世界征服より、今日のご飯

愛宮

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最終話【世界一手強い相手】

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女僧侶ルミナスは、一人で魔王城を訪れていた。
目的は、ただ一つ。

「勇者は、貴女に恋をしているわ」

穏やかな口調で告げられたその言葉に、魔王ソフィの瞳が大きく見開かれ、頬にさっと赤みが差す。

「なっ」

言葉にならない驚きと戸惑いが、全身を襲う。
だがルミナスは、一切躊躇わず続ける。

「そして、貴女も、勇者に心を寄せている」

ソフィの金色の瞳は泳ぎ、唇はわなわなと震えている。
気づけば顔は真っ赤で、本人だけが必死に否定している状態だった。

狼狽えつつも「っな、何を、根拠に?」と何とか声を絞り出す。
ルミナスは静かに頷き、確信に満ちた調子で事実を突き付ける。

「まず一つ。勇者が他の女性と話していると、凄い剣幕で睨み付けているわ。私も含め、魔王軍の女幹部全員が被害者よ。魔王なら、もう少しご自分の持つ威嚇を意識して。睨まれる側は本当に怖いんだから」
「・・・」 
「次に。勇者が城に居ない日は、侵攻計画が雑になるって、魔王軍参謀たちがボヤいていたわよ。仕事のやる気を、勇者の在・不在で左右されるの関心しないわね。侵攻計画が遅れる分には、こっちとしては有難いけど」 
「・・・」
「そして最後に」

ルミナスは、楽しげに微笑んだ。

「『勇者』と呼ぶ声が、甘く蕩けてる上に、勇者の前では、笑顔も格別に可愛く咲くわ。特別感が駄々洩れよ。魔王城内では密かに、魔王様の恋を見守る『ほのぼの部隊』なんてものまで結成されてるんだから」

衝撃だった。
自分がまさか、そんな腑抜けた事態になっていようとは。
突き付けられた事実に、ソフィはその場に立ち尽くし、身動きが取れなくなる。
その時。
扉が、静かに開いた。

「ただいま~。カボチャが安く手に入ったからさ、煮物にコロッケに、今日はカボチャ祭りだよ。あ、でもソフィがカボチャ苦手なら、別のを用意するからね」

両手に荷物を抱え、少し汗ばみながらも、にこやかに現れた勇者レオン。
彼の登場とともに、張り詰めていた空気が、ふわりと和らぐ。

「・・・カボチャは、好きだ」
「そっか、良かった」

ほっとした様に笑うレオンに、ルミナスも目を向ける。
幼馴染として、改めて驚かされる。
常に勇者としての仮面を被り、望まれる笑顔しかしてこなかったレオンが、自然に嬉しそうな表情を見せているのだ。

「お、ルミナスも来てたのか。何の話してたんだ?」 
「恋愛相談よ。魔王様があまりに無自覚だったから、少し助言をね」

そう言って、ルミナスはさらに笑みを深める。

「魔王様を倒すには、剣よりも愛が有効みたいね。さすが勇者レオン。幼馴染として、応援してるわ。頑張って」

レオンは苦笑混じりに、しかしどこか優しい表情で答えた。

「簡単に言うなよ。シンドラゴンよりも・・・世界で一番手強い相手なんだぞ、魔王ソフィは」

恋する勇者のおかげで、今日も世界は、平和な一日になりそうだ。



おしまい。



「ねぇ、勇者」
「何?」
「勇者って、私の事、好きなの?ルミナスが言ってた。そうなの?」
「・・・」
「?」
「俺は、無謀な勝負には出ないよ。下手に踏み込んで大怪我は御免だからね。まずは周到に罠を張り、逃げ道を塞いで、相手が戦意喪失になるまで待つ。それに案外、待ってる時間も楽しいものだしね」
「何を言ってるかよく分からんが、楽しいのなら、良かったな」
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