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第16話
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そうしている間に全員がX‐RAYサーチを受け、臭気探知機などの機器の間を歩かされ、武器所持許可証を二人の男に見せた。ここが一応の通関らしい。
「では、これに乗って頂けますか?」
パイロットの指した二台のコイルはオープンタイプで座席が広く、一台に七名が乗っても余裕があった。先行するパイロットが運転する方にヴィンティス課長と幹部三名にミュリアルちゃんとナカムラが乗り、後続のコ・パイの方に残りの人員が腰掛けると出発だ。
格納庫を出るとライトパネルが煌々と照らすトンネル状の通路を暫し走ったのち、コイルごとエレベーターに乗った。コイル四台は入れそうなエレベーターが上昇し、やがて停止してオートドアが開く。途端にコイルは勢いよく飛び出した。
するとそこはもう一大都市としか言いようのない光景が広がっていた。
「嘘、夜になってる! それにビルが建ってるよ!」
「星まで出てるぜ、あれはホログラムか?」
「違う、あれはたぶん本物の星だよ。すっごく綺麗!」
「あの赤い月は何て言うんだ?」
シドが訊くと、コ・パイは短く「エスカだ」と答えた。
「ちょっとこれ、どういう仕掛けになってるのか、教えて貰っていいかな?」
「この惑星には洩れなく西風が吹いている。体感して貰ったから分かるだろうが、途轍もない強風で、地上では作物も育たず産業も興せない。そこで我らがご先祖は考えた。風と相対速度をゼロにすれば、風のない土地が得られるんじゃないか、とね」
それまで口数少なかったコ・パイは少し自慢げ、今は饒舌になっていた。
「じゃあこのテュールの島は風に乗って飛び続けてる?」
「ああ、壮大なことを考えたものでね。だが先祖たちはやり遂げた。具体的には一千フィートから二千フィートの高さを風のさなか、ずっと追い風で島は沈むことなく飛んでいるんだ」
「そうすると東に向かって飛んでるんだよね、だから早く夜になっちゃったんだ?」
「その通り。ただマーニの自転周期がそもそも長いからな、このテュールに限っては一日が二十四時間五分十五秒だ。テラ本星からのお客人には都合がいい筈だが」
皆がテュール時間を教えて貰いリモータ表示した。現在時は十八時七分だった。
一方でシドは巨大な浮島都市の動力システムに興味を持つ。
「反重力装置とそれを起動するバッテリを合わせて数万基じゃねぇか?」
この質問にもコ・パイは頷き、また少し自慢げに説明を始める。
「ああ。莫大な数の反重力装置を起動させるために、これも莫大な数のバッテリには惑星マーニの周囲を巡る六基の発電衛星のどれかから、常にアンテナで電力供給が行われている」
「へえ、すげぇな。島の心臓ってことか。そいつは見られるのか?」
「バッテリと反重力装置は地下の立ち入り禁止区域だがアンテナは島の先端にある」
「そうか。で、あんたは何て呼べばいい?」
「俺はタッカーだ。先行する相棒はヘイデン。いや、お客様に失礼をば」
おどけて言ったタッカーが振り向き、いやにピシリとした挙手敬礼をした。
「いいからタッカー、前を向いて運転に励んでくれ」
「あいよ。あんたは?」
「シド、相棒はハイファスだ。後ろはあとで訊いてくれ」
「もの凄い別嬪さん二人だな、それで刑事だとは驚いた。結婚してるのか?」
「そうだな、似たような……あ、ちがっ、違う、タダの仕事上のバディっつー、二人一組の相棒であってだな。分かったか、なあ、分かっただろ?」
いつもの別室任務と同じように答えかけてしまい、シドは過剰反応も最たるテンパり具合で否定した。後ろではマイヤー警部補とヘイワード警部補にヤマサキがニヤニヤ笑っている。
涼しい顔ながら内心、シドを撃ち殺さなかった自分を誉めつつハイファが夜空を仰いだ。
「コイルがオープンだけど、ここにウェザコントローラは上がってるのかな?」
「上がってないが必要ない。風が何もかもを吹き飛ばして、雨は降らないんだ」
「ああ、それで……」
都市内はさすがにコイルも低速で走った。シドが思ったよりも沢山のコイルが片側三車線の通りに見受けられる。路肩に目をやると街路樹と街灯まであった。
ビルの林立といってもテラ本星セントラルエリアとは比肩のしようもないが、それでも五十階前後はありそうなものが中心地に五本も生えだしているのは、状況的にシュールだ。周囲も三十階くらいのビルで埋め尽くされていて、それらが星空を切り取っていた。
どのビルにも窓明かりが洩れなく灯っていて豊かさの象徴のようにシドは感じる。来るときにヤマサキが言ったエル・ドラドなどという言葉を思い浮かべた。
緊急音を鳴らして救急BELが上空を飛び去る。
「これだけのモノを維持する財源は金とプラチナなのか?」
「そうだ。機械がオートで掘り続けている。このテュールからモニタでシステムを監視するだけだ。ときどきメンテにヨルズの民が駆り出されるが滅多にないことだ」
「ヨルズの民って何だ?」
「地上に生きる奴らをヨルズというのさ。おっと、こんな話はお客に聞かせることじゃないな。うっかりアンテナ地区にまで行っちまうところだ。もうホテルに着くぞ」
「では、これに乗って頂けますか?」
パイロットの指した二台のコイルはオープンタイプで座席が広く、一台に七名が乗っても余裕があった。先行するパイロットが運転する方にヴィンティス課長と幹部三名にミュリアルちゃんとナカムラが乗り、後続のコ・パイの方に残りの人員が腰掛けると出発だ。
格納庫を出るとライトパネルが煌々と照らすトンネル状の通路を暫し走ったのち、コイルごとエレベーターに乗った。コイル四台は入れそうなエレベーターが上昇し、やがて停止してオートドアが開く。途端にコイルは勢いよく飛び出した。
するとそこはもう一大都市としか言いようのない光景が広がっていた。
「嘘、夜になってる! それにビルが建ってるよ!」
「星まで出てるぜ、あれはホログラムか?」
「違う、あれはたぶん本物の星だよ。すっごく綺麗!」
「あの赤い月は何て言うんだ?」
シドが訊くと、コ・パイは短く「エスカだ」と答えた。
「ちょっとこれ、どういう仕掛けになってるのか、教えて貰っていいかな?」
「この惑星には洩れなく西風が吹いている。体感して貰ったから分かるだろうが、途轍もない強風で、地上では作物も育たず産業も興せない。そこで我らがご先祖は考えた。風と相対速度をゼロにすれば、風のない土地が得られるんじゃないか、とね」
それまで口数少なかったコ・パイは少し自慢げ、今は饒舌になっていた。
「じゃあこのテュールの島は風に乗って飛び続けてる?」
「ああ、壮大なことを考えたものでね。だが先祖たちはやり遂げた。具体的には一千フィートから二千フィートの高さを風のさなか、ずっと追い風で島は沈むことなく飛んでいるんだ」
「そうすると東に向かって飛んでるんだよね、だから早く夜になっちゃったんだ?」
「その通り。ただマーニの自転周期がそもそも長いからな、このテュールに限っては一日が二十四時間五分十五秒だ。テラ本星からのお客人には都合がいい筈だが」
皆がテュール時間を教えて貰いリモータ表示した。現在時は十八時七分だった。
一方でシドは巨大な浮島都市の動力システムに興味を持つ。
「反重力装置とそれを起動するバッテリを合わせて数万基じゃねぇか?」
この質問にもコ・パイは頷き、また少し自慢げに説明を始める。
「ああ。莫大な数の反重力装置を起動させるために、これも莫大な数のバッテリには惑星マーニの周囲を巡る六基の発電衛星のどれかから、常にアンテナで電力供給が行われている」
「へえ、すげぇな。島の心臓ってことか。そいつは見られるのか?」
「バッテリと反重力装置は地下の立ち入り禁止区域だがアンテナは島の先端にある」
「そうか。で、あんたは何て呼べばいい?」
「俺はタッカーだ。先行する相棒はヘイデン。いや、お客様に失礼をば」
おどけて言ったタッカーが振り向き、いやにピシリとした挙手敬礼をした。
「いいからタッカー、前を向いて運転に励んでくれ」
「あいよ。あんたは?」
「シド、相棒はハイファスだ。後ろはあとで訊いてくれ」
「もの凄い別嬪さん二人だな、それで刑事だとは驚いた。結婚してるのか?」
「そうだな、似たような……あ、ちがっ、違う、タダの仕事上のバディっつー、二人一組の相棒であってだな。分かったか、なあ、分かっただろ?」
いつもの別室任務と同じように答えかけてしまい、シドは過剰反応も最たるテンパり具合で否定した。後ろではマイヤー警部補とヘイワード警部補にヤマサキがニヤニヤ笑っている。
涼しい顔ながら内心、シドを撃ち殺さなかった自分を誉めつつハイファが夜空を仰いだ。
「コイルがオープンだけど、ここにウェザコントローラは上がってるのかな?」
「上がってないが必要ない。風が何もかもを吹き飛ばして、雨は降らないんだ」
「ああ、それで……」
都市内はさすがにコイルも低速で走った。シドが思ったよりも沢山のコイルが片側三車線の通りに見受けられる。路肩に目をやると街路樹と街灯まであった。
ビルの林立といってもテラ本星セントラルエリアとは比肩のしようもないが、それでも五十階前後はありそうなものが中心地に五本も生えだしているのは、状況的にシュールだ。周囲も三十階くらいのビルで埋め尽くされていて、それらが星空を切り取っていた。
どのビルにも窓明かりが洩れなく灯っていて豊かさの象徴のようにシドは感じる。来るときにヤマサキが言ったエル・ドラドなどという言葉を思い浮かべた。
緊急音を鳴らして救急BELが上空を飛び去る。
「これだけのモノを維持する財源は金とプラチナなのか?」
「そうだ。機械がオートで掘り続けている。このテュールからモニタでシステムを監視するだけだ。ときどきメンテにヨルズの民が駆り出されるが滅多にないことだ」
「ヨルズの民って何だ?」
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