【完結】吉祥天姫~地味な無能と馬鹿にしてますが実は完全無敵のラッキーガールです。悪意は全部跳ね返し最強のイケメンに溺愛されてます~

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第二章

58 待ち受ける罠

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「皆さま、ご無事でのお戻り嬉しく思います。
 それに……早く帰ってきてくださったこと
 本当に感謝いたします」

 丞相じょうしょうの御殿に向かう馬車の中、
 アイレンが改めてみんなをねぎらった。

「別に予定通りだ。気にする事はない」
 笑みを浮かべてレイオウが答え、
 クーカイもうなずいて言う。
天命師たちあ奴らの思惑を阻止してやりたかったしな」

 天命師は四天王家の実力に難癖をつけた。
 それがどれだけ失礼で愚かなことか
 思い知らせてやりたかったのだ。

「そうよ、あんなの楽勝だったわ。
 すぐに戻って、髪を巻く時間があったもの」
 アヤハも軽い調子で笑うが、
 アイレンは首を横に振って言う。

「どのような敵であろうと、討伐は命がけです。
 そして用いる技の全てが、
 皆さまが心身を削って得たものですわ。
 感謝と敬意をおくらずにはいられません」

 どんなに簡単な仕事だろうと、
 やってもらって当たり前、などということはない。
 易々と出来るからと言って、
 頼むには本来、必ず対価が必要だ。

 髪結い師に向かって
 ”お前は得意なんだから、すぐに無料でやれ”
 などと言おうものなら一蹴されるだろう。

 クーカイは目を細め、アヤハは嬉しそうに笑った。
 どんな時にも真っ当に考えるアイレンを
 心から好ましく思ったのだ。

 しかし。さらにアイレンは驚くことを言ったのだ。

「あの妖魔を切り裂き燃え尽くす技も、
 雷光によって殲滅するじゅつ
 巨大な魔猿を一刀でほふるおちから
 全て、一朝一夕で得られるものではありませんわ」

「ええっ?」
「何故だ?」
 クーカイとアヤハは思わず身を乗り出した。

 まだ報告すらしていない今朝の出来事を
 ずっと自宅にいたアイレンが
 なぜ、詳細に知っているのだ?


 ーーーーーーーーーーーー

「天満院 愛蓮アイレンさま。
 お待ちしておりました」
 歓迎とは程遠い、固く冷たい態度で
 丞相じょうしょう家の侍従長が出迎えた。

「中にお入りになれるのはアイレン様のみです。
 他の方は待機所でお待ちください」
 着いて来たアイレンの侍女たちに
 ニコリともせず言い放ったのだ。

「ほお、俺たちにもそこで待て、と?」
 レイオウが睨みつけながら言うと、
 侍従長は慌てて手を振りながら
「いえいえ!四天王家の皆さまには
 別におもてなしをさせていただきたい、と
 席をご用意させていただきました」

 自分たちが間に合ってしまった時のために
 丞相じょうしょうはちゃんと策を練っておいたのだ。

 レイオウはそれを鼻で笑う。
 ”すでに吉祥天を名乗るか。
 ……傲慢にもほどがあるだろう”

 しかし”もてなしは不要”と突っぱねるのは
 あまりにも不躾だし角が立ってしまう。

「では、アイレン様はお一人で?」
 アヤハが心配そうに言うと、
「いいえ、お祝いにいらした方々と共にご案内いたします」
 と侍従長が答えた。

 アイレンはにこやかに言った。
「それでは後ほどお会いいたしましょう」

 レイオウ達は侍従長に案内されて去って行く。
 アイレンも別の侍従に導かれ、
 御殿の奥へと進もうとしたが。

「……まあ、困ったわね」
「本当に。あり得ませんわ」
 前方で数人の夫人が立ち止まっているのが見えた。

 彼女たちも付き人の入場は断られたらしく、
 それぞれが自分で荷物を持っている。
 高貴な夫人としてはそれが辛いらしく、
 ふさがった両手を大儀そうに伸ばしていた。

 アイレンは駆け寄り、声をかけた。
「良かったらお持ちしましょうか?」

 夫人たちはいっせいに振り向き、アイレンを見た。
「私、天満院 アイレンと申します」
 それを聞いた婦人方は、ああ、という顔になって笑った。
「このたび侍女に選ばれた方ね?
 まあ、こんなに可愛らしい方だったなんて」

 アイレンははにかみつつ答える。
「私などまだまだですが、
 力には自信がありますの。
 良かったらお荷物をおまかせくださいな」

 それを聞き、一人の夫人が助かった、という風に
「ありがとう! では、これをお願いできるかしら?」
 と手に持っていた紙袋を手渡す。

「もう一個、持てますかしら?」
「ええ、大丈夫です!」
 別の夫人からも預かるアイレン。

 その中で最も華やかな装いをした夫人は
 すこし迷って、自分のバッグをアイレンに渡した。
「贈り物のほうは、私が持ちますわ。
 壊れやすいものなんですの」

 アイレンはうなずき、バッグを受け取る。
 そして4人で奥へと進んで行った。

 その姿を、異常な緊張感で使用人たちは見つめている。

 案内された部屋に入ると、
 思わず感嘆の声がもれた。
「……まあ、すごい!」

 大きな部屋いっぱいに、
 たくさんの贈り物が置かれていたのだ。

 部屋の奥には祭壇のようなものがあり
 果物や宝飾品で祀られている。

 部屋の中で待っていた侍女が、声をかけてきた。
「お祝いの品やお荷物はこちらに置いてください」
 と、奥のテーブルを指し示す。

 皆が次々と荷物をのせると、
 侍女が祭壇の前で手招きしていた。 
「皆様、こちらをごらんください」

 4人が祭壇の前に集まると、
 彼女はうやうやしく頭を下げて述べた。
「これは世にも貴重な翡翠の勾玉でございます」

 そういって侍女は、祭壇の中央に飾られた勾玉を示した。
「まあ、なんという美しい緑でしょう!」
 夫人たちがほめそやし、ウットリと見とれている。

「翡翠は吉祥天の石。まさにぴったりですわね。
 健やかな成長を見守ってくださいますわ」
 アイレンがにこやかに言い、夫人たちもうなずく。
 しかし侍女は苦々しい顔で黙り込んだ。

 そしてアイレン以外の3人に向かい、
「まずは奥様が、皆さまにお会いしたいと望んでおられます。
 久しぶりに会えた学友同士だけでお話したい、と」
 つまりアイレン無しで、ということだ。

 そして他の三人を案内しながら、部屋を出て行く。
 戸口には先ほどの侍従長が立っており
 侍女と目を合わせ、うなずいた。

 侍従長はアイレンに向かって
「貴女はこちらでお待ちください」
 と叫んで、そのまま行ってしまう。

「あ、あの! ちょっとお尋ねしたいことが」
 アイレンは急いで追いかけた。
 それを侍従はあろうことか無視して、
 足早に去って行く。

 部屋の入り口で困惑するアイレン。

 しかし背後から、声をかける者がいた。
「どうかされましたか?」

 アイレンが振り返ると、年老いた侍女が立っていた。
 優し気だが、着ているものをみれば
 かなり上位の侍女のようだ。

 アイレンは自己紹介をした後、彼女に尋ねる。
「お生まれになった姫君には
 たしかお兄様がいらっしゃいますよね?」

 侍女は驚きつつも、笑顔でうなずく。
「ええ、ええ! いますとも。
 この家の嫡男、秀宝シュウホウ様です!」

 アイレンは安心したような顔で
「では、ぜひ秀宝シュウホウ様に……」
 と言いかけた時。

 廊下の奥から、幼い少年の声が聞こえたのだ。
「なあに? 僕のことを呼んだのは誰?」

 ーーーーーーーーーーーー

「……ですからね? やはり吉祥天の母親として
 最高級の衣でないといけないって。
 お父様が全て、買い替えてくださったの」
 丞相じょうしょうの娘が嬉々として語っている。

 それを先ほどの夫人たち3人は、
 不快さを必死に押し殺し、笑顔で聞いている。

 丞相じょうしょうの娘が待つ別室に案内された3人は
 学友としての再会を喜んだのもつかの間。

「ご出産、本当におめでとうございます」
 そう祝辞を述べる友人に、
 丞相じょうしょうの娘はわざとらしくため息をついて言う。

「もう、あまりにも多くの人にお祝いされてしまって。
 吉祥天の母ともなれば、この先も数多くの
 お礼の言葉も受けねばならないのでしょうねえ」

「あら、出産後だというのにお疲れですわね。
 ゆっくりお休みになってくださいませ」
 別の友人があわてて励ますと。

「そうもいきませんわ。
 だって、することがたくさんあるのですもの。
 見ましたでしょう? あのたくさんの贈り物。
 困りますわ、部屋に入りきらないくらいありますし」

「お礼状も、お祝い返しのご用意も大変ですわね」
 また別の夫人が苦笑いしながら言うが。

「それは別に必要ないでしょう?
 だって吉祥天の生誕を祝うのは当然のことですし。
 私が困るのは、玉石混合なことよ。
 吉祥天にはふさわしくない水準レベルのものも
 いくつか混ざっているから、嫌になりますわ」

 3人の夫人たちは、自分たちの贈り物も
 そのように言われるかと思うと、
 まずは心配になり……しだいに怒りが湧いてきた。

 その後も、丞相じょうしょうの娘は延々と
 愚痴に見せかけた自慢を語り続けた。
 それは久しぶりに会った友人相手に
 ただただマウントを取るためだけの独壇場だった。

 特に三人のうちの一人、
 もっとも華やかな装いをした夫人は
 丞相じょうしょう家と同じくらいの格があり
 学生時代から何かと張り合った仲だったのだ。

 丞相じょうしょうの娘が彼女に対し、
 ”自分が勝った! 完全勝利だ!”
 と思っているのは間違いなかった。

 3人はしだいに我慢が出来なくなってきた。
 ”いくらお祝いの場であり、
 吉祥天の転生を産み落とした功績があったとしても
 この言いぐさはあんまりではないか”

 限界に達した彼女たちが、
 おいとましようと声を出しかけた、その時。

 真っ青な顔で、侍女が部屋に駆け込んできたのだ。
 そして転がるように座り込み、悲痛な声で叫ぶ。

「盗まれたそうです!
 お祝いでいただいた、あの貴重な……
 ”翡翠の勾玉”が何者かに奪われました!」





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