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2022年 1月3日〜1月5日
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2022年 1月3日 能力者支援センター 北洽崎支部
「ええ……Dランクって最低保証じゃないですかっ!!」
きっとケイコは生まれて初めてこれほど起きな声をあげたのだろう、口を抑えむせ始める。
でもトモエも私も分かっていたし、これは仕方のないことなのだ。トモエは会社の指標に合わせてランクづけをしただけにすぎない。ここで不正を働けばトモエもケイコも警察行きだ。
「すみません、なんとか尽力したつもりなんですが……ケイコさんのランクは今のところDです」
なんとか机を叩きたい気持ちを抑えながらむせるのも抑えるケイコ。なんとも申し訳ないという顔をしながら心の中ではDランクでも仕方ないと考えるトモエ。二人は私を挟みながらなんとも気まづい空気を作っていた。
「私……これからどうすれば…………」
なんとかケイコが発した言葉はなんとも切ない助けを求めるような声だった。
流石にトモエも良心が働き、彼女に最低限接しようとする。
「Dランクでも保証はつきますから……まだこの洽崎には保証すらもらえない能力者の方は大勢いますから……」
「その人たちってどんな能力なんですか……」
トモエは先輩たちが昼食の時にバカにしていた能力者たちのことを思い出す。
「シールを跡も残さず剥がせる能力……指の関節を増やせる能力……とか」
「ああ…………」
ケイコは、確かにその人たちに比べたら自分の能力は厄介か、と考えた。
「ケイコさんはそんなに生活に困っているんですか? そうは見えないんですけど……」
確かにケイコは服装は変だが、あまり生活に困っているというふうには見えなかった。
さっき撫でられた時に服や体から良い匂いがしたから私もトモエの意見と同じだった。
「それが……生活の方は問題ないんですけど……この前インスピレーションを求めて喫茶店に行って構想を練っていた時に“ある色“を思い浮かべたんです……そしたら店やそこにいた人たちにその色を塗ってしまっていたんです」
「それは……あなたの能力は自分の頭に思い浮かべた色を周りに塗ってしまうってことですか?」
うんと頷く。
トモエは興味深そうにメモをする。
「私突然のことで全然対応の仕方がわからなくて……店長さんから怒られて、保証にも入ってなかったから請求も自分で全額出さないといけないって……」
トモエはそうだったのかと頭を抱えた。保証に入っていれば能力者の事故は負担されるのだが、ケイコの能力開花はその時が初めてだったのだろう。保証も入っていないケイコは全額を払えず保証を受けるために能力者手帳を発行しにきたが自分が最低保証ランクのDであった、ということか。
「私このままじゃ……どうしよう……」
だが、ここで聞いたことが事実なら能力者支援センターでどうにか手は打てる。トモエはそのことを思い出し、顔を上げる。
「ケイコさん。それなら……なんとかなりそうです」
1月3日 202号室
なんとか殺されることなく彼の部屋に入ることになったが、これからどうしようか。
「猫って何食うのかな……おい、お前何食うんだ?」
私は彼を見つめた。
彼は冷蔵庫の中をガサガサと漁る。
「話せたら苦労しないよな……あ、ソーセージ」
ソーセージを冷蔵庫から取り出すのと同時に何かが床に落ちた。
「おっといけね」
遠くからでもその床に落ちた何かはハッキリと分かった。
私はゆっくりと拾い上げられたそれを眺める。この人間はなぜ冷蔵庫にそんなものを入れていたのだろうか。
「なんだ、お前わかるのか?」
それは……人間の手だった。
1月5日 北洽崎市 スクランブル交差点
ここは北洽崎市の中央にあり大勢の人間が行き交う、住民の生活には欠かせない重要な道だ。でもこれだけの人間が行き交うなら変なことをする人間も必然的に集まってしまう。
今日は偶然にもケイコがいた。しかしどうにも落ち着かない様子だ。
そんなケイコをよそに、大きな声をあげながら演説をしている宗教団体がいたんだ。
「はるか昔、かの予言者は地球が滅ぶことを知っていたのだ……世界が終わる日は近い…………今人間が変わらなければ世界は終わってしまうぞ……私たちは屈しない、どのような苦難が降り注ごうとも私たちの神は私たちを守ってくださる。だから屈しない、祈り続けるのだ」
彼らは必死だけど、誰も彼らの声を聞こうと止まる人間は一人もいないんだね。
突然世界が終わると言われても誰も信じないだろうし、胡散臭くて聞きもしないんだろうね。
「ええ……Dランクって最低保証じゃないですかっ!!」
きっとケイコは生まれて初めてこれほど起きな声をあげたのだろう、口を抑えむせ始める。
でもトモエも私も分かっていたし、これは仕方のないことなのだ。トモエは会社の指標に合わせてランクづけをしただけにすぎない。ここで不正を働けばトモエもケイコも警察行きだ。
「すみません、なんとか尽力したつもりなんですが……ケイコさんのランクは今のところDです」
なんとか机を叩きたい気持ちを抑えながらむせるのも抑えるケイコ。なんとも申し訳ないという顔をしながら心の中ではDランクでも仕方ないと考えるトモエ。二人は私を挟みながらなんとも気まづい空気を作っていた。
「私……これからどうすれば…………」
なんとかケイコが発した言葉はなんとも切ない助けを求めるような声だった。
流石にトモエも良心が働き、彼女に最低限接しようとする。
「Dランクでも保証はつきますから……まだこの洽崎には保証すらもらえない能力者の方は大勢いますから……」
「その人たちってどんな能力なんですか……」
トモエは先輩たちが昼食の時にバカにしていた能力者たちのことを思い出す。
「シールを跡も残さず剥がせる能力……指の関節を増やせる能力……とか」
「ああ…………」
ケイコは、確かにその人たちに比べたら自分の能力は厄介か、と考えた。
「ケイコさんはそんなに生活に困っているんですか? そうは見えないんですけど……」
確かにケイコは服装は変だが、あまり生活に困っているというふうには見えなかった。
さっき撫でられた時に服や体から良い匂いがしたから私もトモエの意見と同じだった。
「それが……生活の方は問題ないんですけど……この前インスピレーションを求めて喫茶店に行って構想を練っていた時に“ある色“を思い浮かべたんです……そしたら店やそこにいた人たちにその色を塗ってしまっていたんです」
「それは……あなたの能力は自分の頭に思い浮かべた色を周りに塗ってしまうってことですか?」
うんと頷く。
トモエは興味深そうにメモをする。
「私突然のことで全然対応の仕方がわからなくて……店長さんから怒られて、保証にも入ってなかったから請求も自分で全額出さないといけないって……」
トモエはそうだったのかと頭を抱えた。保証に入っていれば能力者の事故は負担されるのだが、ケイコの能力開花はその時が初めてだったのだろう。保証も入っていないケイコは全額を払えず保証を受けるために能力者手帳を発行しにきたが自分が最低保証ランクのDであった、ということか。
「私このままじゃ……どうしよう……」
だが、ここで聞いたことが事実なら能力者支援センターでどうにか手は打てる。トモエはそのことを思い出し、顔を上げる。
「ケイコさん。それなら……なんとかなりそうです」
1月3日 202号室
なんとか殺されることなく彼の部屋に入ることになったが、これからどうしようか。
「猫って何食うのかな……おい、お前何食うんだ?」
私は彼を見つめた。
彼は冷蔵庫の中をガサガサと漁る。
「話せたら苦労しないよな……あ、ソーセージ」
ソーセージを冷蔵庫から取り出すのと同時に何かが床に落ちた。
「おっといけね」
遠くからでもその床に落ちた何かはハッキリと分かった。
私はゆっくりと拾い上げられたそれを眺める。この人間はなぜ冷蔵庫にそんなものを入れていたのだろうか。
「なんだ、お前わかるのか?」
それは……人間の手だった。
1月5日 北洽崎市 スクランブル交差点
ここは北洽崎市の中央にあり大勢の人間が行き交う、住民の生活には欠かせない重要な道だ。でもこれだけの人間が行き交うなら変なことをする人間も必然的に集まってしまう。
今日は偶然にもケイコがいた。しかしどうにも落ち着かない様子だ。
そんなケイコをよそに、大きな声をあげながら演説をしている宗教団体がいたんだ。
「はるか昔、かの予言者は地球が滅ぶことを知っていたのだ……世界が終わる日は近い…………今人間が変わらなければ世界は終わってしまうぞ……私たちは屈しない、どのような苦難が降り注ごうとも私たちの神は私たちを守ってくださる。だから屈しない、祈り続けるのだ」
彼らは必死だけど、誰も彼らの声を聞こうと止まる人間は一人もいないんだね。
突然世界が終わると言われても誰も信じないだろうし、胡散臭くて聞きもしないんだろうね。
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