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片思いごっこ
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あれから二週間ほど経ったが、隣人と遭遇することはなかった。まぁ行動パターンの違う職種なのかもしれないし、会社によっても就業時間は異なるだろうし。
兎にも角にもあわよくば偶然顔を合わせないだろうかとどこかで期待している自分に気がついてゲンナリする。
会ったとしてどうするんだ。
ニコニコ挨拶をして、仲良くなって、その後どうにかなりたいとか思っているのか?
中学生でもあるまいし、良い大人が考えることじゃないな。
とは思うものの、夜になれば壁の向こうから聞こえてくる生活音らしきものが気になってしまう。
張り付かないまでも限りなく壁に近くに寄って、水が流れる音や、包丁で何かを切っているような音。テレビの音や、音楽の音。
今まで気にならなかったけれど、案外ここって壁が薄かったんだな。なんて思いながら無意識に隣の音を聞いてしまっている。どうしても意識するのをやめられない。
引っ越ししてきたんだからどこか別の地方とかから上京してきたのかな。そうしたらまだ都会に知り合いも少ないのかもしれない。彼女とかいるのかな。一人暮らしっぽいけど実は田舎から連れてきた女の子と一緒に暮らしていたりして。
だったら少し、悲しい。
毎日あれやこれやと妄想を繰り広げ、その都度なんだか敗北感に打ちひしがれる。
俺、何してるんだろう。
中学高校として来なかった恋愛妄想を今になってやり直しているみたいだ。
ガキかよ。
でもまぁ、結局は妄想止まり。片思いごっこ。
発展することもないし、これはこれで昔よくしていた楽しいおままごとみたいなものだと思えば良い。
今度顔を合わせることがあれば素知らぬ顔をして挨拶をすれば良い。
そんな日々を過ごしていたら、その日は唐突に訪れた。
会社の飲み会に呼ばれ、予定もないしと参加することになったのだが、まぁまぁ大きな会合で驚いた。うちの会社と、姉妹会社のメンツなんかもいるらしい。規模で言うと二十~三十ぐらいだ。居酒屋一軒ほとんど貸し切りみたいな状態だし、飲み会というか宴会という感じだ。
まぁ結局は仲のいい連中と固まって飲むことになるだろうからあまり気にすることはないか。そう思って参加していた。
案の定気の許せない仲間で固まって軽く仕切られた座敷で飲んでいたら、姉妹会社に仲のいい社員がいる同僚がそちらにも声をかける。そしてその仲良しが連れてきたのがあの、今まで申し訳ないような内容の妄想を繰り広げていた隣人だったのだ。
「楽しんでる~? あー、これうちの新人なんだけど、まだ人脈もあんまりないし仲良くしてやってよ~」
「中澤です。よろしくお願いします」
あの時はチラリと見ただけだったが確かにそうだ。そうか中澤という名前なのか。
飲んでいたビールのグラスをがっしりと掴んだまま凝視してしまう。
強面だな。目も切れ長で鋭い。しかも俺よりもガタイが良くて身長も十センチぐらいは高いだろうか。あれ? 俺ってこんなタイプが好みだったっけ。
隣人中澤を見つめていたら全く回っていなかった酔いがどんどん回ってくるような感覚に陥った。静止したまま飲んでもいないのに顔だけがどんどん赤くなっていく。
「どうした~? 星崎。酔っ払ってんの? 珍しいな~」
俺はどちらかというと酒には強い方だ。そんな俺が真っ赤になっていたものだから、すかさず同僚に突っ込まれる。
「酔ってねー」
握り締めていたグラスに残っていたビールをグビグビと飲み干した。
「おっ、勢いいいねー!」
姉妹会社の奴が楽しそうに言った。
「な~」
「っすね」
隣人中澤も淡々と同意する。
え、何この展開。
ん? ってことは隣人中澤は俺の会社の姉妹会社の新入社員なの?
意外な接点に運命を感じそうになってやめた。
おっと危ない危ない。
勘違いしてはいけない。
一人で内心バタバタしていたら、無意識にガバガバと酒を飲み過ぎてしまったらしい。
珍しいことに俺は酒に飲まれてしまっていた。
そして、途中から不覚にも記憶という忘れ物をしてしまったらしい。
兎にも角にもあわよくば偶然顔を合わせないだろうかとどこかで期待している自分に気がついてゲンナリする。
会ったとしてどうするんだ。
ニコニコ挨拶をして、仲良くなって、その後どうにかなりたいとか思っているのか?
中学生でもあるまいし、良い大人が考えることじゃないな。
とは思うものの、夜になれば壁の向こうから聞こえてくる生活音らしきものが気になってしまう。
張り付かないまでも限りなく壁に近くに寄って、水が流れる音や、包丁で何かを切っているような音。テレビの音や、音楽の音。
今まで気にならなかったけれど、案外ここって壁が薄かったんだな。なんて思いながら無意識に隣の音を聞いてしまっている。どうしても意識するのをやめられない。
引っ越ししてきたんだからどこか別の地方とかから上京してきたのかな。そうしたらまだ都会に知り合いも少ないのかもしれない。彼女とかいるのかな。一人暮らしっぽいけど実は田舎から連れてきた女の子と一緒に暮らしていたりして。
だったら少し、悲しい。
毎日あれやこれやと妄想を繰り広げ、その都度なんだか敗北感に打ちひしがれる。
俺、何してるんだろう。
中学高校として来なかった恋愛妄想を今になってやり直しているみたいだ。
ガキかよ。
でもまぁ、結局は妄想止まり。片思いごっこ。
発展することもないし、これはこれで昔よくしていた楽しいおままごとみたいなものだと思えば良い。
今度顔を合わせることがあれば素知らぬ顔をして挨拶をすれば良い。
そんな日々を過ごしていたら、その日は唐突に訪れた。
会社の飲み会に呼ばれ、予定もないしと参加することになったのだが、まぁまぁ大きな会合で驚いた。うちの会社と、姉妹会社のメンツなんかもいるらしい。規模で言うと二十~三十ぐらいだ。居酒屋一軒ほとんど貸し切りみたいな状態だし、飲み会というか宴会という感じだ。
まぁ結局は仲のいい連中と固まって飲むことになるだろうからあまり気にすることはないか。そう思って参加していた。
案の定気の許せない仲間で固まって軽く仕切られた座敷で飲んでいたら、姉妹会社に仲のいい社員がいる同僚がそちらにも声をかける。そしてその仲良しが連れてきたのがあの、今まで申し訳ないような内容の妄想を繰り広げていた隣人だったのだ。
「楽しんでる~? あー、これうちの新人なんだけど、まだ人脈もあんまりないし仲良くしてやってよ~」
「中澤です。よろしくお願いします」
あの時はチラリと見ただけだったが確かにそうだ。そうか中澤という名前なのか。
飲んでいたビールのグラスをがっしりと掴んだまま凝視してしまう。
強面だな。目も切れ長で鋭い。しかも俺よりもガタイが良くて身長も十センチぐらいは高いだろうか。あれ? 俺ってこんなタイプが好みだったっけ。
隣人中澤を見つめていたら全く回っていなかった酔いがどんどん回ってくるような感覚に陥った。静止したまま飲んでもいないのに顔だけがどんどん赤くなっていく。
「どうした~? 星崎。酔っ払ってんの? 珍しいな~」
俺はどちらかというと酒には強い方だ。そんな俺が真っ赤になっていたものだから、すかさず同僚に突っ込まれる。
「酔ってねー」
握り締めていたグラスに残っていたビールをグビグビと飲み干した。
「おっ、勢いいいねー!」
姉妹会社の奴が楽しそうに言った。
「な~」
「っすね」
隣人中澤も淡々と同意する。
え、何この展開。
ん? ってことは隣人中澤は俺の会社の姉妹会社の新入社員なの?
意外な接点に運命を感じそうになってやめた。
おっと危ない危ない。
勘違いしてはいけない。
一人で内心バタバタしていたら、無意識にガバガバと酒を飲み過ぎてしまったらしい。
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そして、途中から不覚にも記憶という忘れ物をしてしまったらしい。
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