君の敵

なとみ

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第三章 真実

違う道-①

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『当時の患者が、うちを訴訟する準備を進めてるっていうタレコミがあって』

 山都病院長からその連絡が入った時、守屋|総一郎(そういちろう)が眉間の皺を深くしたのは、その話が予想外だったからではない。

「それでどうして私に連絡を?」
『え……いやいや、私だって当時おりませんでしたからね、守屋先生のお話を伺わんことにはと思いまして……。困りましたよ、まさか七年前の話をそんなふうに持ち出されても……』
「その話は当時の病院長と話がついている。先にそちらに確認をしてから連絡をいただくのが正しい順番では?」
『はぁ……いや、でも……』
「訴訟されるのはそちらでしょう。今の時点で私にできることはないと思うが」

 相手は意味のない言葉を繰り返すばかりで要領を得ない。
 すでに守屋は山都病院を離れて長い。
 当時は事後処理のためにいくつか直接手を打ったが、病院としてどのように対応するか決めるのは、当時も今も守屋ではない。
 この男はまずその話を耳にした時点で、当時の看護師なり現在病院に所属している医者に対してやることが山ほどあるはずだ。こちらを頼って連絡されても、彼が善意で手を貸すことはない。
 そこからもまだ、ゴールのない弱音は続いた。無責任ですよ、などと守屋を責める言葉も飛び出した。
 だがそれが彼の心を動かすことはない。

「こちらに連絡する前に、やるべきことがあるはずだ」

 守屋はそう言うと、さっさと見切りをつけて電話を切った。
 そう、これはあの時から予想しなかったことではない。
 だが、煩わしい。

 医者としての志は、人それぞれ異なるものだ。
 人間自体を愛し、その尊厳のある生を守るため闘う医者もいるが、当然、待遇の良さ、あるいは、自分の技術を高めることにやりがいを感じる者もいる。
 医者がみな人類への貢献のため日々その業務に従事していて欲しいというのは、医療の外にいる人間の理想であり、そうあって欲しいという祈りにすぎない。
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