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第50話
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一斉に近衛たちがジャイルズ王を取り囲む。
それを見て逃げを打とうとした黒服マフィアたちにもテラ連邦軍の制式小銃サディM18ライフルが向けられた。出入り口は既に固められ、密かに夜会客たちはスモーキングルームその他に避難が開始されていた。
だが呆然とするジャイルズ=ライトはともかく、マフィアたちは抵抗を始める。銃を抜いて近衛兵たちにレーザーや銃弾を降らせ始めたのだ。
「伏せろ、皆、伏せろ!」
まだ夜会客の避難は完了していない。叫びながらシドは背後にハイファを庇い、二十余名のマフィアたちに対し、近衛兵たちと並んでレールガンを撃ち出した。コウとユウキもシリルでマフィア・ライマンファミリーたちを一人、二人と倒し始める。
近衛たちは素早く頑丈なテーブルで掩蔽物を築き上げて銃撃に対抗した。
さすがにマフィアも数には敵わない。それも相手はプロの兵士である。
だがマフィアも残りも少なくなった頃、ダーレスがテーブルを持ち上げて夜会客たちに投げつけ始めた。常人なら五、六人掛かりでなければ動かないテーブルである。そんなものが次々に飛翔してきて近衛たちは押され気味となった。それに乗じて残りのマフィアは調子に乗り再び撃ち始める。火線が強くたちまち近衛兵が倒れだした。
悲鳴と呻きが席捲し、たちまち大ホールは混乱の坩堝と化す。
そこでシドはレールガンのセレクタレバーを親指で弾き上げ、マックスパワー・フルオートモードにすると、マフィアたちを掃射した。強烈な反動を押さえ込んで二度、三度と薙ぐと、マフィア側が掩蔽にしていた巨大なテーブルが木っ端微塵に砕け散り、マフィアたちは洩れなく血飛沫を上げて斃れる。凄惨な現場となった大ホールには硝煙が濃く漂っていた。
そんな中、もう立っている者はたった一人、ダーレスしかいなかった。
腹に二射を食らいながらも大男のダーレスは立ちはだかっていた。ニヤリと嗤ったその目はハイファに向けられている。ハイファはまたもあの恐怖と激痛とを思い出して突き上がる吐き気に身を硬直させた。それでも自力で車椅子を操作しダーレスと向き合う。
夜会客の避難は終え、ベアトリゼ八世と衛兵たちが見守る中、大ホールは静けさに包まれていた。動こうとした衛兵をベアトリゼ八世は白い手で押し留める。
我が身の不調を無視して、ハイファはダーレスを真っ向から見つめた。
彼我の距離十五メートル、ダーレスはテーブルの残骸をハイファに投げつける。それをシドが撃ち砕いた。散った木っ端の下からハイファ、テミスコピーを発射。速射でトリプルタップは腹と胸にヒット。シドは座った状態で反動を逃がせないハイファの背後に立ち車椅子を支える。ハイファは更にダーレスの下腹に向けダブルタップ。
それだけではない、腕に、脚に、ゆっくりと弾を撃ち込んでゆく。
急所を外して十六発もの銃弾を撃ち込んだのち、ハイファはダーレスの額をポイントした。
それでもダーレスは驚異的なことに、まだ立ちはだかったままだった。更にはハイファに向かって嗤うのもやめない。全身を朱に染めた大男とハイファは無音の中で対峙する。
「ふっ、銃も持たねぇ相手に……卑怯じゃねぇかい……ゴフッ!」
「僕はコウほど甘くないから……さよなら」
迷いなく放たれた九ミリパラはダーレスの眉間に穴を開け、後頭部に爆発的に抜けた。大男はようやく身を揺らがせたのち、仰向けに斃れる。もう動くことはない。
そしてハイファは自身が放った十七発目の撃発音を聞いていた。
◇◇◇◇
何がどうなっているのか分からないまま、夜会客らは急病を患ったジャイルズ王に代わり、前女王ベアトリゼ八世が再び戴冠するのに立ち会ったのち、三々五々屋敷に帰って行った。
シドとハイファにコウとユウキだけが残され、女王直々に礼を賜ることとなった。
女王専用のサロンに案内された四人の前でベアトリゼ八世は毅然としながらも王冠を外し、シドたちに深々と頭を下げる。
「大変に申し訳ないことですが、この一件に関しては……」
「分かっております、一切口外は致しませんのでご安心下さい」
そうハイファが代表して言うと女王の前に進み出た。自走車椅子に座ったままながら、いったい何処の貴族かというような礼を取ったのちにベアトリゼ八世の手を取って誓いの口づけをする。女王は安堵したように頬を緩めた。
「もうこのような時間です。今宵は我が宮に皆、泊まってはいかれまいか?」
「もしお邪魔でなければ……いいかな?」
皆の同意を得て代表ハイファがまた礼を取る。そして二時間ほどもサロンでワイングラスを片手に語らったのちゲストルームに案内された。
「どうしよう、王宮に泊まるなんて僕、緊張して眠れそうにありませんよ」
「俺は王宮の中で迷子にならないか心配だ」
「煙草が吸えれば俺は何処でもいい。ふあーあ」
「まあ、女王が付き合って欲しそうだったからね。息子がアレで淋しかったんだよ」
それぞれに喋りながらメイドに連れて行かれたのはツインの部屋だった。
「朝食は九時半に運ばせて頂きます。それでは、ごゆっくりおやすみ下さいませ」
それを見て逃げを打とうとした黒服マフィアたちにもテラ連邦軍の制式小銃サディM18ライフルが向けられた。出入り口は既に固められ、密かに夜会客たちはスモーキングルームその他に避難が開始されていた。
だが呆然とするジャイルズ=ライトはともかく、マフィアたちは抵抗を始める。銃を抜いて近衛兵たちにレーザーや銃弾を降らせ始めたのだ。
「伏せろ、皆、伏せろ!」
まだ夜会客の避難は完了していない。叫びながらシドは背後にハイファを庇い、二十余名のマフィアたちに対し、近衛兵たちと並んでレールガンを撃ち出した。コウとユウキもシリルでマフィア・ライマンファミリーたちを一人、二人と倒し始める。
近衛たちは素早く頑丈なテーブルで掩蔽物を築き上げて銃撃に対抗した。
さすがにマフィアも数には敵わない。それも相手はプロの兵士である。
だがマフィアも残りも少なくなった頃、ダーレスがテーブルを持ち上げて夜会客たちに投げつけ始めた。常人なら五、六人掛かりでなければ動かないテーブルである。そんなものが次々に飛翔してきて近衛たちは押され気味となった。それに乗じて残りのマフィアは調子に乗り再び撃ち始める。火線が強くたちまち近衛兵が倒れだした。
悲鳴と呻きが席捲し、たちまち大ホールは混乱の坩堝と化す。
そこでシドはレールガンのセレクタレバーを親指で弾き上げ、マックスパワー・フルオートモードにすると、マフィアたちを掃射した。強烈な反動を押さえ込んで二度、三度と薙ぐと、マフィア側が掩蔽にしていた巨大なテーブルが木っ端微塵に砕け散り、マフィアたちは洩れなく血飛沫を上げて斃れる。凄惨な現場となった大ホールには硝煙が濃く漂っていた。
そんな中、もう立っている者はたった一人、ダーレスしかいなかった。
腹に二射を食らいながらも大男のダーレスは立ちはだかっていた。ニヤリと嗤ったその目はハイファに向けられている。ハイファはまたもあの恐怖と激痛とを思い出して突き上がる吐き気に身を硬直させた。それでも自力で車椅子を操作しダーレスと向き合う。
夜会客の避難は終え、ベアトリゼ八世と衛兵たちが見守る中、大ホールは静けさに包まれていた。動こうとした衛兵をベアトリゼ八世は白い手で押し留める。
我が身の不調を無視して、ハイファはダーレスを真っ向から見つめた。
彼我の距離十五メートル、ダーレスはテーブルの残骸をハイファに投げつける。それをシドが撃ち砕いた。散った木っ端の下からハイファ、テミスコピーを発射。速射でトリプルタップは腹と胸にヒット。シドは座った状態で反動を逃がせないハイファの背後に立ち車椅子を支える。ハイファは更にダーレスの下腹に向けダブルタップ。
それだけではない、腕に、脚に、ゆっくりと弾を撃ち込んでゆく。
急所を外して十六発もの銃弾を撃ち込んだのち、ハイファはダーレスの額をポイントした。
それでもダーレスは驚異的なことに、まだ立ちはだかったままだった。更にはハイファに向かって嗤うのもやめない。全身を朱に染めた大男とハイファは無音の中で対峙する。
「ふっ、銃も持たねぇ相手に……卑怯じゃねぇかい……ゴフッ!」
「僕はコウほど甘くないから……さよなら」
迷いなく放たれた九ミリパラはダーレスの眉間に穴を開け、後頭部に爆発的に抜けた。大男はようやく身を揺らがせたのち、仰向けに斃れる。もう動くことはない。
そしてハイファは自身が放った十七発目の撃発音を聞いていた。
◇◇◇◇
何がどうなっているのか分からないまま、夜会客らは急病を患ったジャイルズ王に代わり、前女王ベアトリゼ八世が再び戴冠するのに立ち会ったのち、三々五々屋敷に帰って行った。
シドとハイファにコウとユウキだけが残され、女王直々に礼を賜ることとなった。
女王専用のサロンに案内された四人の前でベアトリゼ八世は毅然としながらも王冠を外し、シドたちに深々と頭を下げる。
「大変に申し訳ないことですが、この一件に関しては……」
「分かっております、一切口外は致しませんのでご安心下さい」
そうハイファが代表して言うと女王の前に進み出た。自走車椅子に座ったままながら、いったい何処の貴族かというような礼を取ったのちにベアトリゼ八世の手を取って誓いの口づけをする。女王は安堵したように頬を緩めた。
「もうこのような時間です。今宵は我が宮に皆、泊まってはいかれまいか?」
「もしお邪魔でなければ……いいかな?」
皆の同意を得て代表ハイファがまた礼を取る。そして二時間ほどもサロンでワイングラスを片手に語らったのちゲストルームに案内された。
「どうしよう、王宮に泊まるなんて僕、緊張して眠れそうにありませんよ」
「俺は王宮の中で迷子にならないか心配だ」
「煙草が吸えれば俺は何処でもいい。ふあーあ」
「まあ、女王が付き合って欲しそうだったからね。息子がアレで淋しかったんだよ」
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