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第35話
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分かっていながら動くことを選択した霧島がスプーンを振って訊いた。
「参謀長のアドバイスを以てしても、そこまで酷い計画なのか?」
「冗談言ってる場合じゃないですよ。大体、政府の転覆を図って、それで?」
「ここの奴らを見殺しにはできんだろう。それとも六百キロ歩くか?」
「本当に放り出されはしないと思いますけどね。でも、もし上手く行ってダニロ=ブレッヒ大統領を拘束できたとしてもその先は? 企みはともかく某大国は反政府ゲリラを失くすことを望んでます。某大国が望んだなら国連加盟の主要国も同意見と考えていい。それなのにまるで逆、ゲリラが打ち立てた政府を認めると思いますか?」
「それは神のみぞ知るだな。富の再分配に漕ぎ着けるか否かここの奴ら次第だろう」
「その割には貴方、積極的ですよね」
「お前も私に同調して言っただろうが。放っておいても皆はやらかす、不安にさせるのは得策ではないと。この状況で消極的になっていいことがあるなら教えてくれ」
何度目かの溜息をつきながら京哉は空になった食器を砂の上に置く。
「今晩と明日は僕らも作戦会議ですよ、まともに眠れないのは覚悟しておいて下さいね。とはいえ実際にはネット上で情報収集するくらいですけど」
「それこそ政府の官僚に電話でもしてみるか?」
「この段階で危ない橋は渡れません。ゲリラが失敗したら僕らも広場で磔ですよ?」
「それもそうか。だがここまできたら成功に持っていきたいところだな」
「確かにそうですね。間違っても革命失敗で処刑はご免ですから」
喋っていると天幕を畳むグループが現れ始めた。
割り振られた武器を持ち出し早々に分散するようだ。
片や霧島と京哉は爆撃だと脅しておきながら暢気に食器を返し、霧島は再び煙草を吸う京哉に付き合う。そこにジョセが二人の着替えの入ったショルダーバッグを持ってきてくれた。手にしていた二個のオレンジと一緒に受け取る。
「今日の荷物運びのご褒美に特別配給よ」
「わあ、有難うございます。僕らも移動ですよね?」
「ええ、目立っただろうから少しだけ。じゃあ、準備を始めるわよ!」
ジョセの掛け声でにわかに慌ただしくなり、霧島と京哉はデポから火器を掘り起こす班に回された。デポでは既に大部分の武器が持ち去られ、先人たちが命を懸けて溜めた遺産の殆ど全てをさらえる作業となる。
それらを中型ヘリに載せ終えると天幕をバラして機材を積み焚き火を砂で埋めた。するとようやく移動の開始だった。
二人は荷物が満載されたハミッシュ操縦の小型ヘリに乗る。
テイクオフするなり、やや興奮した口調でキャラハンが話し出した。
「俺たちのグループは第二駐屯地襲撃全般と、中央アタックの一部を担当になった」
「ふむ、そうか」
「俺と相棒も中央部隊だ」
「へえ、そうですか」
「二人揃って『ふむ』に『へえ』じゃない、あんたらも中央アタック隊だぞ」
「でしょうね。でも、よそ者の僕らをそんなに信用しちゃっていいんですか?」
京哉の言葉を霧島に訳され振り返ったキャラハンが面白そうな色を目に浮かべた。
「計画を政府側に洩らすって?」
「そう。流れ者はゲリラを売って礼金せしめてプラーグを去る。どうでしょうか?」
「焼かれた村を見た時のあんたのダンナの怒りは本物だった。ユーリンを助けた時のこともジョセやレズリーから聞いたさ。これであんたらが偽者だったら俺は靴を食ってもいい」
「そっか。靴じゃなくてオレンジ食べますか?」
「おっ、頂くかな」
機内にみずみずしい香りが広がる。オレンジ二個は四人の胃袋に均等に分配された。食い終えてキャラハンが頭の後ろで両手を組み、つまらなそうに愚痴った。
「マメな女房貰って、ダンナの霧島さんが羨ましいぜ」
「キャラハンとハミッシュは奥さん、まだいないんですか?」
「俺たちゃ明日をも知れぬ身なんだぜ? ハミッシュはともかく、俺様が散った日にゃあグループの女全員が悲嘆に暮れるだろうよ」
「つまりは独り身なんですね。ああ、それ以上は言わないでいいですよ。ここで夢なんか語った日には、戦争映画の法則では死亡フラグですから」
「何だ、それは?」
映画なんか知らないキャラハンは首を捻る。オレンジの皮を弄ぶ霧島が訊いた。
「ところでどのくらい移動するんだ?」
「二時間ちょっとかな。そこも基地跡で僅かだが水が出る」
「有難いな、水筒が空に近いんだ」
眼下で併走する四駆群は夜中の砂漠を爆走している。約百五十キロの移動らしい。水があれば躰くらい拭けるだろうと京哉は期待した。昼間の砂の花掘りでベタベタである。
時折砂の花の採掘で止まりながら、最終的に機が減速したのは五時を少し回った頃だった。ランディングする前にヘリや四駆の前照灯で基地跡の全容を見たが、ここも徹底的に破壊し尽くされているようだった。
スキッドを接地した小型ヘリから、霧島と京哉はショルダーバッグの他、積んであった大天幕の骨材を抱えて砂漠に降りる。皆で協力してふたつの大天幕を建てた。慣れた人々の働きにより二十分ほどで頑丈なテントを張り終える。
次に二人は他の数人と共にスコップを持ち出して砂に埋もれた水道探しだ。
探し当てた三ヵ所の水栓のうち二ヶ所で水が出た。意外にも迸る勢いで溢れた水を生活用水のタンクと水袋に溜めては大天幕に運ぶ。重労働だったが気温は氷点近い寒さなので動いている方がマシだ。水運びすると水を分けて貰うのも容易である。
一通りキャンプの準備が終わると立哨当番以外の者は大天幕か小型天幕に入った。霧島と京哉も小型天幕を張って潜り込む。既に外は明るく、明かりが要らなくなった中、まずは服を脱ぐと借りた布を水袋の水で絞ったもので躰を拭いた。
「少しはすっきりしたな。で、作戦会議か?」
「ええ。でもヘリの中でネットを探ったけど、情報と言えるほどのネタはありませんでした。ってゆうか、残念ながらこのプラーグにはまともなネットが存在しません」
「だろうな。最初からジョセが吐いていれば軍の管轄である病院の端末で軍のイントラネットくらいはハックできたかも知れんが……おい、まさかそれさえもないとは言わんだろうな?」
「僕に訊かれても知りません。とにかく今はできることからやらなきゃ」
まともなネットがないのを霧島が確認したのち二人は特別任務の資料をもう一度、隅から隅まで読み耽った。だが軍施設関連の記述など何処にも載ってはいなかった。
成果なしで仕方なくダニロ=ブレッヒ大統領とセドリック=フランセ軍司令官の写真を眺めてみる。二人は印刷された画像を覗き込みながら、それぞれコメントした。
「こうして見ると両方とも普通のロマンスグレイですよね」
「そうか? 私には酷薄なスケベ親父に見えるぞ」
「忍さんの私情はともかく、反政府ゲリラグループがこの二人を拘束した時点で、一ノ瀬本部長に『該当目標なし』を僕は再度メールします。その返答が何であれ帰国しますからね」
「砂漠に骨を埋める気はないか」
「当然でしょう。本当に旗印にされないうちに帰らなきゃ大変なことになりますよ。貴方が抵抗しようと引きずってでも帰国するんですから」
「分かった、分かった。それにはまずは作戦成功だろう?」
だが情報収集の成果は全く上がらなかったのだ。尤もネット程度で情報を得られるのならゲリラもとっくに手中にしている筈で二人はニコチンの力も借りて考え込む。
「やはり何か言い訳して病院に行くか? 軍のイントラネットの存在も博打だが」
「うーん。何もしないで後悔よりやって後悔。それが忍さんの持論なんでしょう?」
「すまんな。では寝ているヒマはない、皆に言って早くヘリか車を出して貰わんと」
「わあ、もう八時になっちゃう。急がなきゃ!」
「参謀長のアドバイスを以てしても、そこまで酷い計画なのか?」
「冗談言ってる場合じゃないですよ。大体、政府の転覆を図って、それで?」
「ここの奴らを見殺しにはできんだろう。それとも六百キロ歩くか?」
「本当に放り出されはしないと思いますけどね。でも、もし上手く行ってダニロ=ブレッヒ大統領を拘束できたとしてもその先は? 企みはともかく某大国は反政府ゲリラを失くすことを望んでます。某大国が望んだなら国連加盟の主要国も同意見と考えていい。それなのにまるで逆、ゲリラが打ち立てた政府を認めると思いますか?」
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「その割には貴方、積極的ですよね」
「お前も私に同調して言っただろうが。放っておいても皆はやらかす、不安にさせるのは得策ではないと。この状況で消極的になっていいことがあるなら教えてくれ」
何度目かの溜息をつきながら京哉は空になった食器を砂の上に置く。
「今晩と明日は僕らも作戦会議ですよ、まともに眠れないのは覚悟しておいて下さいね。とはいえ実際にはネット上で情報収集するくらいですけど」
「それこそ政府の官僚に電話でもしてみるか?」
「この段階で危ない橋は渡れません。ゲリラが失敗したら僕らも広場で磔ですよ?」
「それもそうか。だがここまできたら成功に持っていきたいところだな」
「確かにそうですね。間違っても革命失敗で処刑はご免ですから」
喋っていると天幕を畳むグループが現れ始めた。
割り振られた武器を持ち出し早々に分散するようだ。
片や霧島と京哉は爆撃だと脅しておきながら暢気に食器を返し、霧島は再び煙草を吸う京哉に付き合う。そこにジョセが二人の着替えの入ったショルダーバッグを持ってきてくれた。手にしていた二個のオレンジと一緒に受け取る。
「今日の荷物運びのご褒美に特別配給よ」
「わあ、有難うございます。僕らも移動ですよね?」
「ええ、目立っただろうから少しだけ。じゃあ、準備を始めるわよ!」
ジョセの掛け声でにわかに慌ただしくなり、霧島と京哉はデポから火器を掘り起こす班に回された。デポでは既に大部分の武器が持ち去られ、先人たちが命を懸けて溜めた遺産の殆ど全てをさらえる作業となる。
それらを中型ヘリに載せ終えると天幕をバラして機材を積み焚き火を砂で埋めた。するとようやく移動の開始だった。
二人は荷物が満載されたハミッシュ操縦の小型ヘリに乗る。
テイクオフするなり、やや興奮した口調でキャラハンが話し出した。
「俺たちのグループは第二駐屯地襲撃全般と、中央アタックの一部を担当になった」
「ふむ、そうか」
「俺と相棒も中央部隊だ」
「へえ、そうですか」
「二人揃って『ふむ』に『へえ』じゃない、あんたらも中央アタック隊だぞ」
「でしょうね。でも、よそ者の僕らをそんなに信用しちゃっていいんですか?」
京哉の言葉を霧島に訳され振り返ったキャラハンが面白そうな色を目に浮かべた。
「計画を政府側に洩らすって?」
「そう。流れ者はゲリラを売って礼金せしめてプラーグを去る。どうでしょうか?」
「焼かれた村を見た時のあんたのダンナの怒りは本物だった。ユーリンを助けた時のこともジョセやレズリーから聞いたさ。これであんたらが偽者だったら俺は靴を食ってもいい」
「そっか。靴じゃなくてオレンジ食べますか?」
「おっ、頂くかな」
機内にみずみずしい香りが広がる。オレンジ二個は四人の胃袋に均等に分配された。食い終えてキャラハンが頭の後ろで両手を組み、つまらなそうに愚痴った。
「マメな女房貰って、ダンナの霧島さんが羨ましいぜ」
「キャラハンとハミッシュは奥さん、まだいないんですか?」
「俺たちゃ明日をも知れぬ身なんだぜ? ハミッシュはともかく、俺様が散った日にゃあグループの女全員が悲嘆に暮れるだろうよ」
「つまりは独り身なんですね。ああ、それ以上は言わないでいいですよ。ここで夢なんか語った日には、戦争映画の法則では死亡フラグですから」
「何だ、それは?」
映画なんか知らないキャラハンは首を捻る。オレンジの皮を弄ぶ霧島が訊いた。
「ところでどのくらい移動するんだ?」
「二時間ちょっとかな。そこも基地跡で僅かだが水が出る」
「有難いな、水筒が空に近いんだ」
眼下で併走する四駆群は夜中の砂漠を爆走している。約百五十キロの移動らしい。水があれば躰くらい拭けるだろうと京哉は期待した。昼間の砂の花掘りでベタベタである。
時折砂の花の採掘で止まりながら、最終的に機が減速したのは五時を少し回った頃だった。ランディングする前にヘリや四駆の前照灯で基地跡の全容を見たが、ここも徹底的に破壊し尽くされているようだった。
スキッドを接地した小型ヘリから、霧島と京哉はショルダーバッグの他、積んであった大天幕の骨材を抱えて砂漠に降りる。皆で協力してふたつの大天幕を建てた。慣れた人々の働きにより二十分ほどで頑丈なテントを張り終える。
次に二人は他の数人と共にスコップを持ち出して砂に埋もれた水道探しだ。
探し当てた三ヵ所の水栓のうち二ヶ所で水が出た。意外にも迸る勢いで溢れた水を生活用水のタンクと水袋に溜めては大天幕に運ぶ。重労働だったが気温は氷点近い寒さなので動いている方がマシだ。水運びすると水を分けて貰うのも容易である。
一通りキャンプの準備が終わると立哨当番以外の者は大天幕か小型天幕に入った。霧島と京哉も小型天幕を張って潜り込む。既に外は明るく、明かりが要らなくなった中、まずは服を脱ぐと借りた布を水袋の水で絞ったもので躰を拭いた。
「少しはすっきりしたな。で、作戦会議か?」
「ええ。でもヘリの中でネットを探ったけど、情報と言えるほどのネタはありませんでした。ってゆうか、残念ながらこのプラーグにはまともなネットが存在しません」
「だろうな。最初からジョセが吐いていれば軍の管轄である病院の端末で軍のイントラネットくらいはハックできたかも知れんが……おい、まさかそれさえもないとは言わんだろうな?」
「僕に訊かれても知りません。とにかく今はできることからやらなきゃ」
まともなネットがないのを霧島が確認したのち二人は特別任務の資料をもう一度、隅から隅まで読み耽った。だが軍施設関連の記述など何処にも載ってはいなかった。
成果なしで仕方なくダニロ=ブレッヒ大統領とセドリック=フランセ軍司令官の写真を眺めてみる。二人は印刷された画像を覗き込みながら、それぞれコメントした。
「こうして見ると両方とも普通のロマンスグレイですよね」
「そうか? 私には酷薄なスケベ親父に見えるぞ」
「忍さんの私情はともかく、反政府ゲリラグループがこの二人を拘束した時点で、一ノ瀬本部長に『該当目標なし』を僕は再度メールします。その返答が何であれ帰国しますからね」
「砂漠に骨を埋める気はないか」
「当然でしょう。本当に旗印にされないうちに帰らなきゃ大変なことになりますよ。貴方が抵抗しようと引きずってでも帰国するんですから」
「分かった、分かった。それにはまずは作戦成功だろう?」
だが情報収集の成果は全く上がらなかったのだ。尤もネット程度で情報を得られるのならゲリラもとっくに手中にしている筈で二人はニコチンの力も借りて考え込む。
「やはり何か言い訳して病院に行くか? 軍のイントラネットの存在も博打だが」
「うーん。何もしないで後悔よりやって後悔。それが忍さんの持論なんでしょう?」
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