『十人十色のラブストーリー』

小雨あい

文字の大きさ
2 / 11

君と貴女と(社会人、両片思い)

しおりを挟む
「おかえり、紗遊(さゆ)さん」

またコイツは勝手に・・・。
夜遅く仕事から帰ってみたら、ベランダに立っている男。
仕方なくベランダの鍵を開け、その男を不本意ながらも招き入れる。

「そろそろ不法侵入で訴えるわよ、巳継(みつぐ)君」
「俺だって素直に自分家帰りたいんだよ。でもさぁ、そうなると、俺の貞操がやばいと言うかさ」
「大丈夫よ、男の貴方が妊娠する事はないから」
「酷いです紗遊さん!」
「珈琲と紅茶、どっちがいい?」
「ココアがいいです」
「選択肢の中から選びなさいよ」

私はスーツの上着を脱ぎ、鞄と一緒に適当な場所に置く。巳継君は慣れたように私のベッドに寝ころんでいた。
お湯を沸くまでの間、自分用の珈琲とココアを準備する。

「今日も、泊まってくつもり?」
「そのつもり」

ため息が出てくる。
仮にも成人した男女が同じ部屋で・・・まぁ、それだけ私を異性として見てないって事なんだろうけど。

巳継君は私の二つ下で21歳。私と巳継君の共通点は同じマンションに住んでるって事ぐらい。私は二階で、巳継君は私の斜め上の部屋。
あの時、思わず声を掛けてしまった事がきっかけで、こんな奇妙な関係になってしまっている。

「貴方のストーカーさんの執念は見事なものね。そんなに何かに一生懸命になれるなんて少し羨ましいわ」
「人事だと思っていい加減な。俺には恐怖でしかない存在なんですけど」
「なら引っ越せばいい話でしょ。簡単じゃない」
「イヤだね。なんで俺がそんな逃げるような真似しなきゃなんないんだよ」
「意地張るのは結構だけど、私を巻き込まないで欲しいわね。はい、ココア」

もうすっかり巳継君専用になってしまったマグカップを渡す。微かに彼の指先に触れた。
冷たい。
いったい何時間、ベランダで私の帰りを待っていたんだが。
彼は嬉しそうにココアを飲んでいる。

「私、シャワー浴びてくるから」
「うん、いってらっしゃい」

巳継君を残し、バスルームに向かう。でも不意に足を止め、巳継君に指摘する。

「寝るならソファー使ってよ」
「はぁい」

返事だけは良いのよね。
私はそのまま汗を流しにバスルームへ。


*****



こんにゃろ。
バスルームから上がり、取りあえず目に入ったのは、私のベッドを占領している巳継君。
彼が着ていた服はきちんと畳まれソファーに置いてある。彼用のパジャマはマグカップ同様、部屋に常備済みだ。

「み~つ~ぐ君」
「・・・」

狸寝入りですか?

「私は何処で寝ればいいのよ」

すると、少し身じろぎ横にずれ、スペースを作って来た。
おいコラっ、全くコイツは。
仕方なく私がソファで寝ることにした。彼の服を退かして。

「・・・一緒に寝れば?」

眠たさと不服さが混じった巳継君の声。

「お馬鹿。出来る訳ないでしょ。常識を考えなさい常識を。ただでさえ、貴方がこの部屋に居る事さえ非常識なのに」
「俺の事は犬だと思えば無問題だよ」

平然と言ってのけてくれる。
私だって出来る事ならそう思いたいわよ。
思えないから困ってるんじゃない。

まぁ、巳継君にとって私は、只の便利な宿でしかないのよね。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...