高貴なる義務の果て~楽園19~

志賀雅基

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第58話

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 もう一度リフレッシャを浴び直し、ドライモードで全身を乾かすと、支え合うようにしてバスルームを出た。洗濯の終わったものをダートレスから出して身に着け、執銃する。

 腰の据わらない二人がソファでコーヒーを飲んでいると、センリーからリモータ発振がハイファに入った。一読してハイファが報告した。

「視察、予定通りに行くってサ」
「ふうん、また地下鉄の旅か?」
「ううん、今度はBELみたい。予定がどんどん遅れてきちゃってるから」

「切れ者センリーがキレたってか」
「とにかく夜になる前にここに戻らないと、四号もガードしづらくなるしね」
「それもそうだな」

 シドとハイファの二人、プラス秘書のセンリーの三人を護るのにガード六名というのは、本来なら少なすぎるのだ。単純計算して一人を二名でガードするのはいいが、交代要員がいない。
 ガードは先の先を読み、迷わず行動してパッケージ、つまりガード対象者を護らなければならない。非常に疲れるので、本当なら一定時間ごとに交代し緊張感を保たなければ務まらない仕事なのだ。

 それでも今回はパッケージ自身が自力である程度なら身を守れる上に、四号のセオリーを熟知しているからこそ、ギリギリの六名でも務まっているのである。
 けれどそんな状態で夜間のガードは無理があると云えた。

「予定が少しずつずれて現在時、十五時。センリーが待ってるよ」

 着替えはいいとして弾薬が入ったショルダーバッグは置いて行けない。ハイファが担いでスイートルームを出る。シドが続いた。廊下にはガードとともにセンリーが立っていた。

「このビルの屋上にBELを着けさせます」
「メンバーは誰なのかな?」
「私たちとレアメタル部長のロジャー氏ですね。クラーク支社長はディン資源公司コンスガムル支社長と二日かけての四次元ゴルフの約束があるとかで同行致しません。では行きましょう」

 ワープ宿酔症から立ち直ったセンリーはさっさと仕切ってエレベーターを呼んだ。

 総勢九名で屋上に上がると、十数機のBELが整然と駐められた屋上は風よけドームが開きかけていた。熱い風が舞ってシドの黒髪がはためき、ハイファの長い髪が踊るように吹き乱される。そこに黒い点だったBELが垂直降下してきて一行の前にスキッドを接地した。

 小型BELに十名は少々きついものがあったが座席の数は丁度だった。ロジャー部長がコ・パイロット席に就いていたのでセンリーがパイロット席に収まる。宙軍士官を目指していたセンリーは、ハイファと同じくBEL手動操縦資格も持っていた。

 真ん中の席の窓際にシド、次にハイファ、ガードが二人。最後部席にガードが四人だ。満員御礼でBELはオートパイロットで飛び立ったが、ここで独りロジャー部長が顔色を悪くしていた。

 何故かと云えば、無闇にBELを都市外で飛ばせば撃ち墜とされると言った筈なのに、この本星から突然やってきた一行はまるで聞く耳を持たないからである。

 仕方なくオートパイロットに干渉し、高度を稼がせようとしたが、社長秘書が、

「視察行ですから、高々度を飛んでは意味がありません」

 などと言って邪魔をした。もうこうなれば祈るだけしかやれることは残されていない。後部座席では異様に若い新社長と何者だか分からない男がとんでもなく親密に囁きを交わしている。もう訳が分からない。本当にこいつらは現実を見ていない……。

 航空交通法規を遵守するBELは既に都市を離れて砂漠の上を飛んでいた。時折緑が見えるのは珍しくも地上で土壌改良農業を趣味としている現地人が殆どだ。
 そんな説明をしつつロジャー部長は首から下げたタオルで嫌な汗を拭い続けた。

「ここからなら、あと三十分ほどで第一目的地のトリアナチウム鉱山が見えてくる筈です」

 トリアナチウムは反物質機関や反重力装置に欠かせないレアメタルだ。

「へえ、意外と都市から近いんだね」
「都市の方が後付けで造られましたから。トリアナチウム鉱山の近くにはアムーラ第四宙港もあります。第四宙港はトリアナチウム輸出専用宙港とも云えますね」
「第四宙港設立には我がFCが調達資金の四十パーセントを負担・協力致しました」

 と、資料を見てセンリーが付け加える。
 そうしてロジャー部長がイヤな汗を拭いつつ、トリアナチウムのテラ標準年産出量だのFCの利益率だのを説明している間に、何事もなくトリアナチウム鉱山に着いてしまった。

 宙港管制から何用かを問われたが、管制空域飛行許可を申請してあったので、機体のシリアルナンバを告げるだけでコントロールを奪われることもなく大きく迂回し、鉱山の管理事務所前に小型BELはオートランディングする。

 管理事務所も第五宙港のような小会社の保養施設並みだった。ここの所有はFCではなく、ガムル星系人の鉱山主である。だが大ファサルートコーポレーション本社社長の来訪は告げてあり、鉱山主も是非に会いたいという発振を昨日支社長宛に寄越したという。

 しかし小屋のような管理施設のリモータチェッカに何度ハイファがリモータを翳してもドアは開かず、何の返事もなく、誰も出ては来なかった。

「でもここの地下も、アリの巣みたいになってるんだろ?」

 地下深くにいて来訪者の存在が分からないのかとシドは思ったのだ。だがロジャー部長はタオルを下げた首を横に振った。

「殆ど鉱山は機器がオートで掘って掘って掘りまくっています。機器のメンテくらいしか人手は要らないんです。だからここの地下に人が暮らす必要もありません」
「ふうん。じゃあ鉱山の機械だけ見て、次行こうぜ」

「シドってば『掘って掘って掘りまくる機器』を見てみたいんでしょ?」
「ん、まあな。結構デカいんだろうな」
「見られればいいね。行こ」
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