世界征服より、今日のご飯

愛宮

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第三話【ほのぼのタイム】

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「・・・ねえ、勇者」 
「ん?」

魔王城の一室。
分厚な石壁に囲まれた客間、いや、もはや客間と呼ぶのもおかしい部屋で、女魔王ソフィは腕を組みながらベッドを見下ろしていた。
そこには、毛布にすっぽりと包まった勇者レオンが、まるで自分の家のように無防備な顔で転がっている。

「どうしてあんた、私の城で寝てるの」 
「ここ、日当たりいいんだよ」

朝の光が高い窓から差し込み、ベッドの上を温かく照らしている。
確かに、魔王城にしては珍しく、穏やかな場所だ。

「ねぇ勇者、あんた、油断し過ぎじゃない?此処が何処だか分かってる?」
「絶好の日向ぼっこポイント」

ソフィは思わず額を押さえた。
本来なら、剣を突きつけて追い出している相手。
侵入者。敵。討つべき存在。
それなのに。

「ソフィ、昼食は何食べたい?」

毛布から顔だけ出した勇者が、欠伸混じりに聞いてくる。

「・・・パンと」
「うん」 
「卵と」
「うん」 
「・・・甘いのも欲しい」
「了解」

レオンは伸びをしながら起き上がり、ベッドから降りる。
そして、迷宮と恐れられる魔王城の中でも、辿り着くのが一苦労な筈の地下キッチンへと、鼻歌交じりに向かって行った。


*****


夜。
勇者レオンは、魔王ソフィの私室に居た。

城の厳かな雰囲気とは違い、この部屋は魔王ソフィだけの、穏やかで優しい空間だった。
壁棚には古い魔道具や魔法書が並ぶ。

ソフィは柔らかなベッドに横たわり、小さく体を丸め、微かに荒い呼吸をしていた。

「・・・顔、赤いな」

勇者が近付き、そっと額に手を当てる。

「やっぱり熱あるな」
「見ないで、魔王の威厳が」

弱々しい声でそう言うものの、抵抗する腕には殆ど力が入っていない。

「威厳より体温だ」

勇者は苦笑しながらも、慣れた手つきで氷嚢を用意し、そっとソフィの額に乗せた。
ひんやりとした感触に、ソフィが小さく息を吐く。

「・・・冷たい」
「少し我慢しろ」
「ゆうしゃ、今日、優しいね」
「何時も優しいぞ、俺は」

ソフィは、ゆっくりと視線を向けて来る。
金色の瞳はとろんとして、焦点が合っていない。

「ゆうしゃ」
「どうした?」
「あのね・・・」

言葉を探すように、しばし沈黙が落ちる。
やがて、微かに動いた指先が、レオンの袖を摘んだ。

「今日は、ずっと、私のそばにいて?」

それは命令でも、威圧でもなかった。
熱に浮かされた、ただの素直なお願い。
勇者は一瞬、動きを止める。

「それ、魔王命令か?」
「だめ、なの?」

ソフィは瞳を潤ませ、微かに眉を寄せる。

「いなくなると、寒いのよ」

勇者は小さく息を吐き、袖を掴む指に自分の手を重ねた。

「最初から、どっかに行くつもりはないよ」

その言葉に、ソフィの唇が少し緩む。
身体はまだ熱い、でも心は何処かホっとした様な安心感を覚えていた。
やがて、少し無防備な寝息が聞こえ始める。
勇者は身じろぎせず、ソフィの傍で平和な夜を共に過ごすのだった。
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