婚約七年目、愛する人と親友に裏切られました。

テンテン

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使用人としての人生が始まり、ついに一か月が経過した。
ここ一か月はとても忙しく、体中が筋肉痛になり、加えて使用人長のサマンサに度々怒られ、本当に……本当に本当に本当に! 大変だった。

しかし。
そのかいあってか、私は徐々にだがオーデン家になじみつつあった。
オーデン家の使用人たちは所作こそ洗練されているものの、心は少女のように純粋で、指導係であるクロエは特に私に世話を焼いてくれた。

「エミリアさん、何か嬉しいことでもあった?」

いつものように廊下を一緒に掃除していると、クロエが微笑みかける。
私は少しだけ恥ずかしくなりながら、訳を説明した。

「そう……よかった」

クロエはそれだけ言うと、顔を私から背けた。
ほうきがいつもより早く動いている様子から、彼女も私のように喜んでいるのが分かる。
それがたまらなく嬉しくて、私のほうきもスピードを増した。

その夜、夕食を手に私は部屋に戻った。
ふぅっと息を吐きながら椅子に腰を下ろして、食事を始める。
が、一口食べたところで、扉が規則的なリズムで叩かれた。

こんな律義なノックをするのは、一人しかいない。
サマンサだ。
案の定彼女が扉を開けて入ってくる。

「……エミリア。あなたに話があります」

「は、はい……」

うんざりした気持ちになりながら食事の手を止めると、私は立ち上がった。
サマンサはため息交じりに言葉を続ける。

「ここ一か月間、あなたのことを見てきましたが、正直がっかりです」

「……え?」

今日のサマンサにはいつもの勢いはない。
しかしその静かな叱責が、逆に私を不安にさせた。

「エミリア。あなたは元々男爵令嬢であった身。使用人の務めが果たせるのかと不安でしたが、ここまで酷いとは思いませんでした」

サマンサはそう言うが、心当たりはなかった。
クロエに教えてもらいながら、私なりに一生懸命にやってきた。
掃除も洗濯も、やり残しやミスはしていない。
クロエだって、最後にチェックをしてくれているし、大事になるようなことは何もないはず……。

だが、その確信を打ち消すように、サマンサの眼が鋭さを増す。

「掃除から洗濯、食事の支度まで何もかもが甘すぎます! 夕刻の裏庭の掃除は本当にやったのですか!? 今確認したらゴミが散乱して酷い有様でしたよ!」

「ゴミが散乱!? い、いやちょっと待ってください。私が掃除した時にはそのような状態ではありませんでした。掃除の後に誰かが……」

「この屋敷の者を疑うのですか! それは使用人としてあるまじき行為ですよ!」

「し、しかし……」

言葉を紡ごうとするも、サマンサにキッと睨みつけられる。
私は言葉を飲みこむと、ざわざわした気持ちのまま、頭を下げた。

「も、申し訳ありませんでした……今すぐ掃除してきます」

「結構です。あなたの失敗は指導係であるクロエの失敗です。彼女に任せます」

そんな……!
ぶわっと罪悪感が全身に立ち込める。

「エミリア、覚えておきなさい。あなたはオーデン家の使用人なのですよ」

サマンサはそう言うと、綺麗な所作で部屋を去っていった。

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