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第96話(エピローグ)
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「ふあーあ。明日が残務整理で明後日から一週間も休暇か」
「休暇じゃなくて停職でしょ。わざと自分から処分を食らいに行くなんて……刑事の仕事、大好きなクセに。出世にも響くよ?」
「別に階級目当てじゃねぇもん。大体、俺はこういうのも一度や二度じゃねぇしな」
「自慢にもならないよ、それ」
「分かってるさ。けど、何があろうと俺は三倍返しで生きてきたからさ」
「土鍋性格の上に三倍返しなんて、あーたに恨まれるのはジャイルズに恨まれるより怖そう」
「あんな奴と比べるなよ」
本気で気を悪くし、ムッとしたシドにハイファは恐れをなして首を竦める。そんなバディをチラリと見たシドはまだ青い空を仰ぎつつ、ふいに言った。
「権力志向もノブレス・オブリージュもまるで関係ねぇ生活してるが、プライドだけは捨てたくねぇからな。それに――」
「それに?」
「後悔はしてねぇが暴力を振るったのは俺だ。どんな理由があろうと一方的な暴力を振るってお咎めナシじゃ俺の刑事としての信じるものが揺らぐ。自分にできる範囲で精一杯償わねぇと、リリカ姫に償い続けるアロイス公に言った言葉も嘘になっちまうからな」
「そっかあ。貴方らしいよね」
そこでハイファに発振が入る。パターンはFC、リモータ操作しシドを振り返る。
「僕も元通りの代表取締役専務に返り咲き、承認されたよ」
「へえ。案外あっさりしてるのな」
「まあね。役員会も株式総会も通してなかったから。あー、これで貴方と一緒に一週間の休暇、もとい謹慎も愉しめるよ」
「お前まで一週間も有休取る気かよ?」
「だって色々と疲れちゃったし、貴方は僕がいるのといないのと、どっちがいい?」
「そりゃあ、お前」
一週間も酒を飲んだくれて寝ているよりも、ハイファの作る旨いメシに与れる方がいいに決まっている。ハイファはハイファでバディが酒浸りになるのを阻止プラス、ツンデレ男にゆっくりと甘えられるのを期待していた。
「一週間かあ……旅行にでも行きたいなあ」
「何言ってんだ、謹慎だぞ謹慎」
「分かってるけど、また貴方と海でも眺めに行きたいなあって」
「海か。……海って言えば、ガムル星系の第七惑星グランナはどうなったんだ?」
「ああ、アレね。植民地委員会の視察団全員一致で温存が成立したよ」
「そんなに簡単に決まるものなのか?」
微笑んで頷きながらハイファは言い忘れていた情報を開陳する。
「あそこの海特産のウニ丼を食べさせたら、感動の涙を流しながら視察団曰く『これはテラ人の宝だ』ってサ」
「ふうん。所詮は旨いもんには人間、勝てねぇよな」
そんな話をしながらひったくりを捕まえて深夜番を呼び、痴漢に尻を撫でられそうになって変態に二人揃って蹴りを入れただけで、珍しくも官舎に辿り着いてしまう。
リモータチェッカとX‐RAYをクリアし、爆破も銃撃もナシでロビーを縦断してエレベーターに乗り込んだ。二度停まって人を吐き出しながら五十一階に辿り着く。
そして五十一階の廊下の角を曲がると、マルチェロ医師が自室から出てくるところに丁度出くわした。またも白衣姿でボサボサの茶髪を掻き回している。
だが医師は妙に浮かない顔をしていた。
「先生、今日は早いじゃねぇか」
「最近残業続きだったからな、早帰りだ。お前さんらも早いじゃねぇかい」
「まあね。で、先生はまた買い物に行くの?」
訊いたハイファに医師は溜息をつきながら頷く。
「おやつのエサのキャベツを、な」
「それって昨日も買いに行かなかったっけ?」
「ああ、行ったともよ」
「って、どうしたんだよ、先生。景気の悪いツラして」
「いやな、お前さんたちが土産に持って帰ったあのカタツムリの卵だがな……孵化したのはいいんだが、妙にエサの食いが良すぎてな。もうキャベツ六個目で、本体も水槽の中いっぱいに育っちまって、どうなってんだ、いったい?」
了
「休暇じゃなくて停職でしょ。わざと自分から処分を食らいに行くなんて……刑事の仕事、大好きなクセに。出世にも響くよ?」
「別に階級目当てじゃねぇもん。大体、俺はこういうのも一度や二度じゃねぇしな」
「自慢にもならないよ、それ」
「分かってるさ。けど、何があろうと俺は三倍返しで生きてきたからさ」
「土鍋性格の上に三倍返しなんて、あーたに恨まれるのはジャイルズに恨まれるより怖そう」
「あんな奴と比べるなよ」
本気で気を悪くし、ムッとしたシドにハイファは恐れをなして首を竦める。そんなバディをチラリと見たシドはまだ青い空を仰ぎつつ、ふいに言った。
「権力志向もノブレス・オブリージュもまるで関係ねぇ生活してるが、プライドだけは捨てたくねぇからな。それに――」
「それに?」
「後悔はしてねぇが暴力を振るったのは俺だ。どんな理由があろうと一方的な暴力を振るってお咎めナシじゃ俺の刑事としての信じるものが揺らぐ。自分にできる範囲で精一杯償わねぇと、リリカ姫に償い続けるアロイス公に言った言葉も嘘になっちまうからな」
「そっかあ。貴方らしいよね」
そこでハイファに発振が入る。パターンはFC、リモータ操作しシドを振り返る。
「僕も元通りの代表取締役専務に返り咲き、承認されたよ」
「へえ。案外あっさりしてるのな」
「まあね。役員会も株式総会も通してなかったから。あー、これで貴方と一緒に一週間の休暇、もとい謹慎も愉しめるよ」
「お前まで一週間も有休取る気かよ?」
「だって色々と疲れちゃったし、貴方は僕がいるのといないのと、どっちがいい?」
「そりゃあ、お前」
一週間も酒を飲んだくれて寝ているよりも、ハイファの作る旨いメシに与れる方がいいに決まっている。ハイファはハイファでバディが酒浸りになるのを阻止プラス、ツンデレ男にゆっくりと甘えられるのを期待していた。
「一週間かあ……旅行にでも行きたいなあ」
「何言ってんだ、謹慎だぞ謹慎」
「分かってるけど、また貴方と海でも眺めに行きたいなあって」
「海か。……海って言えば、ガムル星系の第七惑星グランナはどうなったんだ?」
「ああ、アレね。植民地委員会の視察団全員一致で温存が成立したよ」
「そんなに簡単に決まるものなのか?」
微笑んで頷きながらハイファは言い忘れていた情報を開陳する。
「あそこの海特産のウニ丼を食べさせたら、感動の涙を流しながら視察団曰く『これはテラ人の宝だ』ってサ」
「ふうん。所詮は旨いもんには人間、勝てねぇよな」
そんな話をしながらひったくりを捕まえて深夜番を呼び、痴漢に尻を撫でられそうになって変態に二人揃って蹴りを入れただけで、珍しくも官舎に辿り着いてしまう。
リモータチェッカとX‐RAYをクリアし、爆破も銃撃もナシでロビーを縦断してエレベーターに乗り込んだ。二度停まって人を吐き出しながら五十一階に辿り着く。
そして五十一階の廊下の角を曲がると、マルチェロ医師が自室から出てくるところに丁度出くわした。またも白衣姿でボサボサの茶髪を掻き回している。
だが医師は妙に浮かない顔をしていた。
「先生、今日は早いじゃねぇか」
「最近残業続きだったからな、早帰りだ。お前さんらも早いじゃねぇかい」
「まあね。で、先生はまた買い物に行くの?」
訊いたハイファに医師は溜息をつきながら頷く。
「おやつのエサのキャベツを、な」
「それって昨日も買いに行かなかったっけ?」
「ああ、行ったともよ」
「って、どうしたんだよ、先生。景気の悪いツラして」
「いやな、お前さんたちが土産に持って帰ったあのカタツムリの卵だがな……孵化したのはいいんだが、妙にエサの食いが良すぎてな。もうキャベツ六個目で、本体も水槽の中いっぱいに育っちまって、どうなってんだ、いったい?」
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