狐小路食堂 ~狐耳少女の千年レシピ~

無才乙三

文字の大きさ
6 / 9
第参皿目 ポテトサラダ

【本日の仕込み】ポテトサラダ

しおりを挟む
 カチリと音を立ててつまみを捻ると、火が上がる。
 中火に調節したそのコンロの上にフライパンを乗せ熱してから、オリーブオイルを円を描くように注いでいく。

「よし、こんな感じで……」

 手に取ったのはあらかじめ、切り身にしておいた綺麗な朱色をした鮭である。

 フライパンに乗せるとジュワァという油の弾ける心地よい音が厨房に響いた。
 片面が焼けたのを確認し、フライ返しで裏返す。甘塩で熟成されたその紅鮭の身から滴り落ちる脂が、脂のりの良さを改めて実感させてくれる。

 両面がこんがり焼かれたその鮭をフライパンから取り出し、皮と骨を取り除き、丁寧に身をほぐしていく。そう、今焼いた鮭は本日これから来店される予定の常連、熊吾郎の為にいつもお出ししているポテトサラダに使う鮭である。

 鮭をほぐし終わったら、別のコンロで皮ごと茹でていた小ぶりのじゃが芋の皮を剥き、薄く切り、冷ましておく。

 玉ねぎは極薄切りにして十五分程度、水にさらしておき、時間が経ったら水気を切る。玉ねぎは辛味が少なく甘みが強い淡路島産のものを使っているのでインカのめざめの甘さを決して壊さない。

 そしてこの後はマヨネーズ作りである。
 まずボウルに卵黄を二個投入。そこに小さじ一杯の水と白ワインビネガーを大さじ一杯入れる。それからサラダオイルを少しづつ垂らしながら、泡立て器ホイッパー撹拌かくはん。塩と胡椒で味を調えて完成だ。油はオリーブオイルを使いたいところだが、オリーブオイルに含まれる物質と卵黄の乳化成分が喧嘩をし、分離してしまうのでこれは避けておく。

 ゆで卵はたっぷりめのお湯に生卵と塩を入れ、強火で加熱。沸騰したら八分ほど弱火で火にかける。
 出来上がったら、これら全てを混ぜ合わせ、最後に味を調え、仕込みは完了だ。

「よし、こんな感じかな……」

 また今宵も熊吾郎に酒を付き合わされるのだろうな、と凛は考えながら出来上がったばかりのポテトサラダをスプーンで掬い取り、口へと運ぶ。その瞬間。一口食べただけで分かる、芋独特のコクのある甘みと鮭の塩気が口いっぱいに広がった。

「ふふっ」

 それから嬉しく思っているような、困っているかのような、そんな苦笑めいた表情を浮かべ、他の仕込みに取り掛かる凛なのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。 だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。 蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。 実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。

【完結】元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ギルド受付嬢の佐倉レナ、外見はちょっと美人。仕事ぶりは真面目でテキパキ。そんなどこにでもいる女性。 でも実はその正体、数年前まで“災厄クラス”とまで噂された元Sランク冒険者。 今は戦わない。名乗らない。ひっそり事務仕事に徹してる。 なぜって、もう十分なんです。命がけで世界を救った報酬は、“おひとりさま晩酌”の幸福。 今日も定時で仕事を終え、路地裏の飯処〈モンス飯亭〉へ直行。 絶品まかないメシとよく冷えた一杯で、心と体をリセットする時間。 それが、いまのレナの“最強スタイル”。 誰にも気を使わない、誰も邪魔しない。 そんなおひとりさまグルメライフ、ここに開幕。

煙草屋さんと小説家

男鹿七海
キャラ文芸
※プラトニックな関係のBL要素を含む日常ものです。 商店街の片隅にある小さな煙草屋を営む霧弥。日々の暮らしは静かで穏やかだが、幼馴染であり売れっ子作家の龍二が店を訪れるたびに、心の奥はざわめく。幼馴染としてでも、客としてでもない――その存在は、言葉にできないほど特別だ。 ある日、龍二の周囲に仕事仲間の女性が現れ、霧弥は初めて嫉妬を自覚する。自分の感情を否定しようとしても、触れた手の温もりや視線の距離が、心を正直にさせる。日常の中で少しずつ近づく二人の距離は、言葉ではなく、ささやかな仕草や沈黙に宿る。 そして夜――霧弥の小さな煙草屋で、龍二は初めて自分の想いを口にし、霧弥は返事として告白する。互いの手の温もりと目の奥の真剣さが、これまで言葉にできなかった気持ちを伝える瞬間。静かな日常の向こうに、確かな愛が芽吹く。 小さな煙草屋に灯る、柔らかく温かな恋の物語。

『後宮薬師は名を持たない』

由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。 帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。 救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。 後宮が燃え、名を失ってもなお―― 彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。

白苑後宮の薬膳女官

絹乃
キャラ文芸
白苑(はくえん)後宮には、先代の薬膳女官が侍女に毒を盛ったという疑惑が今も残っていた。先代は瑞雪(ルイシュエ)の叔母である。叔母の濡れ衣を晴らすため、瑞雪は偽名を使い新たな薬膳女官として働いていた。 ある日、幼帝は瑞雪に勅命を下した。「病弱な皇后候補の少女を薬膳で救え」と。瑞雪の相棒となるのは、幼帝の護衛である寡黙な武官、星宇(シンユィ)。だが、元気を取り戻しはじめた少女が毒に倒れる。再び薬膳女官への疑いが向けられる中、瑞雪は星宇の揺るぎない信頼を支えに、後宮に渦巻く陰謀へ踏み込んでいく。 薬膳と毒が導く真相、叔母にかけられた冤罪の影。 静かに心を近づける薬膳女官と武官が紡ぐ、後宮ミステリー。

処理中です...