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第9話
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チャチな空港施設は砂っぽいブロックを積んだ塀で囲まれている。その切れ目から一歩外に出て二人は思わず立ち止まった。急激な冷気が襲って身を固くしたのだ。
「うーっ、何これ、寒っ!」
「想定外だったな。この寒さは日本の冬並みかも知れん」
「他人事みたいに言って、忍さんは寒くないんですか?」
「だから寒いと言っている。しかし寒い寒いと喚いても暖かくなる訳ではなかろう」
「ったく、鈍い人はいいですよね。早く街に行きたいけどタクシーはないのかな?」
寒さに身を縮めながら京哉は周囲を眺め回した。プレハブ施設の窓明かりと星明かりでぼんやり見える十五メートルほど先の塀の傍に白っぽい車が数台駐まっている。今は文明の証の如く思えるそれに二人で近づくと、まさにそれはタクシーだったが勝手が違った。
「珍しいですね、運転手さんが乗っていませんよ」
「客が自分で運転すると書いてある。十ドル入れて五キロか、なるほど」
「でもどうします、これ?」
少々京哉の腰が引けたのも頷ける。
並んだタクシーは一台として正常な形状をしたものがなかったのだ。塗装は殆どが剥げ、ボディはベコベコに凹んでいる。
内部のシートは海草のように裂けて緩衝材があちこち飛び出していた。それにとんでもない年代物である。
「まともに走るんでしょうか?」
「さあな。カネだけ食って走らなければ、吐き出させるのが難儀だが」
そう応えながらも迷うことを知らない霧島はタクシーを尻目に歩き始めていた。ヒマに飽かせて暗唱できるくらい読み込んだ資料に依れば、街までは歩いてせいぜい四十分程度である。それに足を動かしていれば躰も暖まるだろうと踏んだのだ。
見渡せる範囲内に外灯も殆どなく、遠くにちらほらと見える街の灯りも日本からやってきた二人には頼りないものに思えたが、取り敢えず道はたった一本なので迷子になることはない。ショルダーバッグを肩に掛け直して京哉も小走りで霧島を追った。
外灯はなくても視界はそれほど悪くない。光害がなくて星明かりが見事だったからだ。青白い半月も冴え冴えと光を投げている。並んで歩く二人は足元にできた自分の影を踏み歩を進めた。道の両側に目をやると遠く砂丘が形作るシルエットも浮かんでいる。
お蔭で地面は日干しレンガというのか、砂を押し固めたブロックを隙間なく並べて作られているのも見取った。こんな道では車が走れば割れてしまう、交換作業も大変そうだ、などと二人は喋りつつ砕けた日干しレンガの欠片を蹴り飛ばす。
「でも車なんか全然走ってないですね」
「時間も時間だが、確かに出会わんな」
そんな雑談を続けながら砂の載った広い道路を歩くこと約二十分、初めて走行車両とすれ違った。思っていたより大型の貨物トラックだった。
歩道と車道の境目がはっきりしない地面で二人はトラックに道を譲ったが、巻き上げられ荷台から零れ落ちてきた砂が挨拶代わりで閉口する。
頭から砂を被った霧島と京哉は咳き込み唾を吐き出した。
「ゲホゲホッ! げーっ、口の中がじゃりじゃりですよ」
「ゴホッ、ぺっ! 私もだ、くそう、目に入った。お前は伊達眼鏡か」
「ええ。大丈夫ですか? タクシー使わなかったの、失敗だったかも知れませんね」
「今更だ。それにしてもあのトラック、砂でも積んでいたのか?」
「砂じゃなくて砂の花とやらじゃないんですかね、唯一の輸出品なんですから」
「なるほど。そういえばそんなものもあったな」
大型貨物トラック以外に出会った人工物は道の脇に建てられた小屋だけだった。日干しレンガを積んで造られたそれは人が住めるような大きさではなく窓もない。
一応覗いてみたが、これもベンチ状に積んだ日干しレンガくらいしかない呆気なさで、これが一定距離ごとにポツリ、またポツリと佇んでいる。何のためのものか不明だ。
だが二人はその小屋の使用法を十分も経たぬうちに体得するハメになる――。
「少し風が出てきましたね」
「砂がまた目に……ゴーグルと全身タイツが要るんじゃないか、ここは」
「全身タイツねえ。特別任務なんか辞めて二人でお笑い営業でもしましょうか?」
「ならば私は帰ったら新聞紙でハリセンを作らんといかんな」
「えっ、残念、いえ、天然男は貴方の方なのに僕がボケ?」
「私は実生活でも突っ込む方、そのスタンスはあくまで貫く」
「またそういうことを真顔で。って、何だか風、強くなってきてないですか?」
「喋るとまた口に砂が入って……本気で風が強いな」
口を閉じるべきだと分かっていたが、それでも僅かに湧いた不安から口の減らない二人は文句を垂れ続けた。砂混じりの圧力に対抗するにも風の方向は一定ではない。
「ちょ、これって結構拙くないですかね?」
「砂が痛いぞ……おい、街が見えないんだが」
「何だろ、煙ってますね。それに暗くなって……ってゆうか、この風!」
「京哉お前、薄っぺらいから飛ばされるなよ!」
「冗談に聞こえませんよ! 忍さん、これ、竜巻じゃないんですかね?」
「何でもいい、待避するぞ!」
もはや轟々と唸り吹きすさびだした風に声は殆ど掻き消され、怒鳴り合わないと聞こえない。互いに片手をしっかり握り合うと、十メートルほど先にあった筈の小屋に向かって半ば目を瞑ったまま駆け出した。
何とかレンガ小屋の発見に成功する。壁を撫で回し開口部を見つけると飛び込んで、薄い石で出来た一枚板の引き戸を閉めた。
真っ暗になった一瞬後、二人は携帯のライトで小屋の中を照らした。眼鏡を外した京哉は痛痒い目を擦りたいのを我慢して、真っ先に斜め掛けしていたショルダーバッグの中から目薬を出して差す。何より大事なスナイパーの視力を保つため身に着いた習慣だった。
一方で霧島は構わず目を擦っている。見かねてレンガを積んだベンチに腰掛けさせると同じ目薬で砂を流してやった。眼鏡を掛け直した京哉も霧島の隣に腰掛ける。
「息できなくて死ぬかと思いましたよ。凄い風、小屋が揺れてる」
「砂嵐というヤツか。こうも急にくるとはな」
「いつ収まるんでしょう、ずっとここに缶詰は勘弁ですよね」
「あと少しで街だったのにな。砂が暖かいぞ」
言われて京哉は靴底から伝わるじんわりとした温もりを踏み締めながらドレスシャツのポケットから煙草を出すと一本咥えて引き抜き、オイルライターで火を点けた。
「うわ、ポケットの中まで砂が入り込んでますよ」
探ってみると霧島のスーツのポケットも同様だった。二人でポケットの裏地まで引っ張り出してはたき落とす。俯いて黒髪を掻き回し砂埃を落とした。互いに何となく白っぽい全身をはたき合う。作業が終わるとバッテリ温存で携帯のライトを消した。
「うーっ、何これ、寒っ!」
「想定外だったな。この寒さは日本の冬並みかも知れん」
「他人事みたいに言って、忍さんは寒くないんですか?」
「だから寒いと言っている。しかし寒い寒いと喚いても暖かくなる訳ではなかろう」
「ったく、鈍い人はいいですよね。早く街に行きたいけどタクシーはないのかな?」
寒さに身を縮めながら京哉は周囲を眺め回した。プレハブ施設の窓明かりと星明かりでぼんやり見える十五メートルほど先の塀の傍に白っぽい車が数台駐まっている。今は文明の証の如く思えるそれに二人で近づくと、まさにそれはタクシーだったが勝手が違った。
「珍しいですね、運転手さんが乗っていませんよ」
「客が自分で運転すると書いてある。十ドル入れて五キロか、なるほど」
「でもどうします、これ?」
少々京哉の腰が引けたのも頷ける。
並んだタクシーは一台として正常な形状をしたものがなかったのだ。塗装は殆どが剥げ、ボディはベコベコに凹んでいる。
内部のシートは海草のように裂けて緩衝材があちこち飛び出していた。それにとんでもない年代物である。
「まともに走るんでしょうか?」
「さあな。カネだけ食って走らなければ、吐き出させるのが難儀だが」
そう応えながらも迷うことを知らない霧島はタクシーを尻目に歩き始めていた。ヒマに飽かせて暗唱できるくらい読み込んだ資料に依れば、街までは歩いてせいぜい四十分程度である。それに足を動かしていれば躰も暖まるだろうと踏んだのだ。
見渡せる範囲内に外灯も殆どなく、遠くにちらほらと見える街の灯りも日本からやってきた二人には頼りないものに思えたが、取り敢えず道はたった一本なので迷子になることはない。ショルダーバッグを肩に掛け直して京哉も小走りで霧島を追った。
外灯はなくても視界はそれほど悪くない。光害がなくて星明かりが見事だったからだ。青白い半月も冴え冴えと光を投げている。並んで歩く二人は足元にできた自分の影を踏み歩を進めた。道の両側に目をやると遠く砂丘が形作るシルエットも浮かんでいる。
お蔭で地面は日干しレンガというのか、砂を押し固めたブロックを隙間なく並べて作られているのも見取った。こんな道では車が走れば割れてしまう、交換作業も大変そうだ、などと二人は喋りつつ砕けた日干しレンガの欠片を蹴り飛ばす。
「でも車なんか全然走ってないですね」
「時間も時間だが、確かに出会わんな」
そんな雑談を続けながら砂の載った広い道路を歩くこと約二十分、初めて走行車両とすれ違った。思っていたより大型の貨物トラックだった。
歩道と車道の境目がはっきりしない地面で二人はトラックに道を譲ったが、巻き上げられ荷台から零れ落ちてきた砂が挨拶代わりで閉口する。
頭から砂を被った霧島と京哉は咳き込み唾を吐き出した。
「ゲホゲホッ! げーっ、口の中がじゃりじゃりですよ」
「ゴホッ、ぺっ! 私もだ、くそう、目に入った。お前は伊達眼鏡か」
「ええ。大丈夫ですか? タクシー使わなかったの、失敗だったかも知れませんね」
「今更だ。それにしてもあのトラック、砂でも積んでいたのか?」
「砂じゃなくて砂の花とやらじゃないんですかね、唯一の輸出品なんですから」
「なるほど。そういえばそんなものもあったな」
大型貨物トラック以外に出会った人工物は道の脇に建てられた小屋だけだった。日干しレンガを積んで造られたそれは人が住めるような大きさではなく窓もない。
一応覗いてみたが、これもベンチ状に積んだ日干しレンガくらいしかない呆気なさで、これが一定距離ごとにポツリ、またポツリと佇んでいる。何のためのものか不明だ。
だが二人はその小屋の使用法を十分も経たぬうちに体得するハメになる――。
「少し風が出てきましたね」
「砂がまた目に……ゴーグルと全身タイツが要るんじゃないか、ここは」
「全身タイツねえ。特別任務なんか辞めて二人でお笑い営業でもしましょうか?」
「ならば私は帰ったら新聞紙でハリセンを作らんといかんな」
「えっ、残念、いえ、天然男は貴方の方なのに僕がボケ?」
「私は実生活でも突っ込む方、そのスタンスはあくまで貫く」
「またそういうことを真顔で。って、何だか風、強くなってきてないですか?」
「喋るとまた口に砂が入って……本気で風が強いな」
口を閉じるべきだと分かっていたが、それでも僅かに湧いた不安から口の減らない二人は文句を垂れ続けた。砂混じりの圧力に対抗するにも風の方向は一定ではない。
「ちょ、これって結構拙くないですかね?」
「砂が痛いぞ……おい、街が見えないんだが」
「何だろ、煙ってますね。それに暗くなって……ってゆうか、この風!」
「京哉お前、薄っぺらいから飛ばされるなよ!」
「冗談に聞こえませんよ! 忍さん、これ、竜巻じゃないんですかね?」
「何でもいい、待避するぞ!」
もはや轟々と唸り吹きすさびだした風に声は殆ど掻き消され、怒鳴り合わないと聞こえない。互いに片手をしっかり握り合うと、十メートルほど先にあった筈の小屋に向かって半ば目を瞑ったまま駆け出した。
何とかレンガ小屋の発見に成功する。壁を撫で回し開口部を見つけると飛び込んで、薄い石で出来た一枚板の引き戸を閉めた。
真っ暗になった一瞬後、二人は携帯のライトで小屋の中を照らした。眼鏡を外した京哉は痛痒い目を擦りたいのを我慢して、真っ先に斜め掛けしていたショルダーバッグの中から目薬を出して差す。何より大事なスナイパーの視力を保つため身に着いた習慣だった。
一方で霧島は構わず目を擦っている。見かねてレンガを積んだベンチに腰掛けさせると同じ目薬で砂を流してやった。眼鏡を掛け直した京哉も霧島の隣に腰掛ける。
「息できなくて死ぬかと思いましたよ。凄い風、小屋が揺れてる」
「砂嵐というヤツか。こうも急にくるとはな」
「いつ収まるんでしょう、ずっとここに缶詰は勘弁ですよね」
「あと少しで街だったのにな。砂が暖かいぞ」
言われて京哉は靴底から伝わるじんわりとした温もりを踏み締めながらドレスシャツのポケットから煙草を出すと一本咥えて引き抜き、オイルライターで火を点けた。
「うわ、ポケットの中まで砂が入り込んでますよ」
探ってみると霧島のスーツのポケットも同様だった。二人でポケットの裏地まで引っ張り出してはたき落とす。俯いて黒髪を掻き回し砂埃を落とした。互いに何となく白っぽい全身をはたき合う。作業が終わるとバッテリ温存で携帯のライトを消した。
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