薄氷の上で燃える

第三章 四つの創家

場数の差-③

「叔父上のお時間を、私の親子関係のご相談で奪いたいわけではないの。今後、この国をより良く運営していくための協議の第一歩になればいいと思っているわ」
「よくそんなことが言えるものだ。お前たちはバルドバを滅ぼそうとしていたではないか。今さら北の兵力が惜しくなったか？」
「語弊がありますわ。お力添えをいただけるならもちろんありがたいですが、私は、どの民も分け隔てなく守られる国を目指したいのです。そのために……四家が真に支え合えるようにしたい」
「四家が？　ではローゼンタールが得ている利権を手放すということか？　それがなくなっては財政はなりゆかない。おい……王女様にはこんなことも説明しないといけないのか」

　バルドバ側から嘲るような笑いが起きる。

「無礼だぞ」

　シアーラはラダーシャの後ろに向けて声を上げた。ラダーシャはともかく、兵士ごときに王女を侮辱することを許してはならない。隊長のユェルフは、青白い顔で突っ立っているだけだった。
　ラダーシャの目がシアーラを見据えた。

「ああ……お前、シアーラといったか」
「は」

　頭を最敬礼の深さまで下げる。

「お前の顔を見て思い出したぞ、ナターナの件だ。勝手に土地の資産を売買されて、これではこそ泥と変わらん」
「叔父上、違いますわ、それは全て、民を救うため……」
「あぁ？　そんなことが命令書に書いてあるのか？ お前はありもしない取引の罪を被せて、勝手に貴重な資源を奪い取ったんだぞ」

　ぐっとファイネッテが言葉に詰まった。たが、ラダーシャの声に怒りはない。その目は冷静そのものだ。それに、ファイネッテが気づけるか。

(ここで折れてはなりません……！)

　シアーラは心の内で、両手を握り締めて祈った。

「どう落とし前をつけてもらうか……そうだな。取り急ぎ、売買益をこちらに渡すように命令を出してもらおうか、そうだ、それがいい」
「……その義務はないかと存じます。この国の王位継承者として、国全体のことを考え行った施策です。そう仰るなら、ナターナが得た利益についても考慮すべきではない、……かと」
「おぉ、お前も推測で物事を話すのか。それでよくこの場に立てたな。侮辱罪で裁判を行おうか」
「それは……」

　ここまで言葉の罠に引っ掛からず、細い糸の上をなんとか歩いていたファイネッテだったが、それもそこまでだった。何か言おうと口を開くが、それ以上言葉が出せない。