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使用人としての生活が始まって、一週間が経過した。
その日、私は庭の掃除を任されていた。
クロエも一緒に掃除をしていたが、サマンサに呼ばれて屋敷の中に消えていく。
「ふぅ」
空を見上げると、雲一つない快晴だった。
まだ昼過ぎの時間帯で過ごすには心地よい。
風がふんわりと流れていて、それに酔うようについつい掃除の手が止まってしまう。
「あ、いけない」
気を持ち直して掃除に戻った。
その時だった。
「アリア、来週は君の誕生日だろう。盛大に祝わせてくれ。去年よりも豪華なプレゼントを用意しよう」
「お父様、私はもう子供じゃないのです。誕生日プレゼントなんて、もういりません」
「何をいうんだ。私から見たら十九歳はまだ子供だよ。遠慮せずに私に甘えない」
楽し気な親子の会話が聞こえてきた。
少し聞いただけでも声の主は分かる。
私の元親友のアリアと、彼女の父親だ。
恐る恐る顔を上げてみると、門近くに止まった馬車から、二人がこちらへ歩いてきていた。
静かな時間が、緊張したものへと変貌していく。
「いい機会ですから、お父様は子離れを覚えてください。私だってずっとここにいるわけではないのですよ」
「え? まさか家を出て行くつもりなのか?」
「その可能性もあるということです。まあいつになるか分かりませんが」
「せめて一年、いや、五年はここにいてくれ」
アリアがふざけたように笑った。
もう何回も聞いたことのある、私の好きだった笑い方。
大らかな性格の彼女は、いつでも私を励ましてくれたっけ。
一瞬逃げようかと思った。
幸運なことに庭は広い、屋敷の入り口への通り道をこのまま掃除している理由はあまりない。
後でやってもいいはずだ。
だが、私の足は恐怖で動かなかった。
ガタガタとほうきを揺らしながら、一生懸命に地面を掃除するフリをしていた。
カツカツと二人の足音が迫る。
「あら」
足音がピタリと止まった。
背後に人の気配がする。
私は地面から目を離して、背後に向けた。
「アリア……ひ、久しぶりね……」
「エミリア……」
アリアが何かを言おうとした時、彼女の父が遮った。
「うちの娘に何か用かな、元親友君」
彼は娘を守るように、私とアリアの間に立ちふさがる。
「い、いえ……」
「ふん。アリアがどうしてもというから使用人をやらせているが、今度アリアに近づいてみろ。ただじゃおかないからな。いくぞ、アリア」
「……はい、お父様」
カツカツ……足音が消えるまで、私の震えは収まらなかった。
入れ違いにクロエが私に駆け寄ってくる。
「エミリアさん……どうしたの? 大丈夫? 凄い汗だよ」
「だ、大丈夫です」
私は慌てて愛想笑いを浮かべると、何かを振り払うように掃除に取り掛かった。
その日、私は庭の掃除を任されていた。
クロエも一緒に掃除をしていたが、サマンサに呼ばれて屋敷の中に消えていく。
「ふぅ」
空を見上げると、雲一つない快晴だった。
まだ昼過ぎの時間帯で過ごすには心地よい。
風がふんわりと流れていて、それに酔うようについつい掃除の手が止まってしまう。
「あ、いけない」
気を持ち直して掃除に戻った。
その時だった。
「アリア、来週は君の誕生日だろう。盛大に祝わせてくれ。去年よりも豪華なプレゼントを用意しよう」
「お父様、私はもう子供じゃないのです。誕生日プレゼントなんて、もういりません」
「何をいうんだ。私から見たら十九歳はまだ子供だよ。遠慮せずに私に甘えない」
楽し気な親子の会話が聞こえてきた。
少し聞いただけでも声の主は分かる。
私の元親友のアリアと、彼女の父親だ。
恐る恐る顔を上げてみると、門近くに止まった馬車から、二人がこちらへ歩いてきていた。
静かな時間が、緊張したものへと変貌していく。
「いい機会ですから、お父様は子離れを覚えてください。私だってずっとここにいるわけではないのですよ」
「え? まさか家を出て行くつもりなのか?」
「その可能性もあるということです。まあいつになるか分かりませんが」
「せめて一年、いや、五年はここにいてくれ」
アリアがふざけたように笑った。
もう何回も聞いたことのある、私の好きだった笑い方。
大らかな性格の彼女は、いつでも私を励ましてくれたっけ。
一瞬逃げようかと思った。
幸運なことに庭は広い、屋敷の入り口への通り道をこのまま掃除している理由はあまりない。
後でやってもいいはずだ。
だが、私の足は恐怖で動かなかった。
ガタガタとほうきを揺らしながら、一生懸命に地面を掃除するフリをしていた。
カツカツと二人の足音が迫る。
「あら」
足音がピタリと止まった。
背後に人の気配がする。
私は地面から目を離して、背後に向けた。
「アリア……ひ、久しぶりね……」
「エミリア……」
アリアが何かを言おうとした時、彼女の父が遮った。
「うちの娘に何か用かな、元親友君」
彼は娘を守るように、私とアリアの間に立ちふさがる。
「い、いえ……」
「ふん。アリアがどうしてもというから使用人をやらせているが、今度アリアに近づいてみろ。ただじゃおかないからな。いくぞ、アリア」
「……はい、お父様」
カツカツ……足音が消えるまで、私の震えは収まらなかった。
入れ違いにクロエが私に駆け寄ってくる。
「エミリアさん……どうしたの? 大丈夫? 凄い汗だよ」
「だ、大丈夫です」
私は慌てて愛想笑いを浮かべると、何かを振り払うように掃除に取り掛かった。
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