マスキロフカ~楽園7~

志賀雅基

文字の大きさ
8 / 46

第8話

しおりを挟む
 先にハイファにリモータ発振をしておいてから、コンスタンスホテルに通信を入れる。幸い相手はすぐに捕まった。
 ドアから入ってきたばかりのハイファにちょっと様子を窺う目をしてみせると頷いたので、こちらにもう一度足を運んでくれるように言う。
 先方もその気だったらしく快諾されて通信をアウト。

「あそこからだとコイルで十五分だね。取り敢えず何か作っておこうかな」
「そんなに気ぃ使う相手でもねぇぞ。何せあいつらとは悪ガキ仲間だからな」
「だからって貴方も相手も、もういい大人でしょ? 積もる話もあるだろうし、貴方だって晩御飯は食べなきゃだし。それにそんなに凝ったモノは元々作れないから」
「そうか、ならいい」

 昔の知人に会うというだけでなく互いに現状を見られるのだ。何となくそわそわと落ち着かない気持ちを体現してしまっているシドに、黒いエプロンをしたハイファは自分の部屋からワインを持ってくるように命ずる。

 ハイファは何やら加熱調理をしながら、あっという間に四人分のサラダとプレートびっしりのカナッペを作り上げた。見ていて気持ちいいくらい手際が良い。
 シドが対衝撃ジャケットを脱ぐのも忘れて調理を眺めている間に、マクシミリアン=ダベンポートとキャスリーン=バレットから官舎の前に着いたとの連絡が入る。

 この官舎に住むのは一介の平刑事だけではない。少数ながら議員センセイといった人種も同じ公僕として入居しているので一連のセキュリティは万全である。
 こちらから操作をし来訪者登録しなければ客も入れない。コードを流してやりX‐RAYサーチを受けさせて、やっとエントランスが一人につき五秒間だけ開くのだ。

《五十一階には着いたんだが……》
「すまん、今出る」

 リモータの音声発信に応えておいて、靴をつっかけエレベーターホールに行くと、長身の男と小柄な女性が立っていた。女性が大きく手を振る。

「マクシミリアン……マックスにキャスか?」
「ああ、シドか。大きくなったな!」
「お互い様だろ。で、マジでキャスリーンかよ?」
「そうよ。ほんと、大きくなって。でも相変わらず綺麗な顔してるわね」
「ンなこと言うのはキャスくらいだぜ。キャスこそ綺麗になったな」
「ふふん、そう? お世辞でも嬉しいわ」
「や、お世辞じゃねぇって――」

 二人の客をシドはリビングに招き入れた。

「単身者用だから狭いが、我慢してくれ」
「いや、セントラルエリアの刑事ともなればすごい所に住んでるな。セキュリティに弾かれたときには焦ったよ……あ、すまない、シド独りだとばかり」

 マックスが、遅れてキャスがハイファの存在に気付いた。

「初めまして。ハイファス=ファサルートといいます。シドの……バディです」
「マクシミリアン=ダベンポートです。シドとは彼が十二歳で施設を出るまで一緒でした。悪ガキ仲間で一緒に育った兄弟みたいなものか。十年ぶりですよ」

 バディという単語が通じた相手、ハイファは灰色の目と自分とよく似た明るい金髪を見る。年齢も自分たちとあまり変わらないようだ。

「わたしも施設で一緒だったキャスリーン=バレットといいます。悪戯っ子の男の子たちとばかり遊んでいたの。……これ、本当にささやかで申し訳ないんだけど」

 と、ワインが二本入った手提げの紙袋を差し出した、それこそ悪戯っ気のある笑顔は、透明感のある赤茶色の目と、僅かに散ったそばかすを隠そうともしない潔さで、とてもチャーミングに見えた。髪も同じく赤茶色だ。

「じゃあ遠慮なく頂きます」
「ええと、適当に、いや、そこに座ってくれ」

 いつもはハイファの指定席だが今日ばかりは客人用、二人掛けソファをシドは勧める。座らせたはいいが客など迎えたことのないシドはまたもうろうろしていた。

「シドも座ってていいから。はい、これ持って。始めてて」
「ああ、うん、すまん」

 ワイングラスとワイン、カトラリーとクリスタルの小鉢に盛られたサラダなどを載せた大きなトレイを渡されてシドはロウテーブルに置くと素直にソファに腰掛けた。
 リビングとキッチンは続き間なので皆の会話はハイファにもちゃんと伝わる。

「それにしても、よく俺の消息なんか掴めたな」
「蛇の道は蛇……なんてな。実は俺たちもサツカンやってるのさ」
「へえ、同業者ってか。まさかキャスまでか?」
「ええ、そうよ。配属はもっと田舎だけどね」
「それで何と俺とキャスは同じ課でバディなんだ。どうだ、羨ましい……ってこともないか。ファサルートさんだっけか、男にしておくのは勿体ないような美人だよな」
「ハイファスで構いませんよ」

 つまみのカナッペのプレートを手にしてきたハイファは笑う。

「そういやファサルートってもしかしてあのエネルギー関連の大会社のFCとか?」
「わあ、もうバレちゃった。でも僕は役員のひとつに名前を貸してるだけですよ。本当に普通の警察官、シドのバディですから」
「おい、シド。バディったって料理まで作って嫁さんみたいな……え、まさか?」
「ああ、お前らと同じだよ」

 照れもせずにサラリと言い、シドはマックスとキャスの手を目で指した。

「けど、何だそれ。これみよがしにペアリングなんてしてきやがって。驚かせるつもりなら外してこいってんだ。結婚したのか? 婚約か?」
「まだ婚約だが……へえ。じゃあ、昔言ってた『どっちがキャスと結婚するか』ってのから、お前は降りたと見ていいんだな」
「そこまで出来上がってるのに、俺にどうしろってんだ。それに……俺にも、もう大事にしたい奴はいるからいいんだ」

 ひゅうっと口笛を吹くマックスと拍手するキャス。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

【短編集】こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

処理中です...