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第28話
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可能な処置はやり尽くし、意識が回復しないまま紫堂はICUに移された。
そこでICU前のベンチに秋人が居座り始めたので看護師や医師たちから『似たもの夫婦』などと苦笑されたが、秋人は構うことなくずっと窓ガラス越しに紫堂を見続けた。
だが食事とリハビリだけは欠かさなかった。紫堂が目覚めたら両腕で抱き締めたいという想いで特にリハビリには精力的に励んでいた。お蔭で医師も驚くほど治りが早く、まだ肩より上に腕は上がらないが日常生活に支障はあまり感じなくなっていた。
紫堂が手首を切ってから既に四日が経過していた。
これ以上は何処にいても同じということで、午後には病室に移すことを告げられ、ガラス越しでない紫堂に会いたい思いで、また秋人はベンチでの張り込み中である。午後といっても十五時の予定だが、昼食をかき込むなりダッシュでやってきたのだ。
肝心な紫堂の状態としては失血が多かった割に発見が早かったため脳にも異常は見られず、だが意識が戻らないのは精神科領域の問題かも知れないと聞かされていた。
とっくにこの階のナースステーションで秋人と紫堂のことは噂になっていて、秋人はバイタリティ溢れる看護師たちから『お姫様は王子様のキスで目覚めるのよ』などと、何度揶揄され笑われたか分からない。
やがて看護師二人とストレッチャに乗せられた紫堂が出てくる。早速秋人は紫堂を迎えて付き添った。間近で見る紫堂は元々色白の頬に少し赤味が差していて、秋人はやや安堵する。そんな秋人を若い看護師らはここでも笑って冷やかした。
病室に着くと秋人は自ら紫堂を抱き上げベッドに寝かせた。目が覚めたら少しは気が晴れるかと、今度は紫堂が窓側である。寝たきりで栄養が摂れず薬も飲めない紫堂に点滴をセットし看護師二人はストレッチャを押して出て行った。
二人きりになると秋人は三十センチほどの至近距離で白い寝顔を覗き込んだ。看護師たちの言っていた『王子様のキス』などという与太を真に受けてはいない。意識のない今なら、などという不埒なことを考えた訳でもなかった。
ただあのとき冷たい唇から受けたショックが未だに秋人を怯えさせていたのだ。スキンシップでないキス、それも温かく血の通ったものが何よりも欲しかった。
思い切って顔を近づけると唇を押しつける。何度か軽く捩ると自制の利くギリギリのラインまで舌を差し入れ、歯列の間から柔らかな舌を触れさせた。
絡ませ吸い上げたいのを我慢して屈んでいた身を起こす。紫堂の唇は乾ききっていた。濡らしてやろうと思いタオルを手に洗面所に行きかけて気付く。
紫堂が色素の薄い瞳を覗かせて天井を見つめていた。それでもやっと紫堂が目覚めた喜びは押し寄せてこなかった。本人がまるで無表情だったからだ。
「僕……生きてる?」
「ああ。バディ揃って奇跡の生還だな」
冗談めかして言ったが紫堂は微笑みもしない。無表情のまま、やがて涙を溢れさせた。ただ静かに目尻から涙を流して色の薄い髪を濡らすのを秋人はじっと見つめる。
本当に静かに音も立てなかったが、それは泣き叫ぶより激しい慟哭だった。
随分と経ってから意外にしっかりとした声で紫堂が呟く。
「ずっと、ずっと嫌な夢、見てた」
「そうか」
「フラッシュバックばかり……どうしてあんたは夢に出てきてくれないんだ?」
「そう言われても困るんだがな。何でだろうな? もしかして夢に見なくてもいいくらい近くにいるからじゃねぇか?」
紫堂の疑問を一緒に真剣に考え答えてやりたかったのだが、本人は笑いもしない。無表情のままで、伝わせた涙を拭うこともせず、感慨もなさげに口を動かした。
「躰は近くにあっても、心はこんなに遠いのにな」
自嘲気味に呟いた紫堂は本当に、心の底から孤独で淋しかったのだと秋人は感じ取った。だが秋人にだって限界がある。この二年間、自分に可能な限りのことはしてきたつもりで、これ以上となると秋人にはたったひとつしか方法は思いつかなかった。
しかしそれは紫堂が受けつけないだろう。
そう思った途端にまるで見えない共有フォルダに思考が流れ込んだかの如く、紫堂自身が目覚めたときのシチュエーションを思い出したのが分かった。ガーゼの貼られた左腕を上げ、乾いた唇を幾度か指で擦ったのち、頭を動かして秋人に目を向ける。
こちらを見上げたままじっと動かない色素の薄い瞳に秋人は身を凍らせた。紫堂に性的なことを思わせるのは御法度だ。失いたくないなら下半身的思考を悟らせてはならない。そして秋人はどうしても紫堂を失いたくはなかった。
「紫堂……すまん」
「それだけ?」
「本当にすまん。寝てる間に悪戯しようとか、そんなんじゃ……ただあんまり冷たかったのが温かそうで……いや、俺、そんなつもりじゃなくてだな……あああ!」
意味不明な言葉を吐き頭を抱える男を暫し眺めたのち、紫堂は柳眉をひそめる。
「あのさ、もしかしてあんた勘違いしてないか?」
「別に俺はお前を女だと思ってなんか――」
「だからそうじゃなくて。『それだけ?』っていうのは、そんなキスであんたは満足したのかってこと。僕はガラスケースの中のお人形さんじゃないんだよ」
そこまで言われて秋人は自分を見つめる色素の薄い瞳が至極穏やかなことに気付いた。どうやら紫堂は怒っている訳ではないらしいと悟り、恐る恐る訊いてみる。
「でもさ、ほら、嫌なんだろ? 必要以上に触られたりするのが」
「当たり前だ。何が哀しくて他人にベタベタ触られなきゃならないのさ」
「分かってる。分かってるから俺だって、お前に触りたくてもずっと我慢してたんだし……いや、だから触りたいってのはそういう意味……あれ? え、いやいや!」
またも必死で主張し始めた男は、既に紫堂に対する想いを自ら暴露してしまっていることにも気付いていない。その間に紫堂は深い溜息をつき、おもむろにキレた。
「五月蠅い」
「いや、本当に俺がどれだけ我慢して――」
「うるさーい! 人の話を聞け!」
「……ハイ」
「僕はあんたにもっと触られたいの! 僕はあんたを他人と思ってないし、『あんたが欲しくなった』って随分前に告った筈だし、忘れたならあんたの評価を下げなきゃならないけど、ともかく僕はずっと意思表示をしてきたつもりだし、おまけに秋人、あんたは『我慢』できてないし!」
薄い患者服は秋人の躰の変化を見事にくっきりと浮かび上がらせていた。
ここでようやく秋人は紫堂の言った『あんたが欲しくなった』という科白のレヴェルを本当の意味で理解する。同時に過剰なスキンシップをたびたび仕掛けては秋人を翻弄し、笑い飛ばしながらも真顔で窺っていた目を脳裏に甦らせた。
いや、あれは窺っていたのではない、誘っていたのだ!
「なあ、紫堂。もしかしたらお前ってゲイなのか?」
「ゲイじゃなかったんだけどね、二年前まで付き合ってきたのは女性ばかりだし」
「えっ、ああ? お前が女と付き合ってたのか? ふえーっ!」
「本当にあんたは失礼だな。でもあんたに出会って地軸が百八十度回転したんだ」
あの究極に色っぽい紫堂を目にしたとき秋人の中で起こったような事象が、紫堂には秋人と出会ったその日のうちに起こったらしい。やっと悟って秋人は天井を仰ぐ。
今まで自分は何という曲解をしてきたのかと脱力し、肩を落としながらも訊いた。
「それならそれで、何ではっきり言わなかったんだよ?」
「あれで伝わらないなら経験豊富な誰かに告白のレパートリーをご教授願いたいね」
紫堂らしい痛烈な皮肉に、秋人はまたも肩を落として謝り倒すしかない。
「すまん、紫堂。とんだ勘違い野郎で申し訳ない!」
「いや、僕こそ悪かった。止めようと思ったけど、どうしても止まらなかったんだ」
他の道が見えないほど苦しくてエスカレートしてしまったのだろう。ベッドに腰掛けると上体を起こした紫堂を抱き締めてやる。
するとここにきて紫堂は大声を上げて泣いた。身も世もなく泣きじゃくりながら自分にしがみついて痩せた躰を震わせる男に、秋人もきつく縛っていた心の結び目が解けたような気がした。
「俺こそ本当にすまん。弱ってたお前をそこまで追い詰めた」
「僕こそ、勘違いしてすまない。あんたの想いを踏みにじって、あんな真似をした」
ひとしきり泣いたのち紫堂は恥ずかしそうに俯く。奇跡的に助かったから良かったようなものの勘違いで自殺をこいてあの世行きなどみっともないにもほどがあった。
「本当にすまない。もう二度としないから許してくれ」
「ああ、俺も悪かったが二度とあんな思いはごめんだ。心臓が止まるかと思ったぜ」
「秋人……本当にすまない、秋人」
「分かったから謝り合いは終わりにしようぜ。俺はこうしてあったかいお前を抱き締めていられたら、それでいいからさ」
「そうなのか? 躰はそれだけじゃ満足していないみたいだけど」
未だ鎮まらないものを目で示されて秋人は慌てて毛布を引き寄せ被せた。
「うっ……けどお前を失くしたくねぇし。だって怖いんだろ?」
「正直に言えば怖いよ。義父の虐待は、まさにそういうことだったから」
「無理しなくていいからな。俺たちは俺たちのペースで歩いて行けばいいからさ」
「そう言ってくれると助かる。でも仕切り直しのキスくらい、してみないか?」
泣き濡れた色素の薄い瞳の誘いに否やはない。柔らかな色の薄い髪が頬を撫でた瞬間、秋人は痩せた躰を再びかき抱いて唇を奪っている。
舌を絡め取り、唾液と共に痛みが走るくらいに吸い上げた。互いの息が上がるほど存分に紫堂を味わってから解放する。
「んんぅ、はあっ! これが『僕らのペース』なら、僕は来週には妊娠するよ!」
そこでICU前のベンチに秋人が居座り始めたので看護師や医師たちから『似たもの夫婦』などと苦笑されたが、秋人は構うことなくずっと窓ガラス越しに紫堂を見続けた。
だが食事とリハビリだけは欠かさなかった。紫堂が目覚めたら両腕で抱き締めたいという想いで特にリハビリには精力的に励んでいた。お蔭で医師も驚くほど治りが早く、まだ肩より上に腕は上がらないが日常生活に支障はあまり感じなくなっていた。
紫堂が手首を切ってから既に四日が経過していた。
これ以上は何処にいても同じということで、午後には病室に移すことを告げられ、ガラス越しでない紫堂に会いたい思いで、また秋人はベンチでの張り込み中である。午後といっても十五時の予定だが、昼食をかき込むなりダッシュでやってきたのだ。
肝心な紫堂の状態としては失血が多かった割に発見が早かったため脳にも異常は見られず、だが意識が戻らないのは精神科領域の問題かも知れないと聞かされていた。
とっくにこの階のナースステーションで秋人と紫堂のことは噂になっていて、秋人はバイタリティ溢れる看護師たちから『お姫様は王子様のキスで目覚めるのよ』などと、何度揶揄され笑われたか分からない。
やがて看護師二人とストレッチャに乗せられた紫堂が出てくる。早速秋人は紫堂を迎えて付き添った。間近で見る紫堂は元々色白の頬に少し赤味が差していて、秋人はやや安堵する。そんな秋人を若い看護師らはここでも笑って冷やかした。
病室に着くと秋人は自ら紫堂を抱き上げベッドに寝かせた。目が覚めたら少しは気が晴れるかと、今度は紫堂が窓側である。寝たきりで栄養が摂れず薬も飲めない紫堂に点滴をセットし看護師二人はストレッチャを押して出て行った。
二人きりになると秋人は三十センチほどの至近距離で白い寝顔を覗き込んだ。看護師たちの言っていた『王子様のキス』などという与太を真に受けてはいない。意識のない今なら、などという不埒なことを考えた訳でもなかった。
ただあのとき冷たい唇から受けたショックが未だに秋人を怯えさせていたのだ。スキンシップでないキス、それも温かく血の通ったものが何よりも欲しかった。
思い切って顔を近づけると唇を押しつける。何度か軽く捩ると自制の利くギリギリのラインまで舌を差し入れ、歯列の間から柔らかな舌を触れさせた。
絡ませ吸い上げたいのを我慢して屈んでいた身を起こす。紫堂の唇は乾ききっていた。濡らしてやろうと思いタオルを手に洗面所に行きかけて気付く。
紫堂が色素の薄い瞳を覗かせて天井を見つめていた。それでもやっと紫堂が目覚めた喜びは押し寄せてこなかった。本人がまるで無表情だったからだ。
「僕……生きてる?」
「ああ。バディ揃って奇跡の生還だな」
冗談めかして言ったが紫堂は微笑みもしない。無表情のまま、やがて涙を溢れさせた。ただ静かに目尻から涙を流して色の薄い髪を濡らすのを秋人はじっと見つめる。
本当に静かに音も立てなかったが、それは泣き叫ぶより激しい慟哭だった。
随分と経ってから意外にしっかりとした声で紫堂が呟く。
「ずっと、ずっと嫌な夢、見てた」
「そうか」
「フラッシュバックばかり……どうしてあんたは夢に出てきてくれないんだ?」
「そう言われても困るんだがな。何でだろうな? もしかして夢に見なくてもいいくらい近くにいるからじゃねぇか?」
紫堂の疑問を一緒に真剣に考え答えてやりたかったのだが、本人は笑いもしない。無表情のままで、伝わせた涙を拭うこともせず、感慨もなさげに口を動かした。
「躰は近くにあっても、心はこんなに遠いのにな」
自嘲気味に呟いた紫堂は本当に、心の底から孤独で淋しかったのだと秋人は感じ取った。だが秋人にだって限界がある。この二年間、自分に可能な限りのことはしてきたつもりで、これ以上となると秋人にはたったひとつしか方法は思いつかなかった。
しかしそれは紫堂が受けつけないだろう。
そう思った途端にまるで見えない共有フォルダに思考が流れ込んだかの如く、紫堂自身が目覚めたときのシチュエーションを思い出したのが分かった。ガーゼの貼られた左腕を上げ、乾いた唇を幾度か指で擦ったのち、頭を動かして秋人に目を向ける。
こちらを見上げたままじっと動かない色素の薄い瞳に秋人は身を凍らせた。紫堂に性的なことを思わせるのは御法度だ。失いたくないなら下半身的思考を悟らせてはならない。そして秋人はどうしても紫堂を失いたくはなかった。
「紫堂……すまん」
「それだけ?」
「本当にすまん。寝てる間に悪戯しようとか、そんなんじゃ……ただあんまり冷たかったのが温かそうで……いや、俺、そんなつもりじゃなくてだな……あああ!」
意味不明な言葉を吐き頭を抱える男を暫し眺めたのち、紫堂は柳眉をひそめる。
「あのさ、もしかしてあんた勘違いしてないか?」
「別に俺はお前を女だと思ってなんか――」
「だからそうじゃなくて。『それだけ?』っていうのは、そんなキスであんたは満足したのかってこと。僕はガラスケースの中のお人形さんじゃないんだよ」
そこまで言われて秋人は自分を見つめる色素の薄い瞳が至極穏やかなことに気付いた。どうやら紫堂は怒っている訳ではないらしいと悟り、恐る恐る訊いてみる。
「でもさ、ほら、嫌なんだろ? 必要以上に触られたりするのが」
「当たり前だ。何が哀しくて他人にベタベタ触られなきゃならないのさ」
「分かってる。分かってるから俺だって、お前に触りたくてもずっと我慢してたんだし……いや、だから触りたいってのはそういう意味……あれ? え、いやいや!」
またも必死で主張し始めた男は、既に紫堂に対する想いを自ら暴露してしまっていることにも気付いていない。その間に紫堂は深い溜息をつき、おもむろにキレた。
「五月蠅い」
「いや、本当に俺がどれだけ我慢して――」
「うるさーい! 人の話を聞け!」
「……ハイ」
「僕はあんたにもっと触られたいの! 僕はあんたを他人と思ってないし、『あんたが欲しくなった』って随分前に告った筈だし、忘れたならあんたの評価を下げなきゃならないけど、ともかく僕はずっと意思表示をしてきたつもりだし、おまけに秋人、あんたは『我慢』できてないし!」
薄い患者服は秋人の躰の変化を見事にくっきりと浮かび上がらせていた。
ここでようやく秋人は紫堂の言った『あんたが欲しくなった』という科白のレヴェルを本当の意味で理解する。同時に過剰なスキンシップをたびたび仕掛けては秋人を翻弄し、笑い飛ばしながらも真顔で窺っていた目を脳裏に甦らせた。
いや、あれは窺っていたのではない、誘っていたのだ!
「なあ、紫堂。もしかしたらお前ってゲイなのか?」
「ゲイじゃなかったんだけどね、二年前まで付き合ってきたのは女性ばかりだし」
「えっ、ああ? お前が女と付き合ってたのか? ふえーっ!」
「本当にあんたは失礼だな。でもあんたに出会って地軸が百八十度回転したんだ」
あの究極に色っぽい紫堂を目にしたとき秋人の中で起こったような事象が、紫堂には秋人と出会ったその日のうちに起こったらしい。やっと悟って秋人は天井を仰ぐ。
今まで自分は何という曲解をしてきたのかと脱力し、肩を落としながらも訊いた。
「それならそれで、何ではっきり言わなかったんだよ?」
「あれで伝わらないなら経験豊富な誰かに告白のレパートリーをご教授願いたいね」
紫堂らしい痛烈な皮肉に、秋人はまたも肩を落として謝り倒すしかない。
「すまん、紫堂。とんだ勘違い野郎で申し訳ない!」
「いや、僕こそ悪かった。止めようと思ったけど、どうしても止まらなかったんだ」
他の道が見えないほど苦しくてエスカレートしてしまったのだろう。ベッドに腰掛けると上体を起こした紫堂を抱き締めてやる。
するとここにきて紫堂は大声を上げて泣いた。身も世もなく泣きじゃくりながら自分にしがみついて痩せた躰を震わせる男に、秋人もきつく縛っていた心の結び目が解けたような気がした。
「俺こそ本当にすまん。弱ってたお前をそこまで追い詰めた」
「僕こそ、勘違いしてすまない。あんたの想いを踏みにじって、あんな真似をした」
ひとしきり泣いたのち紫堂は恥ずかしそうに俯く。奇跡的に助かったから良かったようなものの勘違いで自殺をこいてあの世行きなどみっともないにもほどがあった。
「本当にすまない。もう二度としないから許してくれ」
「ああ、俺も悪かったが二度とあんな思いはごめんだ。心臓が止まるかと思ったぜ」
「秋人……本当にすまない、秋人」
「分かったから謝り合いは終わりにしようぜ。俺はこうしてあったかいお前を抱き締めていられたら、それでいいからさ」
「そうなのか? 躰はそれだけじゃ満足していないみたいだけど」
未だ鎮まらないものを目で示されて秋人は慌てて毛布を引き寄せ被せた。
「うっ……けどお前を失くしたくねぇし。だって怖いんだろ?」
「正直に言えば怖いよ。義父の虐待は、まさにそういうことだったから」
「無理しなくていいからな。俺たちは俺たちのペースで歩いて行けばいいからさ」
「そう言ってくれると助かる。でも仕切り直しのキスくらい、してみないか?」
泣き濡れた色素の薄い瞳の誘いに否やはない。柔らかな色の薄い髪が頬を撫でた瞬間、秋人は痩せた躰を再びかき抱いて唇を奪っている。
舌を絡め取り、唾液と共に痛みが走るくらいに吸い上げた。互いの息が上がるほど存分に紫堂を味わってから解放する。
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