君の敵

なとみ

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第三章 真実

空振り-①

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「反応は悪くない」
「……そうですね」

 木佐のマンションで、二人はタブレットを覗き込み、拡散されるネットニュースを確認していた。
 ほとんどがコピー&ペーストされているであろう、似たような文面のものばかりだ。それがいくつも検索結果に上がる。
 あの会見の後、反響に気づいた国内のメディアから次々と取材の申し込みがあり、木佐はその対応に追われた。そして今、それを後追いしたネットニュースが画面を覆っている。
 だが、それだけでは弱い。
 柚琉はちらりと隣の木佐の顔を見た。
 その口周りには無精ひげが生えてきている。

 一旦の取材の波が落ち着いてはいるものの、今簡単に外に出られる状況ではない。
 そして木佐は、東城病院からほぼ解雇を言い渡されている状態にあった。一言受け入れれば話はすぐに進むだろう。そればかりか山都病院からは、名誉棄損で訴えるという連絡も入っている。
 ふー、と木佐は天井を仰いだ。

「連絡、来てないよね」
「はい。高梨さんのところも」

 二人の間を、重い空気が支配する。
 柚琉が言えなかった言葉を、木佐が口にした。

「タイミングは、逃した」
「いや、まだ……」
「慰めはいいよ」

 柚琉は言葉を飲み込んだ。

 この、ニュースが最高潮に盛り上がるタイミング。
 繰り返される同じ報道に、すぐに視聴者は飽きる。本来はこのタイミングでもう一段階、強い火をつける必要があった。

 二人が狙っていたように、『同じ医者の手術を受けて、その経過に疑問がある患者がほかにもいたらしい』だとか。
 もしそれができれば、注目度が上がる。それに、ネットで拡散のボタンを押した画面の向こうの一人一人に、「自分たちが拡散したおかげで真実に近づいた」という一体感を持たせることができる。
 そうなれば、この波に乗れた。流れを変えられた。

 だが、やはり、あまりに運に賭けすぎていたのだ。

 木佐は眉間を揉む。

「粛々と、訴訟を進めるしかないな……」

 それは、彼らにとって勝ち目のある闘いとは言えなかった。さらに、そのために何年も何年も時間をかけることになる。

「先生……」

 ここから何年も、彼は奥に引きこもった生活を送ることになるのだろうか。
 手術の技術も落ち、働き盛りで様々なことを吸収できるはずの時期を、ただ無駄に過ごす。その間に医療は彼を置いて、日々発展を続けるだろう。

「……ごめん、ちょっと部屋に行くね」

 顔を見られたくないのだろう。
 柚琉はそう言って自室に入っていく木佐を、見送ることしかできなかった。
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