゃねぇことは分かる筈だ。ルドルフ=ロスをこちらに渡せ」

 ニヤリと笑ったのはドン・ライマンだ。

「ワカミヤ氏か、きみの情報は既に得ている」
「なら文句はねぇだろ。このユウキにロスを渡したら俺はあんたらのものだ。何でも話してやる。FCはともかく別室には俺は何の義理も借りもねぇからな」
「ふむ。ハイファス=ファサルートより話しやすそうだ、いいだろう」

 突き飛ばされたルドルフ=ロス支社長が覚束ない足取りでユウキの許に辿り着く。代わりにシドは何の気負いもなくドン・ライマンたちの方に歩き出した。途端に戦闘服の男たちに取り囲まれ、レールガンを取り上げられ身体検査をされる。

 丸腰となったシドがドン・ライマンに訊いた。

「で、生きて帰す気はねぇんだろ?」
「生きて帰すのが我々の流儀だが、ここまで内情を知られては仕方ない……殺れ!」

 圧倒的有利に立ったライマン側の戦闘服たちは、嗤いを浮かべてゆっくりと銃口をユウキとロス支社長に向ける。

 その余裕が彼らの命を奪った。

 突然戦闘服の一人が頭から血をしぶかせて斃れた。音もない攻撃で続けて二人、三人と頽れる。ライマン側の混乱に乗じてユウキもシリルを発砲。至近距離でダブルタップを胸に受けた一人が頽れた。更に二人が音もなくヘッドショットで斃される。

 シド、落とされた愛銃のレールガンに飛びつくなり速射で二人にトリプルショット。胸に二発とヘッドショットのモザンビークドリルだ。だがライマン側もプロ、残った二人がロス支社長に銃弾を放つ。咄嗟に射線に飛び出したシドが対衝撃ジャケットの胸と左肩に被弾。吹っ飛ばされてロスにぶつかる。

 しかし同時にシドを撃った二人も頭に穴を開けられ、命の炎を吹き消されていた。

 残されたドン・ライマンと片腕は蒼白になって中型BELに逃げ込もうとする。ユウキと立ち上がったシドがその二人の両肩にダブルタップを叩き込んだ。前のめりに倒れたドン・ライマンと片腕は乾いた土に血を染み込ませながら這って逃げようとする。

 彼らを靴のつま先で引っ繰り返したシドとユウキは幾つかの質問を浴びせ、答えを得たのちに、その下腹にシドがダブルタップ、数秒置いて頭に風穴を空けた。

《――シド、シド! 大丈夫?》
「ああ、大丈夫だ」

 リモータオープン回線から心配げな声が流れる。声で答えたが聞こえないハイファに大きく手を振ってみせた。ユウキとロス支社長も無事、三人は小型BELに乗り込む。オートパイロットで鉱山の向こうに僅か見えている山岳地帯を目指した。

「シド、あんたは撃たれただろう。本当に大丈夫なのか?」
「このジャケットでバッチリ、まだまだ行けるぜ」
「勘弁してくれ、残弾も煙草もラストワンなんだ」
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