砂中で咲く石Ⅰ~Barter.11~

志賀雅基

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第45話

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 帰国した霧島と京哉は一ノ瀬本部長から『上』の意向により、突然『特別任務中止命令』が下りたという歯切れの悪い話を聞かされたが、予想していたので食い下がりもしなかった。

 尤も自分たちは特別任務とはまるで逆、革命にまで参加していたのである。某大国が企てた通りの働きをしたとはいえ、突っ込まれなくて却ってホッとしたくらいだった。 

 ただ一ノ瀬本部長個人からは心から労いの言葉を掛けて貰い、数日の休暇も提示されたが二人は何となく翌日から機捜の詰め所に出始め、既に五日が経過していた。
 今日も大事件は幸い起こらず書類漬けの一日を過ごして定時の十七時半を迎え、二人は県警本部庁舎の裏口から出ると白いセダンの傍でジャンケンをする。

 負けた京哉が運転しながら今週の食事当番として霧島に宣言した。

「スーパーカガミヤに寄りますからね。明日と明後日の連休前セールですから」
「了解した。それで今晩は何を食わせてくれるんだ?」
「お魚が特売で見逃せませんし、あとは豆のスープでも作ろうかな」
「勘弁してくれ、豆はもう一生分食った」
「冗談ですって。僕も暫く豆は見たくもないですよ」

 難なく真城市内のスーパーカガミヤに着くと魚の切り身を京哉がじっくりと吟味している間に、ちょっとした猪レヴェルの主婦群に恐れをなした霧島はカゴを載せたカートを押してその場から離れ何気なく店内を回る。
 メインメニューは食事当番任せなので食後のデザートでもと思い入り口近くの水菓子のコーナーまで戻ってみた。

 すると黄色い楕円形の果物が目を引く。これは見逃せないと思いカゴにふたつ入れて京哉の許に戻った。京哉は怒濤の主婦軍団にも負けず目的物をしっかり手に入れていた。

「もう、何処に行ってたんですか!」
「そうプリプリするな、美人が台無しだぞ」

 更に食材をカゴに追加し、精算になって京哉は黄色い楕円形の果物に気付く。

「あっ、これって砂漠で食べたヤツですね」
「種もなくて旨かったからな。豆はご免だがこっちは大歓迎だ」

 大きなエコバッグをひとつずつ提げて愛車に戻り、五分ほどで月極駐車場に駐めると、寒さを振り払うように駆け足でマンションの部屋に帰り着いた。

 部屋に上がってリビングのエアコンを入れ購入してきたものを二人で冷蔵庫に収めると、ジャケットを脱いでサツカングッズを全て外す。そして京哉と一緒に風邪予防のため洗面所で手洗いとうがいをしたら、ようやく一段落だ。

 早速リビングに赴いた霧島はすぐさまTVを点ける。丁度この時間は国際ニュースをやっているからだ。プラーグから帰国して以来このニュースのチェックが日課となっていた。何もなければいいと願いつつ毎日チェックするのだ。

 だが予想していたより早くトップニュースでプラーグの話題が報じられる。
 一緒に見入っていた京哉がニュース映像のキャプションをそのまま呟きに載せた。

「プラーグの反政府武装勢力を国連平和維持軍が完全制圧……」

 更には今後、国連主導でプラーグにおける砂漠の灌漑事業計画まで立てられていることをニュースは伝えていた。二人して力が抜けたように二人掛けソファに凭れ掛かる。そのソファの背には青系と緑系の砂よけ布を被せていた。霧島は布の端をきつく握り締める。

「あいつらは戦っている……まだ死んではいない、犬死はしないと言っていた!」
「でも完全制圧ってことは、そういうことじゃないんですか?」

「はっきり言って分からん。分からんが私はあいつらの判断に賭ける。生きてこそ成せることもあるのだと告げてきたつもりだ。ただ……ただ、あれだけの犠牲を出す前に、何故その灌漑事業とやらができなかった? この先に居座る某大国人を住み良くするためか?」

 某大国の目論見を成す片棒を担がされた挙げ句にこのニュースだ。悔しさのあまり霧島は歯の隙間から言葉を押し出しロウテーブル上に置いてある砂の花を見つめる。

 次はTVボード上に立てかけたフレームに灰色の目を向けた。フレームにはプラーグの大統領官邸前で京哉が撮った皆の写真をカラープリンタで打ち出した画像を収めてある。
 A4サイズに拡大した写真の人々は零れるような笑顔で、皆の笑い声とアメディオのギターの音さえ聞こえてきそうなほどだった。

 しかしその彼らは今現在、生死すら分からないのだ。おそらく京哉の意見の方がパーセンテージは高く、霧島は己の感情でものを考えているだけなのだろう。

 そのとき京哉の携帯が震えた。スラックスのポケットから出して操作する。

「一ノ瀬本部長経由、科捜研での砂の花の欠片の分析結果が出ました」

 もはや言葉もなく黙り込んだ霧島は京哉にメールの内容を目だけで訊いた。

「うーん、残念ですけど、確かに砂の花に利用価値はないみたいですね」
「宝飾品にするにも脆すぎるらしいしな。本当に何もない国だったということか」

「いえ、そうじゃないかも。【分析の結果、砂の花自体に価値はないが白金族元素他レアメタルに強く反応し、埋蔵を示唆している可能性が大】ですって。白金族ってプラチナ?」
「プラチナに限らず、パラジウムにイリジウムなどの希少金属だ。ここ数年では携帯電話やパソコンのパーツに使用されたりと需要が急激に伸び、価格も高騰して各国が奪い合い状態だな」

 そう答えながら思わず霧島も京哉の携帯を覗き込んでいる。

「レアメタルか。ということは、じつはプラーグは宝の山かも知れない訳か?」
「まあ、そうなるでしょうね」
「では某大国も国連も日本政府の高官たちも、当然それを知っていただろうな」
「そりゃあ、たった五日で科捜研が結論付けたんですから間違いないでしょう」
「ふむ、そうか。やっと全ての疑問が解消した」

 唐突にリモコンでプツリとTVを消した霧島は謎が解けた以上は何もかもに興味を失くしましたといった涼しい顔で立つと、ウィスキーの瓶とカットグラスを持ってきて座り直しストレートで飲み始めた。そんな霧島の隣から京哉も立ち上がる。

「さあて、ご飯作ろうかな。忍さんは先にシャワー浴びてきていいですよ。晩ご飯の献立は新作、カジキマグロのイタリアンソースと大根のホタテサラダですからね」
「旨そうだな、期待しているぞ」
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