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最終章『犬猫の攻防戦(全体視点)』
*13*猫の行方⑤*
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結衣と朔が新井家から遠退き、残された多駕がスマホを取り出すのと同タイミングで、転がっていた葉太郎がゲホゲホと咳き込みながら立ち上がる。
「・・・鈴野さんって強いんだね。いきなり僕の腹に蹴りを打ち込むなんてさ、少しじゃじゃ馬が過ぎるかな。僕の物にしたら、少し教育をしなくちゃ」
「黙れ」
先程までの優しい声とは打って変わり、低音で怒気の含んだ声を鳴らす多駕。
おまけに、殺意の満ちた冷酷な視線が葉太郎へと向けられる。
その威圧に一歩後退った葉太郎だったが、すぐさま持ち直し言い放つ。
「け、警察にでも言うつもりかい?無駄だよ。新井グループの力で直ぐに揉み消しになるだけさ。逆に僕が君達を暴行と不法侵入で訴えてやるよ。僕は好きな女の子を家に招いて口説いて居ただけで、僕に落ち度なんて一切ないんだ」
先程は結衣と朔が居た手前、怒りを抑えたが、もうその必要もないなと、多駕は葉太郎の顔面目掛けて、思い切り拳をめり込ませた。
鼻の向きが変わり、歯も何本か折れただろう。
「黙れって言ったよな。安心しろよ、元々警察の手を煩わせるつもりはない。結羽の宝物に手を出しておいて、法律なんて生優しい罰をお前に下す訳ないだろ。あの世でもこの世でも、お前に救いはねぇ、ただ地獄を味わえ」
顔を押さえ、見苦しい叫び声をあげながら床でバタつく葉太郎を尻目に、多駕は繋がりっぱなしになっているスマホに話し掛ける。
「色々助かった阿澄。新井家、噂通りやばそうだ、聞こえてたとは思うが、新井家の新事業の香水生産は中止した方が良いだろな。それと、馬鹿子息が二度と悪さ出来ないように、それ相応の処置を頼むわ」
スマホの向こうから「そのつもり」とだけ返され、通話が切れた。
葉太郎の煩い声が響く中、多駕は細かく千切られた紙を一枚一枚拾う。
*****
「結衣!」
玄関を開けるなり、涙を蒔き散らしながら結衣に飛びついて来た結空。
「もう、この子は!どんだけ心配したと思ってるの、怖かったんだからね」
「ごめんさい、結空ちゃん。ぐるじぃです」
結空は潰れんじゃないかと思う力で結衣を抱きしめている。
きっと今日は抱きつかれたまま離して貰えないだろうなと、結衣は心の中で苦笑する。
結衣は、家まで送ってくれた朔に目線をやる。
こちらもまた神妙な面持ちのままだ。
「あの、藤堂君、今日は巻き込んじゃって本当にごめんなさい」
「俺は、もっと巻き込んで欲しいよ」
「え?」
「今回俺は『結衣にもしも何かあったら』っと、焦って動揺するだけど、穂波一人で充分対処出来てた。俺は結局、迎えに行く事しか出来なかった」
結衣は、慌てた様に頭をブンブン振る。
「迎えに来てくれて、嬉しかったよ。それにね、藤堂君が抱き締めてくれた時、心から安心出来て『もう大丈夫』だと思えたの。嘘じゃないですよ」
「・・・そっか。少しでも、慰めになったのなら良かった。それでも努力する、結衣にもっと頼って貰える様に。今回の様な事が、二度と起こらない様に」
「まったく、結羽のワンちゃんはお利口さんなんですから。でも、私にまでそんな心配りしてくれる必要は有りません」
「好きな子に、頼りにされたいと思ってるだけだよ、出来れば誰より一番先にね、今はまだ難しそうだけど。明日、恋慕小岳の寺に来られるか?」
「・・・うん」
淡々と暗く沈んでいる口調の朔に、思わず了承してしまった。
頭では、朔との接触は最低限に留めるべきだと警報が鳴りっぱなしだと言うのに。
「じゃ、また明日、そこで。結空さんを泣かせるのも程々にな。おやすみ」
「おやすみなさい。送ってくれて、ありがとう」
「どういたしまして」
ゆっくりと扉が閉まり、朔の姿が見えなくなる。
.
「・・・鈴野さんって強いんだね。いきなり僕の腹に蹴りを打ち込むなんてさ、少しじゃじゃ馬が過ぎるかな。僕の物にしたら、少し教育をしなくちゃ」
「黙れ」
先程までの優しい声とは打って変わり、低音で怒気の含んだ声を鳴らす多駕。
おまけに、殺意の満ちた冷酷な視線が葉太郎へと向けられる。
その威圧に一歩後退った葉太郎だったが、すぐさま持ち直し言い放つ。
「け、警察にでも言うつもりかい?無駄だよ。新井グループの力で直ぐに揉み消しになるだけさ。逆に僕が君達を暴行と不法侵入で訴えてやるよ。僕は好きな女の子を家に招いて口説いて居ただけで、僕に落ち度なんて一切ないんだ」
先程は結衣と朔が居た手前、怒りを抑えたが、もうその必要もないなと、多駕は葉太郎の顔面目掛けて、思い切り拳をめり込ませた。
鼻の向きが変わり、歯も何本か折れただろう。
「黙れって言ったよな。安心しろよ、元々警察の手を煩わせるつもりはない。結羽の宝物に手を出しておいて、法律なんて生優しい罰をお前に下す訳ないだろ。あの世でもこの世でも、お前に救いはねぇ、ただ地獄を味わえ」
顔を押さえ、見苦しい叫び声をあげながら床でバタつく葉太郎を尻目に、多駕は繋がりっぱなしになっているスマホに話し掛ける。
「色々助かった阿澄。新井家、噂通りやばそうだ、聞こえてたとは思うが、新井家の新事業の香水生産は中止した方が良いだろな。それと、馬鹿子息が二度と悪さ出来ないように、それ相応の処置を頼むわ」
スマホの向こうから「そのつもり」とだけ返され、通話が切れた。
葉太郎の煩い声が響く中、多駕は細かく千切られた紙を一枚一枚拾う。
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「結衣!」
玄関を開けるなり、涙を蒔き散らしながら結衣に飛びついて来た結空。
「もう、この子は!どんだけ心配したと思ってるの、怖かったんだからね」
「ごめんさい、結空ちゃん。ぐるじぃです」
結空は潰れんじゃないかと思う力で結衣を抱きしめている。
きっと今日は抱きつかれたまま離して貰えないだろうなと、結衣は心の中で苦笑する。
結衣は、家まで送ってくれた朔に目線をやる。
こちらもまた神妙な面持ちのままだ。
「あの、藤堂君、今日は巻き込んじゃって本当にごめんなさい」
「俺は、もっと巻き込んで欲しいよ」
「え?」
「今回俺は『結衣にもしも何かあったら』っと、焦って動揺するだけど、穂波一人で充分対処出来てた。俺は結局、迎えに行く事しか出来なかった」
結衣は、慌てた様に頭をブンブン振る。
「迎えに来てくれて、嬉しかったよ。それにね、藤堂君が抱き締めてくれた時、心から安心出来て『もう大丈夫』だと思えたの。嘘じゃないですよ」
「・・・そっか。少しでも、慰めになったのなら良かった。それでも努力する、結衣にもっと頼って貰える様に。今回の様な事が、二度と起こらない様に」
「まったく、結羽のワンちゃんはお利口さんなんですから。でも、私にまでそんな心配りしてくれる必要は有りません」
「好きな子に、頼りにされたいと思ってるだけだよ、出来れば誰より一番先にね、今はまだ難しそうだけど。明日、恋慕小岳の寺に来られるか?」
「・・・うん」
淡々と暗く沈んでいる口調の朔に、思わず了承してしまった。
頭では、朔との接触は最低限に留めるべきだと警報が鳴りっぱなしだと言うのに。
「じゃ、また明日、そこで。結空さんを泣かせるのも程々にな。おやすみ」
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