【完結】リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と底辺兵士と共に、最低最悪のシナリオを書き換える〜

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第四章 最高の結末

108.仲間の生死不明

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 108.仲間の生死不明

「嘘でしょう? そんなことって」
 私は震えながらつぶやき、母を見つめた。

 私の母は”ローマンエヤール公爵夫人”という立場にありながら
 常にわが公爵家の”副将”として振舞ふるまうことが多く
 滅多なことで感情を見せたりしない。

 その母が、片手で三通の書簡を握りつぶし、
 悲痛な面持ちで私を見つめているのだ。
 後ろに立つ、母の腹心たちも重々しい空気を漂わせている。

 私は立っていられず、その場に座り込む。
 私に長く仕えてくれている侍女たちが大慌てで駆け寄り
 体を支えてくれるが、どうしても力が入らなかった。

 フィオナ、ジェラルド、そしてレオナルド。
 ……三人ともが全員、”生死不明”だなんて。

 ************

 父が”王命”を伝えに来たあの日、皆と別れてから
 私は毎日王宮へと赴き、王族の警護にあたっている。

 最初は王族側は”泊りがけて守れ”という要求をしてきたが
 ”24時間気を張り詰めているのは非効率的であり
 結局は警備がおろそかになる”、と父が断ったのだ。

「御身の安全が最優先です。
 最善の策を取らねばなりません」
 そう言う父に、王妃は苦々し気に言い捨てたそうだ。
「では夜間に休息を取る時間以外は、全て王宮に待機させなさい」

 私を徹底的に王族に縛り付けることで、
 レオナルドやローマンエヤール公爵に対し牽制しているのだろう。
 要は、人質のようなものだ。

 だから暗殺に適した時間帯である”夕方から早朝”までの間、
 私は王宮で過ごさなくてはならなかった。
 国王が完全な魔属性であることや、
 王妃が怪しげな光魔法を駆使している明確な証拠をつかむまでは
 彼らに反旗をひるがえすことはできないのだ。

 国王は病に臥せっており、部屋から絶対に出てこない。
 王妃が未知の光魔法”大光明トータルステロウ”で
 レオナルドの居る場所を攻撃したことにより、結果的に
 ”絶対にレオナルドを傷つけないし、家臣にも傷つけさせない”
 という国王の”神に対する宣誓”を背いた結果なのだろう。

 国王が瀕死、下手をすれば死んでしまうことを知りながらも
 王妃はレオナルドを攻撃したのだ。
 本当に彼女は、自分の目的のためなら手段を問わない人間だ。

 しかしそのため、王妃は王の代わりの責務で忙しく、
 最初に私が警護のために到着した時、
 出迎えたのは王太子カーロスだった。

 驚いたことに王太子は、
 第二王子暗殺事件の主犯だと発表されているにもかかわらず
 牢に入れられるどころか、謹慎さえ命じられてはいないのだった。

 つまりあの報は、各国に対する臨時処置だったのだろう。
 そのうち罪をレオナルドになすりつけるまでの。

 王太子は頬骨ほおぼねが目立つえらの張った顔にニヤついた笑みを浮かべ
 三白眼の吊り上がった目でジットリとした視線を送ってくる。

 そしてカーテシーで控える私の前に進むと、
 腕を組んだまま偉そうに言い放つ。
「……やっと来たか、遅いぞ。
 王命に遅れるなぞ不敬も良いところだ。
 お前は魔力しか能がないんだろ? 許してやるからさっさと」

「御身を守れ、というご命令でしたが、
 私のように魔力しか能がない女でよろしいのでしょうか?
 男性であり、王族としても魔力をお持ちの王太子様を
 女の身でどれだけお守り出来るか判りかねますが、
 精一杯務めを果たさせていただきますわ」

 私の言葉に、王太子はムッとして顔を赤くし
 周囲の者は苦笑しながら視線を逸らした。

 元・世界で言えばジェンダーうんぬんに触れるのだろうけど
 この古代中世に似た異世界においては、
 女に”自分を守れ!”などと言う男など絶対にあり得ないのだ。

 王太子は必死で言い訳のようにブツブツ言った。
「い、いないよりマシだろうと呼んだのだ。
 お前の魔力を使えばそれなりに役立つだろうから」
「つまり私の魔力がお望み、ということでよろしいですわね?」
「それ以外に何があるっ!」
 ムキになって叫ぶ彼に、私は微笑んで告げた。

「では私の魔力を集中し、外敵からの侵入を精査スキャニングします。
 また王妃様や王太子様の居住区域にシールドを張らせていただきますわ」
「おう、そうしろ。では、俺の部屋へと案内……」
 彼がバカげたことを言い終わらないうちに、
 私は連れて来た侍従に命じた。
 彼らが運んできたのは、成形すればドーム型になる大型のテントだった。

「スキャニングも防御バリアも屋外では出来ません。
 これを城の一番高い場所に設置し、その中で行います」
 目を白黒させる彼は、眉をひそめつつもうなずく。

「では、さっそく。……失礼いたします」
 私たちが移動を始めると、王太子が付いてくる。
 そして屋上にドーム型のテントが出来上がると
 私に続いて入ってこようとするではないか。

 私は振り返り、厳しい声でそれを制した。
「これは魔術に集中するため、単独で入るものです」
「中を見るくらい良いではないか!」

 口を尖らせる彼を、私はにらみつけて返す。
「こうしている間も敵に侵入を許し、
 国王と王妃の身に危険が迫っているかもしれません!
 王太子様も軽率な行動は控え、
 安全を第一に行動してくださるようお願いいたします……では」

 そうしてドームの中に入り扉に鍵を閉め、私はフウッと息をついた。
 王太子はしばらく外に立っていたが、
 公爵家の侍従たちに”警備の障害になります”と
 ここから離れるように促され、しぶしぶ去って行ったようだ。

 私はとりあえず、闇魔法で広い範囲にシールドをかける。
 宮中の貴族が歓声をあげているのが聞こえてきた。

 次に上空に飛んでいた小型の魔獣が落下するのを見て、
 私のスキャニングが”効いている”事を気付かせる。

 のことなら、私にとってはたいした労力を要さないけど
 他の人にとっては大変な魔力の行使に思えるだろう。
 もちろんここにずっといるつもりもない。
 時々外へ抜け出し、王宮の様子を探るのも忘れなかった。

 あとは、明け方になったらフラフラのふりをして帰宅するだけだ。
 ドームから出て来た私に、王太子が何か声をかける前に
 侍従たちが私の体調を案じて急遽担架に乗せるため、
 彼と全く接することがなく無難に過ごせていた。

 気がかりだったのは、緑板スマホで通話が出来なくなったことだ。
 レオナルドのスペード、ジェラルドのクラブ、
 フィオナのダイヤのマークが消えてしまったのだ。

 ”みんなが戻ってくるのを待つしかない”
 ……そう思っていたのに。

 ************

 その日、城から戻った私を待っていたのは、
 明らかに様子がおかしい侍従や侍女と
 見たこと無いほど焦燥している母の姿だった。

「エリザベート、単刀直入に言う。
 三人の消息が現在不明となっている」

 私は最初、それを深い意味としてとらえていなかった。
「どこにいるか分からない、ということでしょうか」
 そんな私の問いに、母は眉をしかめ唇をかみしめた。

 私は母が書簡を手に持っており
 それが強く握りつぶされていることに気付く……まさか。

「元聖女フィオナは、処刑されるはずだった元聖女べリアを救出。
 しかし聖騎士団と戦闘となり建物は激しく崩壊。
 状況的に生き埋めになっている可能性が高い、との報告があった」
 私はショックで両手で口を塞いだ。フィオナ!

 血の気が引いた私に、母が悲し気に言う。
「べリアを救出できたのはこちら側にとって大変有利なことだ。
 他国の教会が踏み込む理由にもできる」
 それでも、フィオナは……。

 後ろに立っていた兵が、動揺した様子でこちらを見ている。
 母は彼にうなずき、私に向きなおって続けた。
「ジェラルドは……聖騎士団と戦闘となり……
 深い谷底に転落したそうだ」
「なんですって!」

 私は思わず悲鳴をあげた。目に涙が浮かんでくる。
 彼はとんでもなく優秀な剣士だ。でも、魔力は無い。
 高い場所からの転落に耐えられる可能性は低いのだ。

 それでも母は私から目を離さずに言う。
「そして、エリザベート。理性を保ち、聞きなさい」
いやっ!」
 私は母がこれから告げることを察して、思わず拒否してしまう。
 嫌……というより無理だった。

 握りつぶされた三通の書簡。
 残された最後の一人は。
 オリジナル・エリザベートも転移した私にとっても大切な人。

「レオナルド殿下が大魔獣ファヴニールを倒した。
 しかし戦いは相打ちとなり……
 殿下もファヴニールの黒炎に飲み込まれたそうだ」
 それを聞き、私は目の前が真っ暗になり座り込んでしまう。

 ファヴニールの黒炎。
 それはかの大魔獣が吐き出す、
 高熱と猛毒を持つと言われる赤黒い炎だ。
 渦を巻きつつ放たれるため、一度狙われたら確実に巻き込まれ
 その毒素と高温により遺体も残らない、と恐れられている。

 その黒炎に彼が巻き込まれたというのなら……
 それは生死不明などではなく。

 私は緑板スマホを取り出し、じっと見つめた。
 その”画面”にはやはり何も出ていない。
 文字も、スペードやダイヤ、クローバーのアイコンも。

 じっと見つめる私の頬に、涙が流れ落ちる。
「……それは、お守りか?」
 控えめに母が私に尋ねてくる。母や侍女たちには、
 私がエメラルドの板を見つめているように見えるだろう。

 私は何と答えて良いか分からず困惑したが。
「ええ。私たち4人を繋いでくれる、お守りですわ」
 そうだ。緑板スマホは知識や情報を得るためだけのものじゃない。

 元世界だってそうだ。
 昔では考えられないくらい、
 ”いつでも”、”どこでも”、
 誰かと繋がることが出来る、人々の”お守り”なのだ。

 いったんは崩れ落ちたが、
 私は侍女の手を借りずに独りで立ち上がる。
 そしてまっすぐに母を見返し、告げたのだ。
「……私は任務を続けます。王妃が動く可能性がありますから。
 彼らを見張らなくてはなりません」

 母は頷き、私に言ったのだ。
「そうだ、エリザベート。
 全てはこの時のための学びであり、鍛錬だ。
 有事ゆうじの際に生かせぬようでは、全ての苦労が無駄になる」

 私は唇を引き締め、母に一礼する。
「三人の救助、捜索と情報収集はお任せします」
 母は一瞬の間を置いた後、うなずく。

 レオナルドを探しに飛んでいきたい気持ちはもちろん強い。
 でもそれではいけない。
 レオナルドは統治者であり、私は彼の婚約者だ。
 その配偶者となる者として、彼の身に何か起こった時には、
 代わりに彼の意思を継がねばならないのだ。

 万が一のことがあろうと、私独りでもやり遂げよう。

 この異世界に転移した当初は、
 オリジナルたちの境遇を少しでもまともなものにしようと思っていた。

 でも今は違う。この世界の問題は私たちの問題。
 だからこの国を救うと、私たちは決めたのだ。

 たとえ全てが終わった後、元世界の意識が消え去ったとしても。
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