愛言葉を贈らせて〜謎めいてる彼女の甘い罠〜

愛宮

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最終章『犬猫の攻防戦(全体視点)』

*9*攻守逆転①*

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結羽は、シマエナガのキーホルダーを掌に乗せ、亡くなっていた。
呼んだら目を覚まして、いつも通り「おはよう、お姉ちゃん」と笑顔で答えてくれそうな、穏やかな寝顔のまま。

結羽は、友人や身内に向けて、可愛い小鳥便箋で、手紙を残していた。
その中には勿論、結衣や結空の物もある。

『笑っててね、お姉ちゃん。それと、甘えたい時はちゃんと甘えなくちゃ駄目だよ。もし、お姉ちゃんに意地悪する奴がいたら、閻魔様にお願いして、地獄に落としす様、手配しておくからね』

結衣宛の手紙の一文。
つらつら三枚にも渡り、ユーモア溢れた結羽らしい言葉で、沢山、書き綴られていた。
可愛い妹からのラブレターは、結衣にとって、心強いお守りとなっている。


*****


シマエナガのキーホルダーを付けた鞄を持ちながら、結衣は家を出る。
最近、この瞬間に憂鬱さを感じてしまう。
それと言うのも。

「おはよう」

玄関を出れば、門の所に藤堂朔が待ち構えているからだ。
藤堂朔には、妹の頼み事とはいえ多少なりの負い目がある為、結衣もそう邪険には出来ず、適当に笑顔を見繕い応答する。

「おはようございます、藤堂君」

門を出て歩き出せば、朔も結衣に続いて、斜め後ろを付いて歩く。
その間、軽い世間話をする時もあれば、無言で静かな時間を過ごす時もある。

朔は双葉高校三年生に進学し、結衣は四葉女学園を卒業し、周りの強い推薦により五葉大学の特待生として通っている。
五葉大学は、将来世界を担う御曹司と御令嬢しか基本通える事の出来ないセレブ大学。
知識面は当然として、人の上に立つ物としての教養学や振る舞いを重視し叩き込まれる。
結衣はただ単に、学費免除の甘い誘いに釣られて入学したに過ぎないが。
新しい環境に合わせ、結衣は長かった髪を肩上まで切った。
ふわっとした癖毛が更にふわっとなってしまい、結衣は毎朝髪を落ち着かせるのに苦労している。

「大学どう?慣れた?」
「えぇ、それなりに。四葉女からの子が殆どだし、見知った顔ばかりでそこまで環境の変化に戸惑う事は余りないですよ」
「男子も居るんだろ?」
「それは、はい。色んなタイプの御曹司がいて面白いですよ。でも、口説かれ慣れてない私なので、ちょっと戸惑う事も多いですけど」
「くど、はぁ?」
「多分、御曹司の皆さんなので挨拶代わりなんだと思います」
「そうかな・・・」

朔は横目で結衣を見やる。
結衣がまだ杉原衣を演じていた時は、朔の視線にいち早く察知し無邪気な笑顔を返してくれていたが、今はそんな事はない。
涼やかな横顔のまま、結衣は朔の視線に気付かぬフリを通す。

「結衣」

朔が悪戯に名前を呼んで見れば、ジトリと不信感を隠そうとしない目が朔に向いた。

「鈴野結衣は、杉原衣と違って愛想が乏しくないですか?」
「杉原衣使用の私は忘れて下さい」
「あんなにしょっちゅう告白されてた相手を、忘れろって方が無理あるだろ。可愛かったよ、杉原衣さんは。惹かれた、好きになってたよ」

淡い声色で、朔はたぶらかす言葉を結衣へと伝える。
けれど。

「仕返しの嫌がらせのつもりですか?私は、藤堂君の事が苦手です。二度とくだらない戯れ事を口にしないで頂けます?」

まともに取り合う気はない、と言わんばかりに、結衣は平坦な態度を崩さない。

「へぇ、結衣がそれを言っちゃうんだ。戯れ事で、先に人の事を散々弄んでくれたのは、何処の誰でしたかね?」
「・・・さぁ、何処の誰だか検討も付きませんね」
「俺は、結羽が繋げてくれた結衣との出会いを手放すつもりはないよ」

それに、結衣に触れたいと感じる素直な気持ちを抑える事ももう、朔には出来ようもなかった。

「じゃ、またな」
「朝の出待ちはもうしないで下さいね」
「しょっちゅう待ち伏していた人に言われたくないよ」

別れ道。
結衣は一切足を止める事も、朔の方を見るでも無く、さっさと五葉大学への道を進んで行く。
朔も、結衣の後ろ姿を見送ったのち、双葉高校へと向かう。


.
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