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第36話
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何とかナースの口撃を受けないギリギリの時間にシドは病室に戻ることができた。代わりに痛覚ブロックテープを剥がした件があとでバレて大目玉を食らったのだが。
翌朝の食事直後から始まったアミノ酸やリン酸カルシウムを直接移植部へと注入する部分点滴は非常にかったるい作業だった。何せふらふら動き回る訳にはいかない。マックスたちを訪ねるなどは論外で煙草さえ吸えないのだ。
故に備え付けのホロTVを眺めるか、ハイファ相手の漫才くらいしかやることがない。TVも昨夜の件ばかりで新ネタは何もなく、茫洋としているうちにうとうとしては起きて愚痴るという、何だか引退後の嫌味なクソジジイの如き過ごし方を余儀なくされているのだった。
「なあハイファ。美人基地司令の話でもする気はねぇか?」
「ありません」
「ふうん、即答か……即答なあ」
やや緊張したのを悟られまいとハイファは声を大きくする。
「大体、何で貴方にそんな話を聞かせなくちゃならないのサ」
「じゃあ何でもいいからさ。この際、作り話でも」
「酔ってんですか、あーた。ヒマなのは分かるけど僕も付き合ってるんだからね」
「あー、感謝してますよっと。マックスたち呼んでカードゲームでもするかな」
「その手で?」
「右だけ、そうっとならいける」
「イヴェントストライカの総取りが分かってるゲームなんか面白くないと思う」
「じゃあお前のオートマチックでロシアンルーレットでもするか?」
「ったく、もう。分かったからキャスに発信すればいいんでしょ」
呆れてハイファがリモータを操作しようとしたときTV画面にテロップが流れた。
《テラ連邦軍少年工科学校タイタン分校及び軍募集案内所の爆破犯『清冽なる陽・テレーザガーデンズ』のアジトを発見・摘発。首魁及びメンバー七名を射殺逮捕》
同時に外から遠雷のような轟きが響いてきて地鳴りがし、遅れてやってきた風圧に窓がたわんだ。ちぎれた木々の枝葉が窓に張り付き散る。ハイファが窓外を見た。
「地震……じゃない、軍港方面だよ」
「爆破か?」
「じゃないのかな?」
「時限式の置き土産かよ?」
「さあ、それはまだ分からないけど」
不穏な揺れに二人が顔を見合わせる中、一方ではハイファの予想に反し別室が嬉しい裏切り方をして仕組んだニュース・テロップが繰り返しTVに流れていた。
◇◇◇◇
軍宙港で爆破された宙艦が、前夜シドたちが乗って帰ってきたシャトル便だったという事実はMP、憲兵隊からの実質的な事情聴取で知らされた。
自分たちごと爆破されなくて良かったと安堵したが、何故ここにいるのかを説明することすら厄介な立場のシドたちである。女司令に頼るにも限度があり、MPの聴取は意外なまでに厳しかった。お陰でマックスはまたしても暫く身動きが取れなくなった訳だ。
何とかハイファが探りを入れたところ、どうやらMPも今回の件はヴィクトル星系解放旅団による最後の仕事という見方をしているらしい。幸い死傷者も出なかったこの爆破はメディアに対して伏せられたままだ。
それこそ『最後の仕事』を軍内で起こされ、幾ら死傷者なしでも税金の塊を吹っ飛ばされたのだから不名誉極まりない。
だから後になって別口、例えば『清冽なる陽・テレーザガーデンズ』等からメディアに対して犯行声明を出されても困るので、取り敢えず内部調査を徹底し長引かせ、『軍は安易に罠にはかからず調査を続けていた』という事実を残そう、そういう腹のようだ。
それらの事情から本来ならいるべきでない外部の者は恰好の調査対象である。
一応はMP隊長に『司令の勅命で起居している』と通達された筈のマックスたちも動くに動けないシドも、別室員であるハイファさえも連日聴取を受けた。
それぞれ病室から出される事はなかったが、何度も訪ねてきて通り一遍の質問を繰り返すMP隊員らの相手はシドのヒマ潰しの役にこそ立ったが、それも次第に飽きてしまう。
そうこうしているうちにシドの点滴も外れ、痛覚ブロックテープがなくても日常的な動きであればさほど痛まないまでに回復していた。
「ねえ、今日も『また来る』って言って警務隊の人は帰って行ったんだけれど、いつまでわたしたち、こうしていればいいのかしら」
「爆破からまだ三日。俺たちが事件のマル被を落とすときのこと、考えてみろよ」
「二日で検察送致して延長の延長で都合二十日の勾留か……それもそうね」
「それよりここの空気は腹に拙いんじゃねぇのか?」
シドの病室のある階、喫煙室でシドとキャスは話しているのだった。煙草自体は無害だが、さすがに煙は身体に悪そうだ。
「煙なんかより運動不足と精神的なものの方が結構くるわ。シャトル爆破さえなければ、一分署に戻って事情聴取、たぶんそれで本星帰りだったのに」
「だよな。いい人身御供だぜ」
ナゾな傷病休暇を取ったシドとハイファにしても同じである。一分署には幾ら何でも仮補填人員の追加はなされているであろうし、戻った時点でこんな薄暗い世界からオサラバだった筈だ。仮でなく本配属人員だってそろそろ決まるだろう。
「たまには被疑者の立場を考えろってことか。つったって殺しもタタキもひったくりにも同情の余地はねぇが。んでキャス、本星に帰ったらマックスと結婚するのか?」
「ええ、そのつもりよ」
「式、挙げるんなら呼んでくれよな」
「是非来て頂戴。ねえシド、貴方にわたしの付き添いを頼めるかしら?」
「構わないぜ。『娘は渡さん!』なんつってチャブ台返しする親父もいねぇもんな」
「ハイファスも一緒に我らが惑星警察の制服でキメてきて。貴方たち二人は綺麗すぎて目を惹くから、わたしは幾ら着飾っても霞んじゃいそうだけどね」
「バーカ、心配要らねぇよ。キャスを最高に盛り立てて輝かせてやるから大丈夫だ」
「あら、じゃあ本当に期待してるわよ。……ところでハイファスは?」
「俺たちがいつになったら『退院』できるのか探りに行ってるんだが、遅いな」
探りに、という段階は過ぎて別室・司令の両方から圧力を掛けて貰うために動いているのだが、どうも昔馴染みらしいナイスバディの美人基地司令の存在にシドは落ち着かず、こうしてキャスを相手に立て続けに灰と煙を生産しているのだった。
気になるのを悟られたくないシドは、表面上ポーカーフェイスでキャスに訊く。
「で、爆発物処理班長殿は、また腐ってるってか?」
「自分だけ聴取が長くて厳しいってお怒りよ。専門だもの、仕方ないし自分も捜査官で分かってはいるでしょうけど。ああいう時には放っておくのが一番なの。不貞寝してるわ」
「確かに俺がMPでもマックスを火炙りの刑にするだろうな。仕方ねぇよ」
「仕方ないで済めばいいけれど、傍目にもちょっと酷いのよ――」
それから暫くキャスの愚痴に付き合い、夕食の時間となったので一旦別れた。
病室に帰ってみればハイファは既に戻っていた。
「どうだったんだ?」
テーブルを用意しリフトからトレイをひとつずつ出しながらハイファに訊く。
「明日中には被疑者死亡のまま書類送検の予定だって」
「じゃあ明日の夜か、遅くとも明後日にはここを出られるんだな」
「そういうことになるね。ふう」
「ご苦労さん。マックスとキャスに発振してやろうぜ」
翌朝の食事直後から始まったアミノ酸やリン酸カルシウムを直接移植部へと注入する部分点滴は非常にかったるい作業だった。何せふらふら動き回る訳にはいかない。マックスたちを訪ねるなどは論外で煙草さえ吸えないのだ。
故に備え付けのホロTVを眺めるか、ハイファ相手の漫才くらいしかやることがない。TVも昨夜の件ばかりで新ネタは何もなく、茫洋としているうちにうとうとしては起きて愚痴るという、何だか引退後の嫌味なクソジジイの如き過ごし方を余儀なくされているのだった。
「なあハイファ。美人基地司令の話でもする気はねぇか?」
「ありません」
「ふうん、即答か……即答なあ」
やや緊張したのを悟られまいとハイファは声を大きくする。
「大体、何で貴方にそんな話を聞かせなくちゃならないのサ」
「じゃあ何でもいいからさ。この際、作り話でも」
「酔ってんですか、あーた。ヒマなのは分かるけど僕も付き合ってるんだからね」
「あー、感謝してますよっと。マックスたち呼んでカードゲームでもするかな」
「その手で?」
「右だけ、そうっとならいける」
「イヴェントストライカの総取りが分かってるゲームなんか面白くないと思う」
「じゃあお前のオートマチックでロシアンルーレットでもするか?」
「ったく、もう。分かったからキャスに発信すればいいんでしょ」
呆れてハイファがリモータを操作しようとしたときTV画面にテロップが流れた。
《テラ連邦軍少年工科学校タイタン分校及び軍募集案内所の爆破犯『清冽なる陽・テレーザガーデンズ』のアジトを発見・摘発。首魁及びメンバー七名を射殺逮捕》
同時に外から遠雷のような轟きが響いてきて地鳴りがし、遅れてやってきた風圧に窓がたわんだ。ちぎれた木々の枝葉が窓に張り付き散る。ハイファが窓外を見た。
「地震……じゃない、軍港方面だよ」
「爆破か?」
「じゃないのかな?」
「時限式の置き土産かよ?」
「さあ、それはまだ分からないけど」
不穏な揺れに二人が顔を見合わせる中、一方ではハイファの予想に反し別室が嬉しい裏切り方をして仕組んだニュース・テロップが繰り返しTVに流れていた。
◇◇◇◇
軍宙港で爆破された宙艦が、前夜シドたちが乗って帰ってきたシャトル便だったという事実はMP、憲兵隊からの実質的な事情聴取で知らされた。
自分たちごと爆破されなくて良かったと安堵したが、何故ここにいるのかを説明することすら厄介な立場のシドたちである。女司令に頼るにも限度があり、MPの聴取は意外なまでに厳しかった。お陰でマックスはまたしても暫く身動きが取れなくなった訳だ。
何とかハイファが探りを入れたところ、どうやらMPも今回の件はヴィクトル星系解放旅団による最後の仕事という見方をしているらしい。幸い死傷者も出なかったこの爆破はメディアに対して伏せられたままだ。
それこそ『最後の仕事』を軍内で起こされ、幾ら死傷者なしでも税金の塊を吹っ飛ばされたのだから不名誉極まりない。
だから後になって別口、例えば『清冽なる陽・テレーザガーデンズ』等からメディアに対して犯行声明を出されても困るので、取り敢えず内部調査を徹底し長引かせ、『軍は安易に罠にはかからず調査を続けていた』という事実を残そう、そういう腹のようだ。
それらの事情から本来ならいるべきでない外部の者は恰好の調査対象である。
一応はMP隊長に『司令の勅命で起居している』と通達された筈のマックスたちも動くに動けないシドも、別室員であるハイファさえも連日聴取を受けた。
それぞれ病室から出される事はなかったが、何度も訪ねてきて通り一遍の質問を繰り返すMP隊員らの相手はシドのヒマ潰しの役にこそ立ったが、それも次第に飽きてしまう。
そうこうしているうちにシドの点滴も外れ、痛覚ブロックテープがなくても日常的な動きであればさほど痛まないまでに回復していた。
「ねえ、今日も『また来る』って言って警務隊の人は帰って行ったんだけれど、いつまでわたしたち、こうしていればいいのかしら」
「爆破からまだ三日。俺たちが事件のマル被を落とすときのこと、考えてみろよ」
「二日で検察送致して延長の延長で都合二十日の勾留か……それもそうね」
「それよりここの空気は腹に拙いんじゃねぇのか?」
シドの病室のある階、喫煙室でシドとキャスは話しているのだった。煙草自体は無害だが、さすがに煙は身体に悪そうだ。
「煙なんかより運動不足と精神的なものの方が結構くるわ。シャトル爆破さえなければ、一分署に戻って事情聴取、たぶんそれで本星帰りだったのに」
「だよな。いい人身御供だぜ」
ナゾな傷病休暇を取ったシドとハイファにしても同じである。一分署には幾ら何でも仮補填人員の追加はなされているであろうし、戻った時点でこんな薄暗い世界からオサラバだった筈だ。仮でなく本配属人員だってそろそろ決まるだろう。
「たまには被疑者の立場を考えろってことか。つったって殺しもタタキもひったくりにも同情の余地はねぇが。んでキャス、本星に帰ったらマックスと結婚するのか?」
「ええ、そのつもりよ」
「式、挙げるんなら呼んでくれよな」
「是非来て頂戴。ねえシド、貴方にわたしの付き添いを頼めるかしら?」
「構わないぜ。『娘は渡さん!』なんつってチャブ台返しする親父もいねぇもんな」
「ハイファスも一緒に我らが惑星警察の制服でキメてきて。貴方たち二人は綺麗すぎて目を惹くから、わたしは幾ら着飾っても霞んじゃいそうだけどね」
「バーカ、心配要らねぇよ。キャスを最高に盛り立てて輝かせてやるから大丈夫だ」
「あら、じゃあ本当に期待してるわよ。……ところでハイファスは?」
「俺たちがいつになったら『退院』できるのか探りに行ってるんだが、遅いな」
探りに、という段階は過ぎて別室・司令の両方から圧力を掛けて貰うために動いているのだが、どうも昔馴染みらしいナイスバディの美人基地司令の存在にシドは落ち着かず、こうしてキャスを相手に立て続けに灰と煙を生産しているのだった。
気になるのを悟られたくないシドは、表面上ポーカーフェイスでキャスに訊く。
「で、爆発物処理班長殿は、また腐ってるってか?」
「自分だけ聴取が長くて厳しいってお怒りよ。専門だもの、仕方ないし自分も捜査官で分かってはいるでしょうけど。ああいう時には放っておくのが一番なの。不貞寝してるわ」
「確かに俺がMPでもマックスを火炙りの刑にするだろうな。仕方ねぇよ」
「仕方ないで済めばいいけれど、傍目にもちょっと酷いのよ――」
それから暫くキャスの愚痴に付き合い、夕食の時間となったので一旦別れた。
病室に帰ってみればハイファは既に戻っていた。
「どうだったんだ?」
テーブルを用意しリフトからトレイをひとつずつ出しながらハイファに訊く。
「明日中には被疑者死亡のまま書類送検の予定だって」
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