狐小路食堂 ~狐耳少女の千年レシピ~

無才乙三

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第壱皿目 油揚げの袋焼き

【本日の仕込み】鰹の角煮と油揚げの袋焼き

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 狐小路食堂の朝は早い。

 朝陽の昇らぬうちに市場へ買い出しに行き、帰宅するとすぐにその日の仕込みを開始する。本日の仕込みは人気の先付の一つ、鰹の角煮。そしてこの店おすすめの一品、油揚げの袋焼きである。

「よーしっ、まずは鰹の角煮を~」

 なんともなしに呟いた少女はコンロでお湯を沸かすと、市場で仕入れた活きのいい鰹を手に取り、手際良く捌いていく。流れるような動きで包丁を巧みに操り、柵取さくどりをしてから一口大のぶつ切りにし、ざるに乗せ、それを熱湯の中へとくぐらせる。そしてすぐさま氷を入れた冷水へと沈める。これはしも降りという技法で、加熱をする事で表面が白っぽくなり、まるで霜が降りたように見える事からこのように名づけられたらしい。どちらかというと霜降りよりは、湯引きという名の方が馴染み深いだろうか。

 それから日本酒、砂糖、濃口醤油で甘めにしたタレで霜降りしたカツオを三十分ほど炊く。水ではなく日本酒を使うのは少女のこだわりで、水を入れない事により日持ちするようにしているらしい。

「……後は煮汁が少なくなって照りが出てきたら完成っと」

 一度調理器具を綺麗に洗ってから、湯を沸かし、再び作業に取り掛かる。お次はこの店のお薦め品である油揚げの袋焼きの仕込みである。
 まずは油揚げの中に詰める具材だ。九条ねぎは小口切りに、玉ねぎは横にし、繊維を切るようにして極薄切りにする。こうすることによって柔らかく噛みきりやすくもなる上に、玉ねぎ本来の甘みも出る。お次はキノコだ。エノキとシメジは石づきを取り、手でほぐしてから両端を揃え、一センチ角に切り刻んでいく。

「それからこの明太子を……」

 福岡県産の明太子を取り出し、皮を綺麗に剥いでからほぐし、ボウルに入れた具材と共に混ぜ合わせていく。もちろんこれを忘れてはいけない。密閉された瓶に入っていた塩をひとつまみ。塩に含まれるミネラルが素材本来の味を引き出す為に活躍してくれるのだ。これを入れなければ味が締まる事はないと言っても過言ではないだろう。

 お湯が沸いたところで並べた油揚げに熱湯をかけ、油抜きをし、半分に切る。それから具材を無理なく詰め、口を楊枝で止める。
 これで仕込みは完了だ。
 油揚げの提供の際は表面に塩を軽く振り、直火で焼き目を付けるだけだ。これでお客様を待たすことなく熱々の料理を召し上がって貰える。狐耳の少女はお客様が美味しく召し上がってくれる顔を想像しながら、今日の分の仕込みを終えた。

 まだ誰もいないL字のカウンター八席を見て、気合を入れるように呟く。

「よし、開店だっ」

 お客様の笑顔を見るため、狐の少女はお店を開けます。
 さて今日はどんなお客様がお見えになるのかな?
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