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山口テトラ

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2022年 1月1日〜1月3日

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 2022年1月1日 石田家

 世間一般的には今日はとてもめでたい日であるらしい。
 私はそんなめでたい日に外で一人何をしていたのかというと、南洽崎のとある家にあるこたつの中でぬくぬくと暖をとっていた。
 ことの経緯は数時間前に遡るのだが、ここの家の家族は大の猫好きらしく、真冬に公園で寝ていた私を捨て猫と勘違いして拾ったのだ。
 私としては暖まれるし、実際外は寒いと思っていたので歓迎だが、野良猫を拾うとは物好きだ。
 そんな家には四人の人間がいた。私を拾った女の子とその子の歳に近い男の子、最後にこの子達の両親だ。
 四人の足がこたつに侵入してくる。私は必然的にその場の息苦しさにこたつから出てしまう。
「あら、猫ちゃんが出てきたわ!」
 出た途端にあの私を拾った女の子が嬉しそうに声を高めて喜ぶ。これだけで喜んでもらえるのならいくらでもできるのだが。
「あ、ほんとだ!! お姉ちゃん僕にも触らせて!!」
 男の子の方も同じように顔を柔らかくし私の頭を撫でる。
 しかし、喜んでいるのは子供達だけのようだ。男の子が撫でる最中、両親は不潔なものを見るような眼差しを向ける。
 まあ、野良猫で何を引っ付けているのかわからないのに家にあげるなんて不潔この上ないだろう。両親はそう思うだろうが、子供がそこまで理解できるわけもなく、渋々入れたというところだろう。
「ほどほどにしなさよ……」

  1月2日 東洽崎のどこかの202号室

 私はとあるマンションのベランダにいたんだ。
 そこは他の部屋と同じ姿形をしているはずなのに、なぜか異様な雰囲気を放っていたんだ。
 私がこの部屋に好奇心を感じたのはそんな異様な空気のせいなのだろう。これは昔から好奇心を優先してしまう悪い癖のせいだ。
「……誰だ?」
 足音が聞こえたのかその家の主人はカーテンを開き、ドアを開けると静かにそういう。
 でも不思議と怯えている様子はなかったんだ。それはその手に握られたものが全てを物語っていた。包丁……私でもそのものがどういうことに使われているのか知っている。彼はベランダの足音を聞き瞬時に思考を巡らせ殺してやろうと包丁を握り、やってきたのだ。
 でも彼は足音の存在が猫であると知ると包丁を背中の方へと隠した。
「なんだ……猫か……どうしたんだ? 迷子か?」
 いつの間にか包丁はどこかへ消えて、両手で私を持ち上げる。
「かわいいな。お前」
 
 1月3日 能力者支援センター北洽崎支部

 私に一日の楽しみはここにやってくる能力者たちを観察することだ。
 私はこの北洽崎支部のゆるキャラ兼飼育されている猫である。
 2022年、ついにこの洽崎に根付いていた能力者たちに対する問題を解決するサービスが実施され、能力者と人間が分け隔てなく生活していける社会を目指し日進月歩している最中である。
 今日も今日とて能力者は大勢やってくる。
 私がその中で目をつけたのは一際目立たず、ウジウジとしている女性だった。
 帽子を深く被り、長い髪を雑に一本に束ねている。上着だけ灰色のパーカーで下はロングスカートとファッションのかけらもない、見るだけで生活感のない人間だった。
「あの……」
 彼女は数十分ウジウジといたあと相談員の男性に勇気を振り絞り話しかける。
 男性は丁寧に彼女を窓口の方まで誘導する。
 私も興味を惹かれ、彼女たちの机の上に登る。
「猫……ですか?」
 女性の方は少し驚いたがすぐに顔を綻ばせる。相談員の男性は優しく彼女に接する。
「こいつはうちのマスコットキャラクターの“あまね”といいます。かわいいですよね」
 彼女は私を撫でながらすっかり緊張の紐も解けたのか、すっかり落ち着いた様子だった。
 さて、というと男性は説明を始めるためにファイルから数枚の紙を出し、記入する箇所を彼女に説明する。
「遅れました。私は石田巴(イシダ トモエ)といいます。これからよろしくお願いします」
「はい……よろしくお願いします…………“これから“って……」
「能力者の方一人に相談員が一人つくのが鉄則なんです。これから相談があったり手続きがしたいときは石田巴の名前を出してもらえれば大丈夫です。まだ経験が浅く頼りにならない場面があるかもしれませんが、ご期待に応えれるように頑張るつもりです」
 女性の方は照れ臭いのか中々目を合わさずにキツツキのように何回も頷く。
「村井啓子(ムライ ケイコ)さんですね。今回はどのようなご用件で?」
 ケイコはまだ照れ臭そうに要件を中々言わない。でもトモエの方は急かすことなく彼女が喋るのを待つ。
「あの……能力者手帳の発行をしたくて……」
「なるほど、わかりました」
 能力者手帳というのは能力者が支援しているサービスや特典を得るために必須なもので、能力者全員に配られたはずだった。彼女はここ最近能力が発覚した……ということなのだろう。
「まず能力者はその能力に応じてランクをつける必要があります。差し支えなければ能力をなるべく詳しく教えてくれませんか?」
 またキツツキのように頷く。
 トモエはメモするために胸ポケットから黒のボールペンを取ると彼女がいうのを待つ。
「あの……私の能力は…………」
 この後、私とトモエは全く同じリアクションをすることとなった。それは彼女の能力があまりにもなんとも言えない内容だったからであり、反応に困ったからである。

「私の能力は………色をどこにでも塗ることができる……ことです…………」
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