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第37話
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院長室を出ると『国連派遣のスーパーエリート』を待ち構えていたマクフォール大佐が執拗に茶を勧めた。思い込むのは勝手だが、その勢いは二人から断る言葉を失わせた。
仕方なくまたもユーリンの病室でコーヒーカップを手にする。
順調に回復しているらしいユーリンは顔色も良く、結構美味しいコーヒーを啜った二人の気分も上々で、まずはこのオペレーションは成功と云えた。
敢えてユーリンには大攻勢のことは告げずに二人は病院をあとにする。言えば無理をして起きだしてくるのが予想できたからだ。
帰りは水筒の満タンを確認してバザールで水気の多そうな果物をふたつずつ買うとそれぞれジャケットのポケットに入れた。砂漠に出る前にレズリーにメールする。返事を待ってから歩き始めた。往路でしっかりGPS座標を確かめてあるので迷うことはない。
「今度はお水の配分を考えないといけませんね」
「少しは歩き方のコツが掴めた気がするぞ」
「僕も。でも、暑~い! ここまでくると罰ゲームも修羅場ですよね」
恨めしい思いで太陽を仰ぎ見た京哉は打ち出してきた紙束で扇いでみたが熱風を掻き回しただけだった。溜息をついてスラックスのポケットに丸めて差し込む。
「罰ゲームか、心当たりの筆頭は女か?」
「違います。スナイプや特別任務関連を除いたら貴方を独り占めしたことでしょう」
「ふん、上手く躱したな」
「僕が女性と仲良くするだけでも普段から不機嫌になるクセに、どうして今、そんなことを聞きたがるんですか? 頭に血が上って余計に暑くなると思いますけど」
「どうせ暑さもMAXだ。この際お前の告白、いや、懺悔を聞いてやろうと思った」
面倒なことを言い出した年上の男に京哉は溜息をついてついでに砂を吐き出した。
「そんなことはマンションの部屋でコーヒーでも飲みながら話してあげますよ」
「嫌だ、今がいい。ただ歩いているとボーッとしてくるから、何ぞ喋ってくれ」
「子供ですか、貴方は。人の唾液を犠牲にしようだなんて貴方も酷いですよね」
「こうして喋るだけで私も口に砂が……ペッ、じゃりじゃりだ」
「砂肝生えてきそうで怖いかも」
「こうも暑いとすぐにトサカにくるけれどもな」
あまりに過酷すぎて却って二人は減らず口を叩かずにいられない。それでも根性で歩いた。ヨレヨレになりつつも歩を止めず先を目指す。歩きながら水を飲み果物に皮ごとかぶりついた。黄色い果実は予想していた種がなく瞬く間に二個食べてしまう。
「甘くて旨かったな、何という名前か知らんが」
「ちょっと生き返った気がしますね。ほら、もうヘリがあそこに」
「行きよりいいペースだったな。二度とご免だが」
やっとの思いで歩ききった二人は転がり込むようにヘリに乗った。
「ご苦労さん。首尾は?」
ヘリに積んであった予備の水筒に片手を伸ばしながら京哉が紙束を突き出す。検分した地元ゲリラ組は目を瞠った。食いつく勢いで紙を捲る。レズリーが唸った。
「大したもんだ、歴戦の傭兵は電子戦にも長けてるのかい」
「これはすげぇよ、今ならあんたらが政府のスパイだって言われても納得するぜ」
「靴はよく煮込んでから食え、キャラハン。それより京哉に一本吸わせてやってもいいか?」
「一万本でも吸ってくれ」
既にこのメンバーは京哉の燃料は煙だと認識し、霧島の原動力は京哉だと承知している。誰も揶揄しないが常に京哉に寄り添う霧島は見るからにベタ惚れの甘々だ。
機はもうキャンプに向けて飛翔している。予備の水筒を空にし、京哉は吸い殻パックを片手に窓外を眺めながらゆっくりと煙草を一本灰にした。脳ミソが固まったところでこちらも予備の水筒を空けた霧島と第一駐屯地の見取り図を前に検討を始める。
「やっぱり一隊は正攻法、官邸エントランスに一番近い正面扉を破るべきだろうな」
「護りも固いでしょうけどね。そこに急行できるルートを他は採らないと」
コピーを見ていたレズリーとキャラハンも加わった。
「まず俺たち航空隊が潰すのはヘリで、次が対空砲だ。そこに迫撃砲も加わったら、この格納庫裏からのルートは、ほぼ更地になるんじゃないか?」
「じゃあ残り一隊は夜間に人の少なそうな本部庁舎とグラウンドの間はどうだい?」
「掩蔽物が殆どないけど、近さが武器かなあ。大統領官邸に立て篭もりたい訳じゃない、制圧が目的だからある程度は叩いてダメージを与えないといけませんし」
「この駐屯地は意外と人数が少ないようだな」
「それでも一個大隊、八百人近くをたった四十八人で押さえなきゃならない。無反動砲で金属塀のドアをぶち破ってる間にヘリと迫撃砲にせいぜい頑張って貰わないと」
「任せとけって。砂嵐で飛べないような軍の奴らとの格の違いを見せてやるよ」
また憂鬱になりかけた京哉をキャラハンが微笑ませた。
そこでハミッシュの携帯が震え始めた。メールではなくコールだ。パイロットの発した「ユー・ハヴ」宣言に素早くコ・パイのキャラハンが「アイ・ハヴ」宣言して操縦を代わり、ハミッシュは音声オープンで出る。
途端にジョセの悲鳴じみた声が流れ出した。
《キャンプに掃討部隊が! 一個小隊、交戦中!!》
「何だと? ジョセ、ジョセっ!!」
ハミッシュが叫んだが、その後の返答は沈黙だった。
「くそっ、こんなに連続で掃討を受けたことはなかったのに!」
「他国の軍事衛星を利用すれば、何処のキャンプだろうと位置は割れるぞ」
冷静な霧島の口調が余計にハミッシュを煽る。
「それでもだ。ここの軍の存在意義は街の大統領府の護りだ。砂漠の各基地を撤廃して以来ある意味それで均衡を保ってきた。なのにどうして今俺たちを叩きにくる?」
急激に高度を取り最高速での飛行を始めたヘリの中で霧島は病院の特別室で考えたこと思い出していた。プラーグ政府と某大国の思惑の食い違いについてである。
反政府ゲリラを生かさず殺さず恐怖政治に利用しているプラーグを、某大国は甘くも許していた。自分たちは反政府ゲリラの一掃を目論んでいるにも拘らずだ。
しかしいよいよ某大国が何らかの企みを達成するにあたって、反政府ゲリラが邪魔になったとする。だからといって某大国が軍を派遣しては国際問題になるだろう。
ならば普通に考えて反政府ゲリラ一掃の一番手っ取り早い方法は、プラーグ軍に叩かせることだ。それがヘタレた軍に成功可能かどうかは別として。
仕方なくまたもユーリンの病室でコーヒーカップを手にする。
順調に回復しているらしいユーリンは顔色も良く、結構美味しいコーヒーを啜った二人の気分も上々で、まずはこのオペレーションは成功と云えた。
敢えてユーリンには大攻勢のことは告げずに二人は病院をあとにする。言えば無理をして起きだしてくるのが予想できたからだ。
帰りは水筒の満タンを確認してバザールで水気の多そうな果物をふたつずつ買うとそれぞれジャケットのポケットに入れた。砂漠に出る前にレズリーにメールする。返事を待ってから歩き始めた。往路でしっかりGPS座標を確かめてあるので迷うことはない。
「今度はお水の配分を考えないといけませんね」
「少しは歩き方のコツが掴めた気がするぞ」
「僕も。でも、暑~い! ここまでくると罰ゲームも修羅場ですよね」
恨めしい思いで太陽を仰ぎ見た京哉は打ち出してきた紙束で扇いでみたが熱風を掻き回しただけだった。溜息をついてスラックスのポケットに丸めて差し込む。
「罰ゲームか、心当たりの筆頭は女か?」
「違います。スナイプや特別任務関連を除いたら貴方を独り占めしたことでしょう」
「ふん、上手く躱したな」
「僕が女性と仲良くするだけでも普段から不機嫌になるクセに、どうして今、そんなことを聞きたがるんですか? 頭に血が上って余計に暑くなると思いますけど」
「どうせ暑さもMAXだ。この際お前の告白、いや、懺悔を聞いてやろうと思った」
面倒なことを言い出した年上の男に京哉は溜息をついてついでに砂を吐き出した。
「そんなことはマンションの部屋でコーヒーでも飲みながら話してあげますよ」
「嫌だ、今がいい。ただ歩いているとボーッとしてくるから、何ぞ喋ってくれ」
「子供ですか、貴方は。人の唾液を犠牲にしようだなんて貴方も酷いですよね」
「こうして喋るだけで私も口に砂が……ペッ、じゃりじゃりだ」
「砂肝生えてきそうで怖いかも」
「こうも暑いとすぐにトサカにくるけれどもな」
あまりに過酷すぎて却って二人は減らず口を叩かずにいられない。それでも根性で歩いた。ヨレヨレになりつつも歩を止めず先を目指す。歩きながら水を飲み果物に皮ごとかぶりついた。黄色い果実は予想していた種がなく瞬く間に二個食べてしまう。
「甘くて旨かったな、何という名前か知らんが」
「ちょっと生き返った気がしますね。ほら、もうヘリがあそこに」
「行きよりいいペースだったな。二度とご免だが」
やっとの思いで歩ききった二人は転がり込むようにヘリに乗った。
「ご苦労さん。首尾は?」
ヘリに積んであった予備の水筒に片手を伸ばしながら京哉が紙束を突き出す。検分した地元ゲリラ組は目を瞠った。食いつく勢いで紙を捲る。レズリーが唸った。
「大したもんだ、歴戦の傭兵は電子戦にも長けてるのかい」
「これはすげぇよ、今ならあんたらが政府のスパイだって言われても納得するぜ」
「靴はよく煮込んでから食え、キャラハン。それより京哉に一本吸わせてやってもいいか?」
「一万本でも吸ってくれ」
既にこのメンバーは京哉の燃料は煙だと認識し、霧島の原動力は京哉だと承知している。誰も揶揄しないが常に京哉に寄り添う霧島は見るからにベタ惚れの甘々だ。
機はもうキャンプに向けて飛翔している。予備の水筒を空にし、京哉は吸い殻パックを片手に窓外を眺めながらゆっくりと煙草を一本灰にした。脳ミソが固まったところでこちらも予備の水筒を空けた霧島と第一駐屯地の見取り図を前に検討を始める。
「やっぱり一隊は正攻法、官邸エントランスに一番近い正面扉を破るべきだろうな」
「護りも固いでしょうけどね。そこに急行できるルートを他は採らないと」
コピーを見ていたレズリーとキャラハンも加わった。
「まず俺たち航空隊が潰すのはヘリで、次が対空砲だ。そこに迫撃砲も加わったら、この格納庫裏からのルートは、ほぼ更地になるんじゃないか?」
「じゃあ残り一隊は夜間に人の少なそうな本部庁舎とグラウンドの間はどうだい?」
「掩蔽物が殆どないけど、近さが武器かなあ。大統領官邸に立て篭もりたい訳じゃない、制圧が目的だからある程度は叩いてダメージを与えないといけませんし」
「この駐屯地は意外と人数が少ないようだな」
「それでも一個大隊、八百人近くをたった四十八人で押さえなきゃならない。無反動砲で金属塀のドアをぶち破ってる間にヘリと迫撃砲にせいぜい頑張って貰わないと」
「任せとけって。砂嵐で飛べないような軍の奴らとの格の違いを見せてやるよ」
また憂鬱になりかけた京哉をキャラハンが微笑ませた。
そこでハミッシュの携帯が震え始めた。メールではなくコールだ。パイロットの発した「ユー・ハヴ」宣言に素早くコ・パイのキャラハンが「アイ・ハヴ」宣言して操縦を代わり、ハミッシュは音声オープンで出る。
途端にジョセの悲鳴じみた声が流れ出した。
《キャンプに掃討部隊が! 一個小隊、交戦中!!》
「何だと? ジョセ、ジョセっ!!」
ハミッシュが叫んだが、その後の返答は沈黙だった。
「くそっ、こんなに連続で掃討を受けたことはなかったのに!」
「他国の軍事衛星を利用すれば、何処のキャンプだろうと位置は割れるぞ」
冷静な霧島の口調が余計にハミッシュを煽る。
「それでもだ。ここの軍の存在意義は街の大統領府の護りだ。砂漠の各基地を撤廃して以来ある意味それで均衡を保ってきた。なのにどうして今俺たちを叩きにくる?」
急激に高度を取り最高速での飛行を始めたヘリの中で霧島は病院の特別室で考えたこと思い出していた。プラーグ政府と某大国の思惑の食い違いについてである。
反政府ゲリラを生かさず殺さず恐怖政治に利用しているプラーグを、某大国は甘くも許していた。自分たちは反政府ゲリラの一掃を目論んでいるにも拘らずだ。
しかしいよいよ某大国が何らかの企みを達成するにあたって、反政府ゲリラが邪魔になったとする。だからといって某大国が軍を派遣しては国際問題になるだろう。
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